日本の仮想通貨の法律―世界との比較や規制や逮捕、今後の法改正について

仮想通貨と法規制

2016年5月25日、国会において、「情報通信技術の進展の環境変化に対応するための銀行法等一部を改正する法律案」が成立。この法律案の中の「資金決済に関する法律」に、「第3章のニ 仮想通貨」が加えられました。

いわゆる、「仮想通貨法」です。

<資金決済法に関する法律 第二条 5>
この法律において「仮想通貨」とは、次に掲げるものをいう。

一 物品を購入し、若しくは借り受け、又は薬務の提供を受ける場合に、これらの代価の決済のために、不特定多数の者に対して使用することができ、かつ、不特定多数の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く)であって、電子情報処理組織を用いて移転できるもの。

二 不特定多数の者を相手方として、前号に掲げるものと相互に交換を行う事が出来る財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することが出来るもの。

 

仮想通貨法が制定されたことにより、仮想通貨が日本の法体系に正式に位置づけされたことを意味します。
仮想通貨法によれば、仮想通貨に対しては、ネットワーク上で流通する決済手段としての側面に注視しており、海外において一般的に承認されている定義に近付けています.


この定義に従うと、既存の電子マネーやゲームで利用する通貨、クレジットカードのポイントなどは、仮想通貨の枠には入りません。さらには、国債や地方債、企業が発行する債券も仮想通貨とはみなされません。

そして、法令上、通貨とは強制通用力を持つものとされており、仮想通貨における決済は、受取人が受金を拒否した場合、支払効力は生じないため、法律上、仮想通貨は通貨とは認められていません。

通常、一般の消費者が仮想通貨を入手し、利用するためには、仮想通貨交換業者を介して行う事になりますが、これまでにも、違法な行為を繰り返す悪質業者の存在も指摘されてきました。

昨年来、仮想通貨の取り引きが活発化するに伴い、政府は消費者保護の観点から、仮想通貨法の制定により、規制を一層堅固なものにして、対象の網を広げています。規制の対象となるのは、仮想通貨取引所と仮想通貨販売所の2か所。これらを営むには、財務局長による登録を取得し、財務局管轄となる事が義務付けられています。

登録を認可してもらうためには、いくつかの条件があります。

1つは、一定の財産的な基盤を持っている事。
財務基準としては、1,000万円ほどの最低資本金を有する事と、純資産がマイナスではない事とされています。

次に、顧客の資産を、登録業者の資産と分散管理し、運営状況については、毎年、監査法人等の監査を受ける事が求められています。

他にも、金融業者としてのコンプライアンス維持のため、法人や役員に欠陥要因がないことなど、相応しい組織の体制を保有する事。

システムにおけるセキュリティ体制の強化

財務局への事業報告書の提出仮想通貨取引所における取り引きに際しての利用者に対する情報提供なども、要件に加えられています。

登録業者はさらに、マネーロンダリング・テロ規制供与規制(規制収益移転防止法)による規制も受けるため、利用者が新規登録する場合、厳しい本人確認の手続きを踏んだり、取り引きに疑わしい点が見受けられる時には、当局への報告が義務付けられることとされています。

今回の法改正により、事業者の負担が増え、仮想通貨市場に冷や水を浴びせるのでは、との懸念もありましたが、現実にはそうもと言えないようです。

規制強化で悪徳業者の参入を防ぎ、利用者の信頼を獲得することにもつながります。また、登録業者として認可を受けることで、「お上からのお墨付き」をもらうという効果もあり、大手銀行などの金融業界やIT業など、異業種との事業提携にも道筋をつける事になる、と好意的に見る向きもあります。
そして、「改正資金法」、すなわち仮想通貨法は、2017年4月1日に施行されました。

世界各国の仮想通貨に関する法律・規制


仮想通貨の技術的なイノベーションのスピードに、法整備が追いついていないのが各国の現状のようです。

消費者保護の観点から、締め付けを強化すれば、仮想通貨市場の勢いを削ぐことにもなりかねません。一口にさじ加減と言っても、現実の対応は一筋縄ではいかないようです。

アメリカ


アメリカにおける仮想通貨に対する法規制は、州ごとに方向性が異なり、標準化が急がれています。仮想通貨関連業者は、頭を抱えているのが現況のようです。

カリフォルニア州、ニュージャージ州、ノースカロライナ州などでは、仮想通貨関連のベンチャー企業に対しては、ライセンスの取得を要求していません

一方、ニューヨーク州及びコネティカット州などでは新規業者が行う送金オペレーションについては、高い料金と引き換えのライセンス取得を求めています。このように、想通貨に対して州ごとに違った対応を取る事は、自由な送金ビジネスの足かせとなっています。

