虚構の中の戦車【コミック篇】

12月25日発売のSFマガジン2018年2月号はガルパン特集! これを盛り上げるべく始まった短期集中連載第二回をおおくりします。2月号では、戦車が出てくるコンテンツを紹介した「虚構の中の戦車」を掲載しましたが、今回はその補足を。戦車が出てくるおすすめ漫画をご紹介します。

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2月25日発売のSFマガジン2月号特集は、『バタフライ・エフェクト』から『ブレードランナー2049』まで144作を紹介のSF映画総解説PART3&『ガールズ&パンツァー』と戦車SF&アーサー・C・クラーク生誕100年記念特集。3方向から突撃する、歳末えすえふ大作戦です!


 漫画は作家別にまとめよう。

■石ノ森章太郎(発表当時は石森章太郎)

『にいちゃん戦車』全2巻(1970年、虫プロ商事〈石森章太郎選集〉)

 1962年、週刊少年マガジンに連載。
 筆者の記憶にあるもっとも古い戦車漫画がこれ。旧日本軍戦車部隊の整備員が、暴力団に殺された息子・太郎の復讐のため、廃品で手製の戦車を造ってしまうという設定で、このあたり、いかにも当時の少年漫画らしい。主人公の少年・次郎は、殺された太郎の弟。彼の乗る戦車が「にいちゃん戦車」と呼ばれるのは、次郎少年にとって兄の「生まれ変わり」的な存在だから。別称の〈タロウタンク〉も兄の名に由来する。
 戦車とはいっても、実態は特殊装備と特殊能力だらけの超兵器で、通常型の戦車では束になってもかなわない。もちろん、少年漫画なので、主人公の少年は正しいことにのみこのスーパータンクを使う。自衛隊の戦車としては、ガルパン劇場版でおなじみのチャーフィーが登場する。

『サイボーグ009』第3巻「ベトナム編」(1965年、秋田書店 サンデーコミックス)

 1965年、週刊少年キングに連載。
 戦争を陰で煽る死の商人、〈ブラックゴースト〉。その一チームである黒ずくめのサイボーグマン・グループは、ベトナム戦争の戦火にまぎれ、超兵器の実験を行なっていた。登場する未来的な兵器のうち、2種は戦車タイプ。1種は球形に近く、多砲塔を持ち、不整地走行にすぐれ、もう1種は砲塔だけが分離して空を飛ぶ。石ノ森漫画には、権威・脅威の象徴として、けっこう戦車が登場するが、悪役としてこれだけ戦車がフィーチャーされた石ノ森作品は、ほかにはぱっと思い浮かばない。

■望月三起也

 絵を見ただけでどの車種かわかるほどきちんと戦車を描いた漫画家は、この人が日本初ではなかろうか。戦車漫画の始祖といってもいいと思っている。

『最前線』全4巻(1967年、少年画報社 キングコミックス)

 1963年から少年画報に連載、のちに週刊少年キングで不定期連載。
 第二次大戦の欧州戦線における、米軍の日系人二世部隊の活躍を描いた戦争アクション。同系統の作品に『悪一番隊』ほかがある。装備、服装、小道具、雰囲気など、すべてが外国映画なみに充実していて、戦争アクションとしておもしろいのはもちろん、戦争の悲惨さもしっかりと描かれる。初期こそ戦車の描写が甘かったが、まだまだ資料がすくない時代で、外国映画でもいいかげんな造形のドイツ戦車が幅をきかせており、タミヤの62年版タイガータンクでさえ独特のフォルムをしていたことを思うと、むしろよくがんばったといえる。もちろん、途中から描写はどんどん精密になっていき、種類も多彩になった。やや変わりだねとしては、グスタフ/ドーラ800ミリ列車砲が登場する。「キュラキュラキュラ」という戦車の履帯走行音のオノマトペ(擬音)は、すでにこの作品の第1話から使われていた。

「大砂神」(『無敵のつばさ』1968年、秋田書店 サンデーコミックスに収録)

 1967年の週刊少年マガジンに3回連載。
 イスラエル独立問題を背景に描く戦争アクション。リアルタイムで雑誌で読んだ当時、巨大な「砂の滝」の登場シーンには強烈な印象を受けた。ネタバレになるのでくわしくは書かないが、元ネタのアレすらも矮小に思える、ものごっついしろものが出てきます。

『ジャパッシュ』全2巻(1972年、若木書房 望月三起也BIG ACTIONシリーズ4、5)

 1971年、週刊少年ジャンプに連載。
 日本に生まれた悪魔的な心を持つ少年が、しだいに日本を掌握し、独裁体制を築いていく過程と、それを防ごうとする主人公との戦いを描いた物語。なにかと寓話的でもある。自衛隊が大活躍。自衛隊に配備されたM551シェリダンが、国産の六一式戦車と肩をならべて敵と戦うさまは、とくに印象的だった。対戦車ライフルで戦車が派手に吹っとぶフィクション的描写も、強く印象に残っている。

『バサラ戦車隊』(2011年、大日本絵画)

