最近撮影した写真に、不思議な光の玉が写っていた。
この夏に訪れたチベットの寺院で仏像の上方に多数のオーブが写っていた。これは、神の啓示なのか、それとも精霊か?
こちらは地中海に浮かぶイビサ島。夕陽が美しいと評判のサンアントニオ海岸だ。写真には不思議な緑色の玉が写り込んでいた。さまよう緑の光は地中海に浮かぶ霊か? 緑色に意味があるのだろうか。
そしてこのように、撮影した写真に頻繁にオーブが写る人は、もしかしたら霊に憑かれているのだろうか。
実は、オーブは毎日のように現れている
オーブという言葉をぼくが初めて聞いたのがいつのことか正確には覚えていない。それはたぶん21世紀になってからのことだと思う。フィルム時代には聞いたことがなかった。
聞いたことがないといっても、オーブとか、玉響(たまゆら)とかという名称で呼ばれていなかっただけで、同じ現象は起きていた。その原因は、
- レンズ表面のホコリが太陽光や照明光に反射して光って見えるもの。
- 空気中の塵・ホコリ・雨がフラッシュ光に反射して光って見えるもの。
- 太陽などの強い光がレンズ内で乱反射したもの
ほとんどのオーブはこのどれかが原因だ。チベットの写真は(1)による。
形が丸い玉なのは被写界深度から外れているから丸くボケているため。
巷でよく見るオーブ写真の多くは(2)が多い。(1)が外側からの光に反射しているのに対して(2)はカメラの自分側からの光(フラッシュ光)に反射している。カメラが勝手にフラッシュを飛ばす全自動カメラにありがちな写真だ。オーブが存在すると頑なに主張する人は、それがフラッシュ光を焚いたときにだけ現れることを不思議に思わないのだろうか? 写真の素人だから、自分がどうやって撮影したかが自分で分からないのだろうね。
(3)のオーブは写真ばかりでなく、テレビや映画の屋外ロケシーンでよく画面に写っている。大河ドラマとかぶらタモリとかニュースとかで普通にオーブが写っているけど見ていて気がつかないのかなあ。←ぼくにはテレビ画像のオーブに気がつかない人の多いことの方が不思議に感じる。
アニメーション映画「君の名は。」には作中そこかしこにオーブが飛んでいる。制作者は光を演出する映像効果だということを知ってオーブを作画しているのだ。
オーブが話題になるのはデジタル時代から
デジタル時代になってコンパクトカメラに小型の撮像素子が使われて、被写界深度(ピントが合う範囲)が深くなりレンズ表面の塵が写るようになったのが、オーブがよく見られるようになった理由だ。スマホの撮像素子はさらに小さいからなおオーブが写りやすい。
逆にいえばプロが使う被写界深度が浅い大判フィルムカメラにオーブはまず写らない。一眼レフなら写ることが多く、スマホなら写りやすい。
スマホ>デジタルコンパクトカメラ>一眼レフカメラ>大判カメラの順でオーブが写る頻度が高いのにはちゃんと理由があるのだ。ようするに、オーブ写真と言われているものはすべて光学的現象にすぎない。
手をかざせば消えるオーブ
さて、チベットの寺院本堂は構造上、天井に明かり取りの窓がある。この写真は、そこから入る光に影響されたものだ。
そこで、余分な光を左手で遮ってみよう。手持ち撮影なんで左の手のひらをレンズの上に持ってくる。これは写真用語で「ハレ切り」という。
余分な光を遮ったら、写真のコントラストが上がって画にメリハリがついた。
暗部の濃度に締まりが出ている。ハレ切りはこういう効果があるからフォトグラファーならみんなしている当たり前の技術だ。オーブもなくなった。オーブなんか写っていたらへっぽこカメラマンとそしりを受けても仕方がないね。
レンズ構成が原因のオーブ
イビサ島の緑の玉は(3)が原因だ。これは写真用語で「ゴースト」という現象だから霊的現象っぽく見えるかも。この写真はニコンAF-S16-85mm/F3.5-5.6 というレンズで撮影したのだが、このレンズの広角域で太陽の写真を撮るとこのようにハッキリした緑の玉が必ず写る。このレンズの光学的特徴だから避けることはできない。
玉が緑色なのは、緑の波長帯がゴーストとして出やすい特性があるためだ。
ニコンの新しいコーティング技術を施したナノクリスタルレンズは、緑色のゴーストを軽減する役目がある。
