2017-12-27 晴れ
■[適正技術]原子力ゾンビ国家ニッポン

先日、NHKで「脱炭素革命の衝撃」という番組が放映されました。
https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017082982SC000/
パリ協定発効から世界の動きが大きく変化し、脱炭素(CO2)≒再生可能エネルギー(再エネ)市場の拡大が進み、今や脱炭素を目標としない企業は投資先にも選ばれない、という“衝撃”的な内容でした。とりわけ、日本は先進的技術を保有していながら、人々の(とりわけ政府の)認識が遅れているために、自己の認識とは異なり、世界の趨勢から取り残されていることが示唆されます。
ですが私が驚いたのは、ネットにおけるこの番組に関する関心の薄さ、というか無関心を装った態度です。
例えばはてなブックマークだと2つしか反応がありません。はてなブックマークでは「再生可能エネルギー」に関してネガティブなネタには極めて多くのブクマが付きますが、世界の趨勢を示すような記事には大した数の反応がありません。現実から目をそらすのが好きな方が多いようです。
twitterで検索して見ると、そこそこリアクションがありますが、こちらではNHKに対して「偏っている!」的なコメントを見る事が出来ます。思わず笑ってしまいました。
なぜなら、NHKだけでなく、すでに日経新聞も、日刊工業新聞もこのネタを取り上げているからです。
脱CO2、先頭から脱落 環境後進国ニッポン 再生エネ普及で差
地球温暖化対策を評価する複数の指標で、日本は数値の悪化が止まらない。世界で急激に進むパラダイムシフトから取り残され、太陽光や風力といった再生可能エネルギーの普及や産業構造の転換が遅れているからだ。優れた省エネ技術や公害対策などで「環境先進国」といわれた日本の自画像は大きく揺らいでいる。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO21864180U7A001C1SHA000/
【再生エネ後進国・日本#01】“生態文明”掲げリーダーに躍り出た中国
日本は再生可能エネルギー後進国なのか―。最近、このような論調が目に付く。化石資源に依存しない“脱炭素”社会を目指す「パリ協定」が2015年末に採択されると世界各地で再生エネの導入が加速され、中国が再生エネのリーダーとなった。対照的に日本では再生エネの弱点ばかり指摘され、世界から取り残されはじめた。日本の再生エネ大量導入の道筋を探る。
国際エネルギー機関(IEA)でさえ、世界的に再エネ拡大が進んでおり、特に中国が「再生エネで疑いなく世界を主導している」と述べています*1。手前みそで申し訳ありませんが、私も数年前から同様のエントリーを載せております。
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20150906/1441513698
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20150909/1441799763
どの記事でも同じです。日本政府が本腰を入れて再エネ導入を大幅に拡大する方針を立てないことが、(日本における)再エネのコスト低下を阻み、普及が進まないことを指摘しています。というか、どちらかというと、日本政府(や電力会社)は再エネをオミットしているフシが見受けられます。
送電線に「空容量」は本当にないのか?
http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/occasionalpapers/occasionalpapersno45
世界の趨勢においては、すでに再エネのコストは石炭火力を下回り、太陽光発電と風力発電がコスト安を争っている状況です。原子力はまったく太刀打ち出来ていません。
英への原発輸出「政府支援を」 出資集まらなければ中止も 日立社長
https://www.asahi.com/articles/DA3S13279736.html
東芝を潰しかけたのがアメリカでの原子力事業であるのは既に知られているところですが、日立もイギリスでババを引かされかけています。日本政府はこの原子力事業に債務保証を付ける方針です。原子力は海外では不良資産扱いなのですね。
(前略)関電は今回、原子力規制委員会の審査をクリアして運転を最長20年延ばしても安全対策費がふくらみ、採算が合わないと判断した。
2基の炉は特殊な構造をしており、安全対策が技術面でも難しいとされる。安全対策費は1基2千億円ほどにふくらむ見通しだった。(後略)
https://www.asahi.com/articles/ASKDP61Y5KDPPLFA00M.html
安全措置に掛かる費用を考慮したら、“割に合わない”から、だそうです。40年超(60年)の運転で割に合わない、ということは、いわゆる“原子力は安い”の根拠が崩れていることを示しています。原発のコストは40年の運転で計算されています*2。それが60年まで延ばしても割に合わない、とすれば実態は計算根拠に合致していないのです。
原電も潰れかけています。
https://www.asahi.com/articles/DA3S13288210.html
各電力会社等からの助力が無い限り原電は潰れるでしょう。各電力会社も金を出すことには消極的で、政府の助力を望んでいます。
以前、再エネに関して
the_sun_also_rises 自由競争により再生可能エネルギーが他を上回るなら誰も反対しない。僕らは人為的な相場の無駄を指摘しているだけ。今は人為的に供給率を上げている。その状況と人為的な操作が切れた状況を混同して議論しても無意味
http://b.hatena.ne.jp/entry/265107079/comment/the_sun_also_rises
と書いていた人がいましたが、現在、息をしてますでしょうか?
それでも政府は原子力の維持も低めの再エネ導入目標も撤回する様子はありません。もはや、自分達が死んでいるのにも気付かない「原子力ゾンビ」とでもいう状態です。
ただ、現実は容赦なく迫ってきます。世界のマネーの流れは再エネ市場に流れ込み、それに消極的な企業や国からは引き上げられます。
「脱炭素革命の衝撃」では、洋上風力発電開発に取り組む技術者が、日本が世界の趨勢から取り残されている事実を指摘され、悔しさで涙ぐむ場面がありました*3。現実に直面する、とはそういうことです。
未だに「再エネは高い」だの、「不安定だ」だの云っているゾンビどもは、現実を受け止めた方が良いと思いますよ。ご自慢の「スゴイ日本!」の技術的優位性が完全に失われてしまう前に。
では。
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*2:このほか、設備稼働率が高めに設定されており、実績には合っていない
*3:番組で指摘されているのは、日本が高効率石炭火力の輸出を進めることに対する批判でしたが、なぜ、日本が高効率石炭火力の輸出、などに力を入れるかといえば、CO2排出の抑制に貢献したという言い訳と、再エネ技術輸出に力を入れたくないからです。再エネ輸出に力を入れるためには国内でも導入拡大を方針に定めなくてはなりません。これは事実上、原子力の必要性と競争力を失わせるためにやりたくない。なので、原子力と石炭火力を官民一体で売り込むわけです。この目論見が見透かされているために、世界中から痛烈な批判を浴びることになる。
- 10 http://www.google.co.uk/url?sa=t&source=web&cd=1
- 10 https://www.google.co.jp/
- 9 http://b.hatena.ne.jp/hotentry/social
- 4 http://kajipon.sakura.ne.jp/
- 3 http://search.yahoo.co.jp/
- 2 http://a.hatena.ne.jp/sib1977/
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- 2 http://b.hatena.ne.jp/Cunliffe/
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- 2 http://b.hatena.ne.jp/entry/d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20171227/1514380845