まもなく2017年も終わりを迎える。振り返ってみると、2017年の世界経済の最大のポイントは、トランプ大統領の経済政策「トランポノミクス」が米国経済にどのような影響を与えるかであった。
「ただでさえ、完全雇用に近づいている米国経済において、『トランポノミクス』による大型減税とインフラ投資が発動されれば、米国経済は、たちどころにインフレに見舞われ、金利も上昇、FRBの金融政策も引き締めバイアスがかかり、米国経済はスタグフレーションに陥るかもしれない。また、仮にこのような政策がとられなくとも、先行きの不確実性から、人々はリスク回避的なスタンスを強めるだろう」
というのが、トランプ氏の大統領就任を快く思わない大多数の識者による見方であった。
一方、筆者は「『トランポノミクス』が発動されれば、米国経済の成長率は上方修正され、FRBが同調的(すなわち、引き締めについては慎重なスタンスで臨む)な政策をとれば、長期停滞から抜け出す第一歩になるかもしれない」と、市場のコンセンサスと比較すればかなり楽観的な見方をしていた(日本でもこのような楽観論者がほとんど存在しなかったので、今年の初めは「トランポノミクス」についての意見を述べる機会をいろいろと頂いた)。
さて、結果だが、2017年、「トランポノミクス」はほとんど不発に終わった。従って、予想が当ったか外れたかを議論することの意味はほとんどなかったと言ったほうがよいかもしれない。
だが、ここ半年の米国の実質GDPは、従来の平均2%程度の成長トレンドから3%超の成長に上ブレしている。また、インフレ率も1%台半ば以下で低位安定し、金利も10年物国債利回りで2.5%弱と、年初とほぼ同水準であった。また、株価は年初から約20%上昇した。
事後的な結果だけをみれば、トランプ政権の発足は米国経済にとってネガティブ要因にもならず、リスク回避的な姿勢を誘発するような不確実要因にもならず、むしろ、筆者の予想した世界により近い展開を示した。
このように、2017年全体を通して米国経済、及び米国マーケットが堅調に推移した最大の理由は、FRBが利上げ局面にもかかわらず、資金(マネタリーベース)の供給を積極的に進めたためではなかったかと考える。
FRBが政策金利を引き上げたにもかかわらず、ドル高は示現せず、むしろ、ドル安によって、製造業を中心とした輸出産業の業況が著しく改善した。マネタリーベースの供給増は、マーケットの「ヴォラティリティ」を低位安定化させ、投資家のリスク許容度を高め、株価の上昇に一役買った可能性もある。株価の上昇は資産効果を通じて、米国の個人消費を牽引した。
また、ドルの安定は、新興国通貨や株価の安定にもつながり、世界景気の安定的な拡大にもつながったと思われる。
従って、2018年の世界経済を考える際の最大のポイントは、やはりFRBの金融政策、特に資金(マネタリーベース)の供給スタンスではなかろうか。