vol.04 橘ケンチ(EXILE/EXILE THE SECOND)「面白いマンガだけ読むより、価値観を覆されるようなマンガも読んだほうがいいと思うんです」

2017/12/26 7:37
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撮影/津田宏樹

もしも。今の自分の人格は、自分が見聞きしてきたものの積み重ねによって形成されているのだとするならば。「どんなマンガを読んできたか」を語ることは、「どんな人間であるか」を語ることにとても近いのでないか。人生に影響を与えたと自覚しているマンガはもちろん、かつて読んでいたけれど今ではまったく手に取ることのないマンガでさえ、自分の血肉と化しているかもしれない。だから、マンガについてインタビューしようと思ったのだ。そのマンガを知るためではなく、その人自身を知るために。

今回登場するのは、EXILE/EXILE THE SECONDの橘ケンチ。メンバーきっての読書家でもある彼は、どんなマンガを読んで育ってきたのか。どの小学生でも通るような王道マンガから、姉の影響で読み始めたマンガ、青年期の彼を虜にした異色のマンガまで、彼の感性に刺激を与えてきた作品を語ってもらった。

 

練習すればドライブシュートが打てる

──人生で、最初に触れたマンガは何ですか?

 マンガを読み始めたのは、たぶん小学校1、2年ですね。小学校からサッカーを始めて、そのときに『キャプテン翼』を読んでました。憧れていろいろやってましたね。

──やっていたというのはつまり……。

 ドライブシュートを(笑)。松山くんのイーグルショットも、小次郎のタイガーショットもやってました。本気でやろうとしてたんですよ。「これはどっちの回転なんだろう?」とか、「これは縦回転で落ちるんだ」とか、マンガを必死に読み解いて、実際に練習してましたね。「これはマンガだから」とは思わずに、「練習すればきっとできるものなんだ」と信じていて。オーバーヘッドキックにも果敢に挑戦しましたし。

──実際はレアなシュートだけど、マンガではオーバーヘッドキックがバンバン出てきますよね。

 あのマンガを見て、オーバーヘッドキックにトライした小学生は、すごく多いと思うんですよ。僕のまわりでも、無理やり試合でやって失敗する子が多かった。そもそもオーバーヘッドキックって、たまたま上に来たボールを蹴るものなのに、わざわざ狙ってやろうとするから、それはうまくいかないですよね(笑)。

高橋陽一「キャプテン翼」1巻より

 

姉が少女マンガの入口に

──最初にコミックスを集め始めたのも『キャプテン翼』?

 『ドラえもん』も集めていたんですけど……でも『キャプテン翼』が一番早いのかな。姉の持ってるマンガを読んだりもしていましたね。『ドラゴンボール』とか、あと少女マンガも一時期読んでいて。『はじめちゃんが一番!』(渡辺多恵子)というマンガ、知ってます? はじめちゃんという女の子が主人公なんですけど、彼女には5つ子の弟がいるんです。その5つ子が芸能人になってデビューするんですよ。「A.A.O」(エイエイオー)という名前で。はじめちゃんがその弟たちの世話をやりながら、いろんなことが起こっていく……というマンガで。その作品はすごく覚えてますね。

渡辺多恵子「はじめちゃんが一番!」1巻より

──子供の頃に特有の「男が少女マンガ読むのは恥ずかしい」みたいな感覚はなかった?

 そういうの、ありましたよね。でもなぜか、そのマンガはすんなり読めたんだよなあ……。たぶん男だけの兄弟だったら、少女マンガを見ることはなかったと思います。姉がいたから、家の中に普通に少女マンガがあって、自然と手に取って読むようになったんでしょうね。自分の幅を広げるという意味では、それはとてもよかったと思いますね。あと、これも少女マンガに入るのかな? 読んだのはそれよりもちょっと後ですけど、『OZ』(樹なつみ)や『BANANA FISH』(吉田秋生)もすごく好きでした。

──それを読んだのはもうちょっと大きくなってから?

 そうですね。小学生の頃はジャンプを愛読してて、コロコロも読んでたから、王道みたいなところを通ってきたわけですけど、中学に入ると、そこからちょっと違う世界に行きたくなったりするじゃないですか。そのときに友達からすすめられたのが『OZ』や『BANANA FISH』だったんですね。その頃は同級生で面白かったマンガを教え合うのをよくやってたので。『ツルモク独身寮』も、小学生のときに同級生から教えてもらって読んでましたね。

吉田秋生「BANANA FISH」1巻より

──じゃあ中学以降は、読む雑誌やジャンルの幅が広がっていった?