ワシントンに本拠を置く、仮想通貨NPO法人、「Coinceter(コインセンター)」は、「仮想通貨のようなイノベーションを、州ごとの異なるレギュレーションで縛るべきではない。我々は、仮想通貨スタートアップには、州と州との間で自由に取り引きが出来るよう、特別なビジネスパスポートのようなものを発行することを提案している。

これにより、仮想通貨スタートアップは制限されない、送金ビジネスを行う事が可能になる。ひいては、これらの業者には、今の銀行と同じような役割が期待される。また、新たな送金ネットワークサービスが構築されれば、それがさらなるイノベーションを巻き起こし、アメリカの金融サービスの進化を促進させるだろう。」と延べ、一貫性のある、連邦法が必要である点を強調しました。

中国


中国当局は、かねてから仮想通貨に対し、外国への人民元の流出や仮想通貨バブルを懸念して、警戒感を強めていました。
習近平国家主席は、「金融のリスク排除」を前面に掲げ、2017年9月、ついに大ナタを振るいます。中国の仮想通貨取引所大手の全てが、閉鎖に追い込まれました。

もっとも、中国当局による、仮想通貨規制は今に始まった事ではありません。2013年12月6日、中央銀行をはじめ、中国銀行業監督管理委員会、中国証券監督管理委員会、中国保険監督管理委員会は合同で、「ビットコインリスクの防止に関する通達」を発表。「仮想通貨は、バーチャル商品であり、通貨と同等の法的地位はない」と定義しました。仮想通貨取引所の登録制、資金洗浄防止措置、金融業の仮想通貨業務参入禁止などが、明記されています。この当時の通達により、既存の取引所は閉鎖に追い込まれ、中国における仮想通貨市場は冬の時代を迎えます。それでも一部の取引所は生き残り、20116年後半からは再び息を吹き返します。

そして、2017年9月4日。中国当局による、新たな規制が発表されます。直接の内容は、ICO(Initial Coin Offering)に関する規制でしたが、その中身は、仮想通貨と人民元との交換禁止など、事実上の仮想通貨取り締まりに等しいものでした。

規制のあおりを受けて、中国の多くの仮想通貨取引所は、中国国内での閉鎖を余儀なくされました。それでも活路を見出そうと、必死の模索を続けている企業もあります。これまでの取引所としてのノウハウを、海外企業に売り払おうとする業者もあれば、ブロックチェーン技術を活用して、保険や物流など、他業種へ打って出ようとする流れも見て取れます。

香港


中国本土における、ICOに対する規制強化の流れを受け、香港の金融監督当局SFC(証券・先物取引観察委員会)は、ICOにより発行されたトークンが有価証券扱いされる可能性について示唆しました。

同局幹部は声明を発表し、SFCは香港においてICOの取り引きが増加する事に懸念していると述べました。同幹部は、ICOの関係者に対し、ICOの構造が証券法の規制の対象となり得るとして、喚起を促しています。更には、同法の規制対象は、ICOそのものだけでなく、ICOを扱う取引にも及ぶ可能性についても言及しました。

まとめ―日本の「改正資金決済法」と比較すると―


先に触れたように、テクノロジーの進歩に法律がついてゆけず、状況を見守っているというのが正直なところです。

アメリカは州ごとで対応に足並みが揃わず、一貫した連邦法の制定が待たれています。これに比べて中国は、仮想通貨に対しては断固とした態度を取り、ICOの取り締まりを強化。これに付随して、仮想通貨と人民元との交換を全面禁止。あおりをくらって、中国本土の仮想通貨交換業者は、軒並み廃業に追い込まれています。

この波を受け、香港でもICOについての規制強化の動きが懸念されています。
これら各国の動きを睨みつつ、日本では2017年4月1日、「改正資金決済法」が施行され話題をさらいました。同法の施行に伴い、国内の仮想通貨交換業者も登録が義務付けられています。

これらの規制強化により、市場の締め付けが厳しくなり、取り引きが委縮するのではとの恐れもありましたが、ビットコインをはじめ、仮想通貨の活発な値動きが示す通り、その考えは杞憂に終わりました。