もうひとつ、上の拡大写真をよく見ると、緑の玉の左上に赤い玉みたいなのが薄く見える。これは赤の波長帯がゴーストとして写ったものだ。赤の波長帯は緑の波長帯よりも軽減するのが一層難しいのだ。別に「赤いオーブは情熱を意味している」わけでも「成仏していない霊」でもないよ。「赤いオーブは情熱」なんてアホらしくて聞いていらんない。
レンズを換えればオーブも変わる
スペインのバルで撮影した、輪になった緑の玉と白い玉。
マイクロフォーサーズのレンズで撮影した。
素人がみたら「天使の輪です」とか言いそうだね。でもこれは照明の光が反射しただけ。電球と同じ数だけ玉があるから誰にでも分かりやすいと思う。
お次はインスタグラムからステキな写真をピックアップ。
シャボン玉をふいて、カメラ側からかるくフラッシュ光をあてた写真だ。上で説明した「(2)塵・ホコリ・雨がフラッシュ光に反射して光って見える」状況をカメラマンが意図的に創り出しているのだ。雨のなかで撮った写真はこちら。
ストロボをとばしてオーブをつくる手法は、カメラマンにはおなじみのずっと昔からある撮影方法だ。
七角形のオーブがあるワケは
これは撮影前のストロボ発光テスト中に写った無数のオーブ。
普通、オーブが円形をしているのはピントが合っていないから。しかしこの写真は絞りを深くしているので、7枚ある絞り羽の形を反映してオーブが七角形になっている。これらもまた、写っているのはすべてレンズ表面のホコリ。ちゃんとクリーニングしなければ(汗)。
絞りとは、光の量を絞る機構のことで人間の瞳とおなじ役割をしている。人間の瞳は円形をしているが、工業製品のレンズで正円に作るのはコストがかかるため7角形〜9角形が普通。
この写真でオーブが七角形であるもうひとつの理由は、ニコンのカメラで撮影したからでもある。ニコンのレンズの絞り羽根は7枚か9枚の奇数枚数のものが多い。
下の写真はニコンのAF85mmF1.8というレンズ。内部に9枚の絞り羽根が見える。このレンズならオーブは九角形に写る。
キヤノンのカメラならオーブは八角形
ニコンがレンズの絞り羽根を奇数枚数に統一しているのに対して、キヤノンのレンズは絞り羽根が8枚の偶数でほぼ統一されている。
これは絞り羽根の枚数によって写真の写り方に違いがあるため。メーカーの絵作りの思想が反映されている。つまりカメラメーカーによってオーブの形も変わるのだ。知らなかったでしょう(笑)
写真に写ったオーブの形を見て「お、八角形のオーブか。これはキヤノンのレンズだな」とか「太陽のまわりにいくつも現れる赤いオーブは赤外線フィルターをケチった安物のコンパクトカメラだな」などと分かることがある。
なお、どんなカメラにも必ず絞りはあり、スマホには羽根のない簡素な固定絞りが備えられている。スマホなら角が丸い三角形のオーブが写ることがある。
いろいろな色のオーブがある訳は
ところで、上の写真をよくみると淡い赤や青などいろんな色のオーブがあるね。
ここまで読んだらお分かりのことと思う。オーブに赤・緑・青色が多いのは、カメラの中で色の三原色(RGB=赤緑青)が光の加減で乱反射している、ただそれだけの理由だ。RGBをかけあわせればYMC(黄・紫・水色)になる。だから黄・紫・水色のオーブもときどき見られる。
そして白いオーブはフラッシュ光が反射しているか逆光で色がとんでいるだけ。
龍玉と呼ばれる模様があるオーブは白くとぶ寸前で色が残っているだけ。
ぼくはこれまで、いろんな人から「不思議写真」を見せてもらったことがある。しかしそのどれもがこれと同じく光学的現象だった。だからぼくは未だに真の不思議写真を見たことがないし、写したこともない。もしかしたら世の中の不思議写真のうち1000万枚に1枚くらいは本物の霊的事象の写真があるかもしれないが、それを見る機会はまずないだろう。何しろ毎日のようにお寺やパワースポットで写真を撮っているぼくや、仲間のプロフェッショナルフォトグラファーたちですら、誰も真に霊的なオーブの写真を撮った人がいないからね。
オーブは心霊現象なのか
心霊現象ではない。オーブを不思議な現象という人は
- カメラの機構についての知識がまったくない写真の素人
- ききかじりで心霊を語るアマチュアのスピリチュアリスト
間違いなくこのふたつが共に当てはまる。断言できる。オーブの意味を解説する人がいるがなんの根拠もない妄想だ。そんな話を聞くのは時間の無駄だからやめよう。