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「3つの話題から振り返る今年のアニメ映画」(くらし☆解説)

名越 章浩  解説委員

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日本映画が世界に誇るアニメ。
ことしのアニメ界の3つの大きなニュースから課題や未来が見えてきます。
(名越章浩 解説委員)

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【ことしのアニメ界の3つの話題】

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その3つの話題を、「名監督の引退撤回」「異例のロングラン」「最高賞作品は”働き方改革”で」というキーワードで見ていきましょう。

まず、この名監督の引退撤回というのは、「となりのトトロ」や「千と千尋の神隠し」などの作品で知られる宮崎駿監督のことです。
4年前に長編映画の製作から引退しましたが、ことし5月、引退を撤回して長編アニメーション映画を作り始めたことを、スタジオジブリが公式ホームページで発表しました。

【引退を撤回の経緯】
どんな事情があったのでしょうか。
去年の夏、宮崎さんが、スタジオジブリの代表取締役で、映画プロデューサーの鈴木敏夫さんのところへ来て、20分の絵コンテを描いたので、見て欲しいと突然言い出したそうです。
実は、スタジオジブリは、すでに映画の製作部門を解散していました。
ですから、鈴木プロデューサーも、この発言にはかなり驚いたそうです。

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期待と不安の入り交じった気持ちで絵コンテを見ました。
ところが、いつのまにか夢中になっていたそうで、鈴木さんは製作に同意したということです。

新作は、宮崎作品の代名詞とも言える「冒険モノ」の作品になりそうです。
公開の時期は未定ですが、宮崎監督の作品は緻密な手描きの作品で世界的にも評価が高く、しかも出した作品は必ずヒットするというほど、世代を超えたファンがいますので、その作品の行方は来年以降の映画界を牽引するほどの大きな話題になりそうです。

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【異例のロングラン】
次に異例のロングランについて、説明しましょう。

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その映画とは、片渕須直監督の「この世界の片隅に」です。
舞台は太平洋戦争末期の広島県呉市。主人公の女性はごく普通の市民で、嫁ぎ先などでの日常のほか、生活の中に、戦争がじわりじわりと入り込み、幸せを奪っていく様子が描かれた、こうの史代さんの漫画が原作の作品です。

去年の11月に、全国63の映画館という小規模な公開でスタートしましたが、すぐに人気に火がつきました。
配給元の東京テアトルによりますと、これまでに390以上の映画館で上映。1年以上たった今も、各地で上映が続く異例のロングランとなっています。

【人気の背景に”応援団”】
ロングランとなった背景については、いろんな理由が重なっています。
そのうちの1つが、いわば応援団のような人たちの存在です。人気を後押ししました。

映画界では、作家性の強い作品は、なかなかスポンサーがつかず、製作資金が集まらないという課題があるのですが、この映画の場合、クラウドファンディングといってインターネットサイトを通じて、協力者を募り、必要な資金を集める手法を取り入れました。
集まった資金は、3900万円あまり。
これは全製作費用の6分の1ほどだったのですが、この資金で、5分ほどの映像作品を作って協力者に見てもらったところ、これが感動を呼びました。
まるで応援団のようになり、口コミで評判が広がり、スポンサーなどがつくようになったということです。

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もちろん、応援してくれる人を得るためには、作品の質が良いことが大前提になりますが、良い作品なのに資金不足のために世に出せないというジレンマは、この作品をモデルに、今後、減っていくかもしれません。
そういう意味で、映画製作の資金面での可能性を広げた作品になったと思います。

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【最高賞作品は”働き方改革”で】

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では、ことしを振り返る3つ目の話題、最高賞作品は”働き方改革”で、について説明しましょう。

アニメ界でもっとも歴史のあるフランスの「アヌシー国際アニメ映画祭」で、日本の作品が長編部門の最高賞を22年ぶりに受賞しました。

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湯浅政明監督の「夜明け告げるルーのうた」という作品です。
この映画は、両親の離婚に伴って寂れた港町に引っ越してきた男子中学生が主人公。
人魚の女の子と出会うことで、それまで他人に対して閉ざしていた心を徐々に開いていく姿を描いた物語です。

この作品の”働き方改革”というのは、作り方に工夫があって、それが働き方改革につながるといわれているからです。
というのも、通常アニメは、少しずつ違う絵を重ねることでキャラクターを動かします。
30分の作品には3,000枚以上の絵が必要だといわれています。
それだけの絵を描くアニメーターの長時間労働は、いま、業界の課題になっています。

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【支えたデジタル技術】
「夜明け告げるルーのうた」の場合は、全編「FLASH」というコンピューターソフトで製作し、省力化できています。

分かりやすいように、「くらし☆解説」のイラストを制作している会社に、ごく簡単なアニメを作ってもらいました。

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例えば、「みみちゃん(解説委員室のマスコット)」をモデルに動かす場合、基本となる絵は描かないといけませんが、後は動き出す最初の位置と、移動し終わる最後の位置を決めればOKです。
動く途中の絵を何枚も書く必要はないのです。
また、翼や目など、パーツごとの動きを指示してやることで複雑な動きも可能です。

この技術そのものは従来からあり、市販もされています。
この映画がすごいのは、こうしたデジタル技術を使って、通常の3分の1ほどの人数で作っているという点と、それでいて世界のトップを獲るほどのクオリティーを実現できているという点です。

もちろん、アニメーターの労働環境の問題は、請け負い単価が低いなど、これだけでは解決できない根深い問題はあります。
しかし、この作品のような製作手法が世界で十分通じることを証明したことには大きな意義があると思います。

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日本のテレビアニメも含めたアニメ産業の市場規模は、今や2兆円にのぼるといわれています。
来年以降も世界に誇れる作品を生み出し続けることができるか、そのヒントが、ことしの映画界にあったと思います。

(名越 章浩 解説委員)


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