2017年は多くの素晴らしい音楽が生まれた一方で、アメリカの大統領にドナルド・トランプが就任するなど、激動の1年でもあった。そうした世界に対し、2017年1月1日にアルバム『Reflections』を発表したブライアン・イーノは、新年のメッセージとしてフェイスブックに長文を投稿した。その内容はトランプだけでなく、経済格差、労働問題、イデオロギーなど、いま世界が抱える様々な問題を批判するものだった。
2017年の音楽シーンは、そんなイーノと似た問題意識を持つ作品が多く見られた。たとえば、イギリス出身のシンガーソングライターであるキング・クルールは、セカンド・アルバム『The Ooz』収録の「Half Man Half Shark」で、〈手と手を取り合うのさえ難しくさせている この国では〉と歌うなど、世知辛い世情が反映された言葉を紡いでいる。他にもロイル・カーナー、ラット・ボーイ、デクラン・マッケンナ、インヘヴンといった新世代のアーティストが、世情に対する怒りと哀しみが漂うアルバムを発表し、話題を集めた。一方で、エミネムは「The Storm」というフリースタイル・ラップでトランプとその支持者を痛烈に批判し、バッドバッドノットグッドは「Lavender(Nightfall Remix)」のMVで明確に反トランプを打ちだした。このように、世代やジャンルを越えて世界情勢に対する批判精神が目立ったのは、2017年の音楽シーンの特徴と言える。
この流れと共振する形で、差別や偏見といったアイデンティティーに関する事柄を取りあげた作品が多かったのも見逃せない。イベイーは、セカンド・アルバム『Ash』で女性性や差別といった問題を果敢に掘りさげ自らの内面を曝けだし、1960年代に活躍したトランスジェンダーのソウル歌手ジャッキー・シェインの音源を集めた『Any Other Way』がリリースされるというニュースもあった。こうした動きの背景にあるのは、トランプを筆頭とした排斥的な姿勢が忍び寄る世界で生きる不安なのは言うまでもない。その不安に立ち向かうため、自らの存在と立ち位置を明確にした音楽が求められる傾向は、来年も続くだろう。
日本では、去年フジロックに対して「音楽に政治を持ちこむな!」というコップの中の嵐みたいな意見も寄せられるなど、音楽に何かしらの主張や意見を込めることに対する忌避感が根強い。しかしコップの外側では、切実な想いを込めた主張だらけの音楽が増えている。
近藤真弥