渋谷のラブホ街は空室だらけ、クリぼっちでアダルトグッズが好調…若者のクリスマスの過ごし方に異変が
経済効果約7000億円とも言われていたクリスマスの過ごし方に異変が起きているという。
日本中が浮かれていたバブル期、クリスマスのラブホテル街は空室を探すカップルで溢れていた。男性たちは高級レストランやホテル、そしてティファニーのオープンハートなどを用意し、この日を特別な日にしようと精いっぱいの見栄を張った。女性たちもまた、それが当たり前だと思っていた。
当時を知る世代に話を聞くと、「大学生だった。ホテルをとって部屋の中にクリスマスツリーを作ってバラの花びらを部屋にまき散らした。むちゃくちゃカネがかかって、一晩で20万くらい使った」(51歳男性)、「ヴィトンとかエルメスとか、そんなものをいただいた。嬉しかった」(50代女性)、「ホテルのスイートルームを借り切ってパーティーをやっていた。男の子も女の子もみんな一緒で」(57歳男性)と、思い出を語った。
中でも人気だったのが「赤坂プリンスホテル」、通称"赤プリ"。コラムニスト・女優で、ラブホテル評論家の日向琴子氏は「女性もシティホテルに行きたがったし、なかなか予約が取れず、来年のやつを予約して帰る、みたいな状況だった」と振り返る。
■若者のラブホテル離れが顕著にしかしクリスマス直前の22日、渋谷の街で若者カップルに話を聞くと「(どこかに行ったりは)特にしない。いつもと変わらないのでは」と答えた。実際、24日夜に渋谷のホテル街を訪ねてみると、人通りも少なく閑散としていた。あるラブホテルでは、イブにもかかわらず3分の2が空室。従業員の女性は「暇だよ本当に。今日は特にひどい。クリスマスだからって伸びないよ、今は。何だか今は関係ないみたい」と話した。
男性学が専門の田中俊之・大正大学准教授は「90年代以前は、結婚しなければ性行為ができなかった。ところがそれ以降、若者の意識が変わり、愛していれば性行為してもいいという風になり、90年代は一番若者が性行為をしている時代になった。また、今の若い世代は普通に"おうちデート"をする。『an・an』『non-no』といった女性誌のアンケートの選択肢にも、最初から"おうちデート"が入っている。デートとは恋人としかできない、何か特別な事をするものだと考えていた90年代の若者には理解できないだろう。しかし友達と恋人の境目とかデートと普通の遊びの境目が曖昧になってきているのが今の時代だ」と指摘する。
そんな"若者のラブホテル離れ"の打開策として業界が目を付けたのは「インスタ映え」だ。東京有数のラブホテル街、墨田区錦糸町の「HOTEL TSUBAKI」は、今年2月の改装以来、満室状態が続いているという。ラブホテルのイメージとはかけ離れた、和風の落ち着いた内装。広報の石川さんに案内してもらった部屋は広さ約20畳、宿泊代は一泊2万円前後(曜日によって変動)。カップルだけでなく、女性客に限り複数名での宿泊もできるということもあって、女子会での利用も多い。露天風呂やカラフルなアメニティグッズも揃え、まさに"インスタ映え"だ。
「カップルはー自己批判せよー!」「クリスマス反対―!」「恋愛小説粉砕ー!」恋愛至上主義に異を唱える「革命的非モテ同盟」が敢行、今年10回目となった「クリスマス粉砕デモ」も、もはやこの季節の風物詩となっている。
レオパレス21が実施した意識調査では、クリスマスをひとりで過ごす"クリぼっち"は65%にものぼり、昨年の52.2%から12.8ポイント増加。しかも、その内の約7割は「一人でも寂しいと思わない」と回答している。また、理想の過ごし方は「ひとりでまったり過ごす」という回答が最も多かった。
クリスマスにかける予算も下がる傾向にある。バブル期には平均10万円とも言われていたのが、2007年には23783円、2015年には8783円にまで下がっている(マクロミル調べ)。
一方、そんな世相を反映してか、"クリぼっち"向けのアイテムの需要は高まりを見せているようだ。
日本一の品揃えを誇るアダルトグッズ専門店「大人のデパート エムズ秋葉原店」を訪ねると、女性用アダルトグッズの売上は年々増加、リップスティック型バイブレーターなどがクリスマスプレゼントとしても人気なのだという。同店の八十島さんは「クリスマスの時期が年間で一番お客さんが多い。通常の月よりも倍近い売上がある」と話した。
ハロウィンに関するツイートが年々増加する中、クリスマスに関するツイートは低調だ。そんな中にあって、"クリぼっち"を自ら笑いに変える"自虐ツイート"は増加している。若新雄純。慶應義塾大学特任准教授は「SNSがない時代だったら、自分が少数派だという感覚や、恥ずかしいという感覚があったと思う。でも今は"クリぼっち"で検索すれば、多くのツイートが出てくるので、自分だけではないという安心感、連帯感が得られる」と指摘した。
■中核派の若者たちは七面鳥とピザ、そしてケーキ…
そんな"クリぼっち"時代の若者たちのクリスマスイブを取材した。
「うん、いつもと変わらないですね」。ニート歴9年の名田佳史さんのクリスマスディナーは刻み海苔をたっぷり振りかけたご飯。普段と変わらないイブを過ごしていた。
「今年一年お疲れ様でした。それでは乾杯!カンパイ」と明るい声が響いていたのは、労働者による労働者のための社会主義国家を目指す「中核派」の拠点、前進社。意外にも、七面鳥、ピザ、そしてケーキでクリスマスディナーを楽しんでいた。「それは確かに資本主義にどっぷりつかっていますよ、仙人みたいな生活をするっていうことが共産主義だと思っていないので…」と女性メンバー。
普段は1日に5人以上接客するというデリヘル嬢のコモモさんの予約はわずか2人。店舗スタッフの上杉さんは「昔は根強いリピーターさんを持っている女の子は、クリスマスに出るともう完売状態で取り合いみたいなイメージはありましたけど、お客さんの方もそんな感じにはなっていない」と話す。仕事の後の予定は「もう彼氏と…(笑)。そこは別ですね…」とコモモさん。
■「モノじゃなくて、どれだけ楽しく過ごせたか」コラムニストの泉麻人氏は「田舎から出てきたばっかりの人も、クリスマスにはそういういくつかのブランド的なレストランに行って、これをプレゼントしてこういうホテルに泊まるっていうことをやらないと、ダメなヤツになってしまうみたいな。そういう焦燥感に駆られていたっていうのはあったんじゃないか」と推測する。
「90年代は消費による自己主張が過剰だった。しかし、今の若い世代は過剰なもの、派手なものをダサいと感じる。平野ノラさんのように、あの過剰さがギャグになっているし、大学生に暴走族の映像を見せると、怖がらず笑う。かつてはクリスマスも自己プレゼンテーションの道具だった。こういうものを買っている私、もらえる私、という消費を通してコミュニケーションや自己主張をしていたのが90年代なのだろう。むしろ今が平常化しているということであって、90年代こそが特殊な時期。40~50代の人たちがショックを受けているだけなのではないか」と田中准教授。
若新氏も「女子高生や大学生と喋っていると、ちょっと自分で作ってみたよ、みたいなのことに価値あると考える人が増えていると感じる。家の中でパーティーをするのも、低予算かもしれないが、他にはない工夫ができるからだ」と話すと、取材にあたった山田菜々も「今はモノじゃなくて、どれだけ楽しく過ごせたかによってクリスマスの価値は変わる」と指摘した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)