日中関係にようやく改善の兆しが見られる。トゲとなってきた安全保障や歴史認識をめぐる問題で双方に摩擦を回避する動きが出てきた。今こそ政治主導で改善の歩みを確実なものにしてほしい。
日中政府は十二月初旬、上海で開いた海洋問題をめぐる高級事務レベル協議で、「海空連絡メカニズム」の運用を開始することで大筋合意した。
尖閣の領有権をめぐる偶発的衝突が現実の脅威として心配されていただけに、不測の事態を回避する枠組みの設置は大きな前進であると評価できる。
二〇〇七年に日中首脳が協議開始で合意したメカニズムは、自衛隊と中国軍が常時連絡を取り合うホットライン設置が軸となる。十年を経ての運用開始は遅きに失した面はあるが、安全保障面で両国民に与える安心感は大きい。
安倍晋三首相は、対中けん制の色合いが強かった自身の対外政策「自由で開かれたインド太平洋戦略」の狙いを変更。中国が進める巨大経済圏構想「一帯一路」との共存共栄を目指す戦略にしていく考えを中国側に伝えたという。
共存共栄に異論はない。ただ、中国が構想を沿線国への過度な干渉など覇権主義的な動きにつなげることがないよう、連携の一方で目を光らせる必要はあろう。
中国の習近平国家主席は十三日、南京事件八十年の追悼式典に三年ぶりに出席したが、演説しなかった。現地入りし歴史問題を重視し続ける姿勢を示しながらも、日本を公然と批判せず、改善基調に配慮したと見られる。
日中首脳が仏頂面で顔をそむけ笑顔で握手できないような政治状況に戻してはならない。政治の風向きが悪い時期には地道な民間交流が両国関係を支えただけに、今こそ政治主導で改善の機運を本格軌道に乗せてほしい。
日中首脳が高圧的な姿勢を転換させたことは民意にも好影響を与えている。最近の「言論NPO」などの調査では、日中関係を「悪い」と考える人は日本で44・9%と昨年の71・9%から激減。中国でも64・2%と14ポイント改善している。
だが、両首脳が関係改善に乗り出した背景には、安倍首相は衆院選圧勝、習主席は共産党大会での権威確立という国内政治の安定がある。真に信頼関係が築けたかどうかには、まだ疑問符がつく。
信頼できる首脳同士の定期的な相互訪問を早く実現し、「戦略的互恵関係」を取り戻してほしい。
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