 2010年~2011年、月刊アーマーモデリングに連載。
 作者も書いているように、タイトルは映画『サハラ戦車隊』のもじり。終戦前夜の満州から日本人学者を引きあげさせようとする、通称”バサラ戦車隊”の奮闘を描く。ガルパンでもおなじみ、八九式戦車が大活躍。ソ連軍戦車もいろいろと登場する。

※上記の望月漫画は、『バサラ戦車隊』以外、電子書籍で読める。なお、公認ファンサイトの「月刊望月三起也」は情報満載。作者の貴重なコメントもたくさん見られてありがたい。

■松本零士

〈戦場まんがシリーズ〉全9巻(1970~1980年 小学館 少年サンデーコミックス)

 1969年のプレイコミック、同年のCOM、1973~1977年の週刊少年サンデー、1975~1979年のビッグコミックオリジナルに、間欠的に掲載された戦場漫画の集成。(ザ・コクピット)シリーズも含む。

※1981年以降に書かれた戦場漫画については、今回は取りあげていない。

 かなり初期のSF作品から、二連装や三連装の未来的戦車を登場させていた松本零士だが、実在の戦車を正面から描くようになったのは〈戦場まんがシリーズ〉からだったと思う。反骨、執念、怒りと、その裏返しである諦感を梃子に、感傷に訴えて泣かせる名作が多い。上記シリーズ中、戦車・火砲が登場するのは下記のタイトル(発表順)。

「幽霊軍団」(1969)③『オーロラの牙』に収録
「鉄の墓標」(1973)②『鉄の墓標』に収録
「零距離射撃88」(1974)①『スタンレーの魔女』に収録
「戦場交響曲」(1974)②『鉄の墓標』に収録
「ラインの虎」(1974)③『オーロラの牙』に収録

■青池保子

『エロイカより愛をこめて』既刊39巻(1978年~ 秋田書店 プリンセスコミックス)

 1976年より秋田書店 別冊ビバプリンセス、1979年より秋田書店 月刊プリンセス、2008年より秋田書店 プリンセスGOLDに連載。
 当初は怪盗エロイカを主役とするケイパーもの(別項『ケリーズ・ヒーローズ&パンツァー』〔29日更新予定〕参照)だったが、第1巻の作品№2「鉄のクラウス」で描かれたNATO情報部のクラウス・ハインツ・フォン・デム・エーベルバッハ少佐が登場するや、たちまち人気を集め、主役を完全に食ってしまった。作品自体も、どんどんエスピオナージュ色を強めていき、その系統の外伝やスピンオフが出るにいたる。〈鉄のクラウス〉の父親は、二次大戦中ドイツ国防軍に所属した戦車隊長で、クラウス自身もレオパルト(作品№2では「レオパルド」だったが、その後はちゃんと「レオパルト」と表記)に喜んで乗るわ、ロシアのT-72をボロクソにいうわと、熱烈なドイツ戦車愛を見せる。

■宮崎駿

 原作版の『風の谷のナウシカ』(1982~1994年、アニメージュに連載)にも戦車が登場するが、そこはアニメ版でもカバーされているので、ここでは下の2作にのみ触れる。

『宮崎駿の雑想ノート』(1992年、1997年増補改訂版、大日本絵画)

 1984~1990年、月刊モデルグラフィックスに連載。
 ミリタリー方面に特化したイラスト・エッセイと漫画の集成。架空兵器も含む。登場人物は豚などの動物を擬人化したもの。全13話うち、戦車・火砲関連は下記の3話。

「多砲塔の出番」 架空戦車「悪役1号」が登場する。これはタスカモデリズモ(現アスカモデル)から、「悪役1号」「悪役1号隊員集合セット」として、1/72のプラモデルで発売された(これは再販されて、いまも売っている)。
「高射砲塔」 タイトルそのままのお話。戦車ではないが、大砲もののくくりでここに記しておく。
「豚の虎」 描きおろし。ガルパンにも登場するポルシェ・ティーガーを描く。

『泥まみれの虎─宮崎駿の妄想ノート』(2002年、大日本絵画)

 1994、1998~1999年、月刊モデルグラフィックスに連載。
『ティーガー戦車隊─第502重戦車大隊オットー・カリウス回顧録』上下(1995年、大日本絵画)の一部を抜粋して漫画化した作品に、上記「豚の虎」の続篇「ハンスの帰還」ほかを収録したもの。キャラクターはもちろん、基本的に豚である。

■小林源文

『黒騎士物語』(1985年、ホビージャパン別冊、1986年、日本出版社 アップルコミックス)

 1982~1983年、月刊ホビージャパンに連載。
 ごぞんじ戦場漫画の第一人者。戦車ものを数多く手がける。そのうちの一冊『黒騎士物語』は、作者の単行本デビュー作で、第二次大戦の東部戦線におけるドイツ戦車隊〈黒騎士中隊〉を描いたもの。この戦車隊自体は架空の存在だが、物語は東部戦線の戦車にまつわる情景や雰囲気をみごとに集約している。外伝等もいろいろと出た。この作品はのちに、『俺のケツをなめろ! EAST FRONT 1944』としてカードゲーム化され、2016年にはリニューアル再版、同年、このゲームシステムを用いたガルパンとのコラボがスタート。2017年には、『俺のケツをなめろ!×ガールズ&パンツァー劇場版【ボコ争奪戦です!】』が発売された。

