韓国外務省の作業部会が旧日本軍の従軍慰安婦問題をめぐる日韓政府間合意に関し、交渉過程などを検証した報告書の要旨は次の通り。
【合意の経緯】
(1)局長級協議前
2013年2月に発足した朴槿恵政権は、日本側を説得して誠意ある措置を引き出す方針を立てたが、慰安婦問題を含む歴史認識に関する両国首脳の見解の相違のため、特段の進展はなかった。
(2)局長級協議
局長級協議は14年4月16日から15年12月28日の合意発表前日まで、12回開かれ、非公開協議もあった。
(3)高官協議を通じた合意
一、韓国政府は14年末、こう着状態を脱するため、高官協議の並行推進方針を決め、交渉の中心は非公開高官協議に移った。日本側が国家安全保障会議の事務局長を代表に立てたことから、韓国側は大統領の指示で、李丙※(※王ヘンに其)国家情報院長(当時)が代表を務めた。
一、第1回非公開協議は15年2月に開かれ、12月28日の合意発表直前まで8回開かれた。
一、日本側は、第1回非公開協議で、日本側が取る措置とともに「最終的かつ不可逆的な」解決確認、日本大使館前の少女像問題解決、国際社会での非難・批判自制など韓国側が取る措置を提示。日本側は公開部分と非公開部分に分けて合意に含めることを希望した。
一、15年4月11日、第4回協議で大部分の争点で妥結し、暫定的に合意した。
一、15年11月1日にソウルで開かれた韓日中3カ国首脳会談は、中断されていた協議再開の契機となり、2日の韓日首脳会談で、国交正常化50周年という点を勘案し、できるだけ早く妥結させることで一致、朴大統領は年内の妥結を強く求め、同年12月23日、第8回協議で最終妥結した。
一、韓日外相は28日、ソウルで会談し、内容を確認し、共同記者会見で発表した。両国首脳は電話会談で合意内容を確認した。
一、最終合意は、第三国の記念碑・像、少女像の部分が一部修正されたことを除き、暫定合意と同一の内容。
【合意の評価】
(1)公開部分
(ア)日本政府の責任
「法的」責任や責任認定という言葉は引き出せず、韓国側は被害者訪問などを求めたが、合意に盛り込めなかった。
(イ)日本政府の謝罪
韓国側は不可逆的な「閣議決定」形態の謝罪を要求したが、実現しなかった。
(ウ)日本政府の金銭的措置
一、日本側は財団への出資の性格が法的責任による賠償ではないと主張。一部被害者らは賠償ではないため受け取れないと表明している。被害者の立場からすれば、責任問題が完全に解消しない限り、金銭を受領しても問題の根本的解決にならない。
一、10億円は客観的な算定基準によるものではなく、被害者の意見集約の記録は見つからなかった。
(エ)最終的かつ不可逆的な解決
一、「不可逆的」という表現は、15年1月の第6回局長級協議で韓国側がまず、使用した。韓国側は日本の首相の公式謝罪について、不可逆性を担保するため、閣議決定を経た首相の謝罪表明を求めた。
一、日本側は局長級協議で「最終的な解決」を要求、韓国側が謝罪の不可逆性の必要性に言及した直後、非公開の第1回高官協議から「最終的」に加え「不可逆的」解決を要求した。
一、15年4月の第4回高官協議で、日本側の要求が反映された合意に至った。合意では「謝罪」の不可逆性を強調した韓国側の趣旨とは異なり、「解決」の不可逆性を意味する脈絡に変わった。
一、韓国外務省は「不可逆的」という表現は国内で反発が予想され、削除が必要と意見を大統領府に伝達した。しかし、大統領府は「不可逆的」の効果は「責任」「謝罪」を表明した日本側にも作用し得るという理由で受け入れなかった。
(オ)少女像
一、合意内容は、両外相が共同記者会見で発表した部分と、発表しない部分があり、少女像問題は両方に含まれた。
一、応答形式の非公開部分で日本側は「今回の発表により慰安婦問題は最終的かつ不可逆的に解決され「韓国挺身(ていしん)隊問題対策協議会(挺対協)」などの団体が不満を表明した場合でも、韓国政府としては同調せず、説得するよう望む。少女像をどのように移転するか、具体的な韓国政府の計画を聞きたい」と言及した。
一、これに対し、韓国側は「韓国政府は日本政府が少女像について、憂慮している点を認知し、韓国政府としても可能な対応に関し、関連団体などとの協議を通じ、適切に解決されるよう努力する」と答えた。
一、少女像は民間団体が設置したため、政府が関与して撤去するのは難しいと主張してきたにもかかわらず、韓国側はこれを合意内容に含めた。
(カ)国際社会での非難・批判の自制
一、韓国側は慰安婦問題が解決されれば、自然に解決すると主張、日本側は合意内容に含めるべきだと求めた。韓国側は「日本政府が表明した措置の誠実な実施」を前提に、批判・非難を「相互」に自制することに同意した。
一、大統領府は合意以降、外務省に対し、国際舞台で慰安婦関連の発言をしないよう指示し、合意を通じ、慰安婦問題を提起しないことを約束したかのような誤解を招いた。
(2)非公開部分
一、合意には外相の共同記者会見での発表内容以外に、非公開部分があった。この方式は日本側の希望により、高官協議で決定された。
一、日本側は(1)今回の発表により慰安婦問題は最終的かつ不可逆的に解決され、挺対協など団体が不満を表明する場合にも、韓国政府としては同調せず、説得するよう望む。少女像をどのように移転するか、具体的な韓国政府の計画を聞きたいと言及(2)第三国における慰安婦関連の像・碑の設置に対しては、このような動きは諸外国で各民族が平和と調和の中で共存を希望する中で、適切でないと考える(3)韓国政府は今後、「性奴隷」という単語を使用しないよう希望する-と指摘した。
一、これに対し、韓国側は(1)韓国政府は日本政府が少女像について、憂慮している点を認識し、韓国政府としても可能な対応に関し、関連団体などとの協議を通じ、適切に解決されるよう努力する(2)第三国の碑・像については、韓国政府が関与することではないが、今回の発表により、韓国政府としても、このような動きを支援せず、韓日関係が健全に発展するよう努力する(3)問題の公式名称は「日本軍慰安婦被害者問題」のみであることを改めて確認する-と応じた。
【結論】
一、協議過程で、被害者の意見を集約しないまま、政府の立場を中心に合意をまとめた。被害者らが受け入れない限り「最終的かつ不可逆的な解決」を宣言したとしても、再燃するしかない。
一、朴大統領は「慰安婦問題での進展のないまま、首脳会談は不可能」と強調し、韓日関係を悪化させた。国際環境の変化を受け、「15年内の交渉終結」方針に転換し、政策の混乱を招いた。
一、高官協議は一貫して秘密交渉の形で進められ、発表された合意内容以外、韓国側に負担になり得る内容を公開しなかった。
一、大統領と交渉責任者、外務省の間の意思疎通が不足し、修正・補完するシステムが機能しなかった。(ソウル時事)。
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