 中学でいったん王道から外れようとするんですけど、高校に入るとふたたび少年マガジンに戻る、みたいな感じでしたね。で、大学に入ると、ビッグコミックスピリッツをひたすら愛読していた記憶があります。

──王道のほうに戻っていった。

 あ、でも大学生になってダンスをやるようになって、ダンスの友達から知るマンガも多かったんですよ。そのときハマったのが『軍鶏』で。あと『殺し屋1』とか、『グラップラー刃牙』とか……。「決して気持ちよくはないけど、つい見ちゃう」みたいなマンガですね。

──ハード路線みたいな感じの。

 そうですね。『軍鶏』は特に覚えてます。絵のタッチも、ちょっと憎悪をはらんでいるような感じがして、おどろおどろしくて。今までに見たことがないようなタイプの作品で、「こういうの読んでいいのかな……?」という罪悪感すら抱きながら読んでいましたね。

橋本以蔵・原作/たなか亜希夫・画「軍鶏」

でかい男へのあこがれ

 ──思春期の頃、一番影響を受けたマンガは? 

 『スラムダンク』の影響は大きかった気がします。当時、中学に入るか入らないかくらいの時期で。同級生が親の仕事でずっとアメリカに行ってて、5年生のときに日本に帰ってきたんですよ。そしたら全身、(マイケル・)ジョーダンの格好をしていて。ジョーダンのTシャツを着て、ジョーダンのバッシュを履いて、もうヒーローだったんですよ。「何それ、カッコいい!」って。

──なるほど、そういう時期だったんですね。

 ブルズの黄金期で、そいつがアメリカでバスケに染まりまくって帰ってきて。見た目も超カッコよかったし、超うらやましくて、僕も親にねだったんですけど、買ってもらえなかったんです。そのタイミングでちょうど『スラムダンク』が始まって、僕はサッカー部だったんですけど、自分の中でバスケブームが来たんですよね。

──作品だけじゃなく、バスケそのものも好きになった?

 姉がバスケ部だったんですよ。それで姉の試合をたまに見に行ってたんですけど、バスケやってる人がそのときすごくカッコよく見えて。みんな背が高いじゃないですか。その頃、僕は背が小さかったんですよ。だから『スラムダンク』は「でかい男たちが奮闘している」というのが楽しくて。登場人物の身長もいちいちチェックしてましたね。花道は188cmくらいあったと思います。

井上雄彦「SLUM DUNK」18巻より

──それはあこがれみたいなもの?

 たぶんあこがれですね。「俺もここまで背が伸びるのかな……」とか思ったりしてました。『スラムダンク』はマンガだから、実際の世界よりは誇張されてるじゃないですか。2メートル近い高校生がバンバン出てきて(笑)。でも子供の頃は信じてましたね。「高校のバスケ部って本当にこういうやつらがいるんだ」と思って。

電影少女あるある

──最初に性的なものを意識したマンガは何ですか?

 『電影少女(ビデオガール)』ですね。それと、『まじかる☆タルるートくん』も。リアルタイムで読んでました。でも同級生の間で、「『電影少女』を読んでいるのがバレると、スケベだと言われる」という風習があって、こっそり読んでましたね。

桂正和「電影少女」1巻より

──ということは、単行本は持たずに、連載で読んでたんですね。

 はい、連載で読んでました。

──連載で読んでいると、後ろからのぞかれない限りは「ジャンプを読んでいる」ふうにしか見えないから。

 そうです。

──……実はこのシリーズ、一つ前にバカリズムさんを取材したんですけど、『電影少女』についてまったく同じ話をされてました(笑)。「単行本を買ったら『あいつはエロいやつだ』と思われる」って。

 そうそう、一気に噂が回るんですよ。本当に。

──リアルタイムで読んでいた世代では、わりと「あるある」なことなんですね。

 みんな見たいんですよ。「あいつはエロい」って言ってくる本人も、絶対見てると思うんですよね。でもバレるといろいろ言われるから、みんな必死で見せないようにして、こっそり読んでましたね。

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