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江川紹子の「事件ウオッチ」第93回

サンフランシスコに続き、マニラでも慰安婦像設置 私たちはいかに前に進むべきか…江川紹子の提言

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2015年、慰安婦問題をめぐり「最終的かつ不可逆的な解決」を図る日韓合意が交わされて、共同記者会見を行った岸田文雄外務大臣と尹炳世韓国外交部長官(いずれも当時。写真は外務省HPより)

 米サンフランシスコ市が、民間団体が設置した慰安婦像を正式に受け入れたのに続いて、フィリピンのマニラでも慰安婦を象徴する像が建てられた。大阪市の吉村洋文市長は、サンフランシスコ市との姉妹都市関係の解消を発表して賛否の議論が起きた。政府も「諸外国における慰安婦像の設置は、我が国の立場と相いれない極めて残念なことだ」(菅義偉官房長官)と述べ、フィリピン政府に申し入れを行った。諸外国のこの問題をめぐる動きについて、私たちはどう向き合っていけばいいのだろうか。

「恥を知りなさい」米でたしなめられた、慰安婦証言への非難

 産経新聞によれば、安倍晋三首相はサンフランシスコ市の決定を聞いて、自民党の外交再生戦略会議(議長・石原伸晃前経済再生担当相)のメンバーに対し、怒気を含ませながらこう語った。

「サンフランシスコは失敗だった。こういうことをしっかり防いでいかないといけない」

 政府として、サンフランシスコ市長に拒否権を行使するよう申し入れを行ったのに、それが奏功しなかったこともあって、無念さはひとしおなのだろう。石原氏も、「非常に総領事の責任は重い。総領事といえども、ロビイング活動をして、歴史を捏造するようなことに対しては、ものを言っていかなければならない」と憤りを表明した。

 いずれも、目の付け所や向いている方向が大きく間違っているような気がしてならない。これまでも、安倍首相らと同じような立場で「ものを言って」きた人たちはいた。

 慰安婦問題を女性の人権問題ととらえる国際世論や、それを背景に米国内にも慰安婦を象徴する像や碑をつくる動きに反発する人たちの意見表明は、これまでも行われてきた。2007年および12年に作曲家のすぎやまこういち氏やジャーナリストの櫻井よしこ氏らが米紙に「強制連行を裏付ける資料はない」などとする反論の意見広告を出した。12年には安倍氏も名前を連ねている。

 米国内で慰安婦像を建てる動きに対しては、日本の右派団体が音頭を取って抗議のメールが殺到。さらにカリフォルニア州グレンデール市が慰安婦を象徴する少女像の設置を認めたのは地方自治体の権限を逸脱しているなどとして、在米日本人らが撤去を求める訴訟も起こした。ただし、これは完全敗訴のうえ、SLAPP(嫌がらせ訴訟)認定されて1700万円ほどの制裁金まで課されている。連邦最高裁への上訴段階で、日本政府が意見書を提出して後押ししたが、わずか1カ月で棄却、一蹴された。

 サンフランシスコでの像設置に関しても、在米日本人などでつくる市民団体がこれに強く反発。同市議会の小委員会が、像の設置に関する公聴会を開いた際、これに反対する運動を展開している在米日本人などでつくる市民団体が意見を述べ、元慰安婦の証言を「信用できない」と非難した。

 ただ、このような動きは逆効果だったと思う。サンフランシスコの公聴会では、委員のひとりから穏やかに、しかしきっぱりと「恥を知りなさい」とたしなめられている。その後に行われた採決では、全員一致で像の受け入れを決議した。

 慰安婦問題をなかったことにしたい、忘れてもらいたいという人たちが、そういう立場から「ものを言」えば言うほど、「忘れてもらいたくない」人たちの声が大きくなるばかりか、「記憶の風化を防ぐためには、このような像が必要だ」という意見が説得力を持ってしまう。

 それに、サンフランシスコ市議会の決議からは、日本を敵視する「反日」のトーンは見受けられない。戦争中に強制収容所に入れられ、差別に苦しんだ日系人たちが、その後、他のアジア系の人たちとも緊密に連携し、信頼や社会正義に基づいたコミュニティの形成に尽力してきたことにも触れられている。

 また、アメリカには、ワシントンDCにある、戦時中の日系アメリカ人の苦難を後世に伝える全米日系米国人記念碑や、今年4月にロサンゼルスに建立された、強制収容者をしのぶ碑などもある。こうした碑が、「反米的」というわけではあるまい。

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