海外の投資家の目には、日本の仮想通貨に対する規制強化は、海外のそれに比べれば「緩いものに移っているようです。
それゆえに、中国本土の仮想通貨に対する厳格な対応も相俟って、海外の投資家の資金は日本の仮想通貨市場にこぞって流れ込むという結果を招きました。日本の仮想通貨市場は、アジアにおいて大きな存在感を示すこととなりました。

仮想通貨悪用の懸念 警察庁の動き


仮想通貨市場の盛り上がりを受け、警察庁は、利用者保護は勿論、犯罪絡みの資金洗浄への利用等を憂慮し、仮想通貨業界への警戒を強めています。

これまで警察当局では、銀行やクレジットカード会社などを「特定事業者」と称して、疑わしい取り引きの届出や、口座開設時の本人確認などを義務付けてきました。2017年4月には、「改正犯罪収益移転防止法」が施行され、この特定事業者に仮想通貨交換業者も加えられています。

同庁が取りまとめた、「犯罪収益移転危険度調査書」によると、他人名義で作ったクレジットカードで購入した仮想通貨を、偽造した身分証明書で開設したウォレットに送金するなどの手口が見受けられたとの事。

仮想通貨交換業者からの届出の大半は、暴力団関係者が関与しているとの疑いがあり、4月から同改正法が施行されて以来、疑わしい取り引きとして届け出た案件は、半年で170件にのぼる事が明らかになりました。

仮想通貨絡みの犯罪をひも解くと、過去にはこのような事件がありました。

2016年1月、警視庁サイバー犯罪対策課は、他人のクレジットカード情報を悪用して、仮想通貨取引所からビットコインを騙し取ったとして、電子計算機器使用詐欺などの容疑で、東京都青梅市の会社員をはじめ3人の男性を逮捕しました。

仮想通貨取引所から不正に仮想通貨を手に入れた詐欺事件としては、全国初とされています。

同犯罪対策課によると、逮捕者の一人が他人名義のカードを使用し、仮想通貨取引所の一つである「コインチェック」から、数百万円相当のビットコインを入手。ビットコインを他に設けた複数アカウントに振り分け、現金化し着服したとの疑いが持たれています。

今後の仮想通貨に関する法改正についての見通し


仮想通貨の本質の一つに、「非中央集権型」という側面があります。
国が発行する法定通貨とは異なり、発行・管理元が存在せず、それ故に、通貨としての役割である「決済・送金・投資」という機能に、産業界や市場から多大な期待が寄せられています。

2016年から2017年にかけての、ビットコインをはじめとした仮想通貨の高騰には、政府も手をこまねいている訳にもいかず、「消費者保護と犯罪への悪用防止」を大義名分に、規制に動きました。しかしこの法改正も十分なものとは言えず、様々な課題を孕んでいます。

当面の課題のとして挙げられるのが、ICOと仮想通貨のFX証拠金取引への対応です。
この両者に関しては、日本には取り締まるための厳格な法律は存在しません。

仮想通貨取引所Zaifを運営するテックビューローは、2017年10月始めにICOを開始し、わずか2週間足らずで90億円以上を調達。これには金融庁の関係者も、「想定外」との驚きを隠せませんでした。

その点、ICOの対応に関して、一歩踏み込んだのがアメリカです。
 2017年10月17日、米国商品先物取引委員会(CFTC)は、仮想通貨に関する報告書を公表。それによると、ICOで発行されるトークン(デジタル権利証)が、状況によっては先物商品や金融派生商品(デリバティブ)とみなされるとの見解を示しました。これにより、CFTCはICOを監視対象とし、不正行為が認められれば摘発する、と述べました。

FX市場では今、金融庁による外国為替証拠金取引における証拠金倍率(レバレッジ)への扱いを、投資家が固唾を飲んで見守っている状態です。同庁はレバレッジを現行の25倍から、10倍に引き下げるとの意向を見せています。
この規制が実行に移されれば、比較的規制が緩く、価格変動の大きい日本の仮想通貨市場へ、FX業者の資金が大量に流れこむのは必定。
政府も、静観している訳にはいかないようです。

規制を強化すれば、技術革新の勢いや市場の活況に水を差す事にもなりかねません。かと言って見過ごせば、消費者保護や犯罪防止という大義にほころびを生じます。

金融庁は国内外の情勢を見極めつつ、今後の法改正も視野に入れ、柔軟な対応を迫られています。

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