■士郎正宗

『アップルシード』既刊4巻(1985~1989年、青心社)すべて描きおろし

 この4冊のほかに、つぎの続篇2点がある。

「26. CALLED GAME」(数字は既刊からの話数通し番号) 『アップルシード データブック』(1990年、青心社)に収録、描きおろし短篇
『コミックガイア版アップルシード総集編 士郎正宗ハイパーノート』(1996年、青心社)1992年の青心社 コミックガイアに連載されていた長篇(未完)を収録。

『アップルシード』で中心となる機械・準機械は、サイボーグ、ヒト型パワードスーツであるランドメイト、ロボットなどだが、第1巻の冒頭に登場するガトリングガン装備の重装甲車、ランドクルーサーは、フォルムも含めてきわめて印象的だった。巨大な多脚砲台も、ある種の戦車といえるだろう。

『ドミニオン』(1986年、白泉社)

 1985年の白泉社 月刊コミコミ増刊 コミック読本SF大特集('85 AUTUMN)に読み切り掲載、1986年の月刊コミコミに間欠的に掲載。

『ドミニオンF』(1993年、青心社)

 上記1986年版に、『SPECIAL GRAPHIX DOMINION』(1988年、白泉社)に収録された「PHANTOM OF AUDIENCE」などを追加したもの。

 こちらはずばり、タンクポリスの物語。凶悪犯罪に対抗するポリスの戦車は、通常は球形の特殊な走行機構を備えた未来的なフォルムだが、主役メカであるボナパルトは、転輪と履帯を備えた、比較的戦車らしい戦車である。車体は丸っこく、履帯に大きな突起があるのが特徴。

『ドミニオンC1コンフリクト編』(1995年、青心社)

 1993年のコミックガイアに連載された長篇+描きおろし。
 コミックガイアに全篇が連載されたのち単行本化される予定で、三回めまで連載したが、あと一歩で第一話が完結するところで同誌が廃刊、その後、連載分に描きおろしを加える形で刊行された。あとがきには「全四話」となる構想が記されているが、続きはいまだに描かれていない……。キャラクターは基本的に前作のままで、設定がすこしちがう。ボナパルトの履帯はいっそうトゲトゲしくなっている。

■永野護

『ファイブスター物語』既刊13巻(1987年より、角川書店 ニュータイプ100%コミックス。版違いには触れない)

 1986年より、月刊ニュータイプに連載。たびたびの休載をはさんで、まだまだ物語は完結しない。戦車とは一見関係ない作品に見えるが、作者がかなりの戦車好きであることは、ときどき挿入されるドイツ戦車のコラムを見れば一目瞭然。第Ⅶ、Ⅷ巻にまたがった「アトロボスの章」には、第二次大戦における地上戦のエッセンスが濃厚に投影されており、躍動的な展開でぐいぐい読ませる。登場する戦車はみな、履帯なしの浮揚型や飛行型で、攻撃兵器はビーム砲が主体だが、へたな第二次大戦ものよりも戦車魂にあふれていて、とても熱い。

■野上武志×鈴木貴昭、原作 ガールズ&パンツァー製作委員会

『ガールズ&パンツァー リボンの武者』既刊8巻(2015年~ KADOKAWA・メディアファクトリー MFコミックス フラッパーシリーズ)

 2014年より、月刊コミックフラッパーに連載中。
 最初はガルパンのスピンオフとしてスタートしたが、『最終章』を見るにあたり、もはや必読の書になった。戦車道とはまたちがった戦車競技、タンカスロンを描く。映画と一部リンクしているので、あえて内容には触れないでおこう。

 21世紀の戦車漫画については、ほかにもいくつか書いてあるのだが、紙幅の都合で、今回は割愛する。そちらについては、またの機会にということで。

SFマガジン

この連載について

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ガルパン道ノススメ

酒井昭伸

12月25日発売のSFマガジン2月号では、「最終章 第1話」が絶賛上映中の「ガールズ&パンツァー」を特集しています。これを記念して、本特集の監修を務めた翻訳家・酒井昭伸氏による特別コンテンツをおおくりします。

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コメント

vanillableep 大友克洋の『武器よさらば』も欲しいなぁ。多脚戦車はナシかい? あと星野之宣もAI戦車の漫画描いてたよな……タイトル思い出せないけど(サージャントだったかな?)それも欲しい。 約2時間前 replyretweetfavorite

hykw_SF これを読めばガルパンが10倍面白い! 2つめの記事が公開されました。 https://t.co/O1vlRNITdL 約5時間前 replyretweetfavorite

pixiewired うーん…やっぱりそゆことじゃないと思うんだあの戦車道は https://t.co/pvV6mS04TL 約5時間前 replyretweetfavorite