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第475話 狩りの作法
―――デラミス・とある酒場
バッケが俺の方へとにじり寄る。有効的だった表情は『女豹』のそれに変わっており、理性を失っているような、酷く本能が危険であると訴える気配を出していた。え、何? 戦ってくれるの? ……うん、流れ的にちょっと違う感じだよなぁ。同じ身の危険でも、これは意味合いが違うものだ。バトルは歓迎するが、そっち方面は遠慮したい。つうか、アンタそれ浮気だろ。
「バッケさん、それ以上のおいたは駄目ですよ。私が許しません」
「おや、アンタはケルヴィンの女だったのかい? だとしたら悪かったね。ファーニスの女はどうも手を回すのが早いんだ」
アンジェが遮るようにバッケの前に立つと、先ほどまでの野性的な眼の色が彼女から消え失せる。意外と素直に退いてくれたな。逆にアンジェが暗殺者時代の殺気は放ち出しとる。
「そんな怒んなさんな。折角の可愛い顔が台無しだよ?」
「冗談でもそういう事は言わないでほしいかな。これ以上ライバルを増やされちゃ、私としても堪ったものじゃないんで」
「おっと? 何だ、ケルヴィンもやるじゃないか。英雄色を好むとは言うが、そんなにこれがいるのかい?」
バッケはすっかり元の様子に戻って、ニヤニヤしながら小指を立て始めた。俺、知ってるよ。これは酔っ払いに絡まれる面倒臭いパターンだ。
「いや、まあ、そんなには―――」
「ケルヴィン君?」
「……ろ、6人ほど」
俺は竜王の所在を聞きに来た筈だ。それが、なぜこんな事を赤裸々に述べる状況になっているんだ?
「はー、六股かい! いやはや、アタシも若い頃は結構なもんだったけど、流石にそこまでじゃなかったねぇ。アンタ、これから苦労するよぉ?」
「そういう言い方は止めてくれ。これでも、全員と本気で付き合っているんだ」
「それ、すけこましの常套句じゃないかい。そういう色男が背中から刺されるのを、アタシは何人も見てきたんだけどねぇ。逆にこの娘レベルの子が6人ともなれば、逆恨みで男から襲われる可能性もあるんじゃないかい?」
バッケがやたらと遠い目をしていて、ちょっと怖い。だ、大丈夫、俺は大丈夫な筈だ。そう思うほどに、この思考って駄目男の考え方なんじゃね? と、負のスパイラルに陥ってしまいそうになる。落ち着け、喧嘩を売られるのはむしろ歓迎なんだ。俺が恐れるとすれば、プリティアやグロスティーナに夜な夜な襲われる事くらいなもの。オーケー、想像したら一気にクールダウンした。し過ぎて吐きそうだ。
「バッケさん、ケルヴィンを虐めるのも駄目です。それも私が許しませんよ?」
「おおっと、怖いねぇ。冗談じゃないレベルの殺気を飛ばしてくれるじゃないか、アンジェ。ケルヴィンのパーティは全員がS級冒険者並みの実力があるって聞くが、どうやらマジみたいだね。いや~、ホントに驚きっ放しだよ」
アンジェの殺気を受けて尚、あっけらかんと笑うバッケ。これ、そろそろ本題に戻った方が良いよな? これ以上長引かせると、更に飛び火してしまいそうな気がする。
「それで、竜王―――」
「それで、アンジェはケルヴィンとどの辺までやったんだい? アタシに向けた殺気は本物、詰まりそれがアンジェの愛の深さって事だ! 一緒に寝たのだって、1回や2回じゃないんだろう?」
ぐわぁーーー!?
「え、えっと、それは……」
「んん? 何だい何だい、その初心な反応は? まさか、まだ何もされてないのかい?」
「な、何もされてない訳じゃないよ! キスくらいなら、1回だけ……」
「……ハァーーー!?」
急にたどたどしくなったアンジェと対称的に、バッケが馬鹿みたいな大声を出して驚いた。思わず俺は耳を塞ぎ、周囲に結界を展開する。店主、ギリセーフ。
「いや、待て待て待て。それはいくら何でもないだろう? キスが1回だけって、お前らそれでも付き合っているのかい? 子供のママゴトじゃないんだぞ!?」
「そ、それは……」
いかん、アンジェが一気に防戦一方になってしまっている。
「あー、あのだな、バッケ。アンジェには特殊な事情があって、ゆっくりと一緒に慣れようとしていてだな」
「黙っときな、ケルヴィン! 今はアンジェと腹を割った話をしているんだ! 男子禁制、ちょっと部屋の隅に行くよ、アンジェ!」
「え、ええっ!?」
アンジェがバッケに連れ去られ、部屋の隅にテーブルと椅子を置いての対談が始まってしまった。のけ者にされてしまった俺は、ただここに立ち尽くすしかない。しかし、あの調子だと長引きそうだぞ……
「……店主、アルコールが入っていない、何か冷たいものをくれ」
「は、はぁ、少々お待ちを」
「ああ、ちょっと待った。お金、先に前払いしておくよ」
半壊したカウンター席に座った俺は、金の入った袋を店主に渡す。
「ええっ!? だ、旦那、こんな大金受け取れませんよ!」
「多い分は店の備品を壊してしまった代金に迷惑料、そこら辺で酔い潰れている奴らの酒代にしておいてくれ。今なんて、店を貸し切ってるようなもんだしな」
ここの店主は良い人なんだろう。それにしても多いと、何度か金を返そうとしてくれた。良いんだ良いんだ。これからあの2人がどう動くのか、俺にも予想が付かないんだもの。最悪の展開は何とか回避したいと思うが、店が全壊したらマジでごめんなさい。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「―――で、さっきの話は本当なのかい? キスが1つ、本当にそれだけかい?」
ケルヴィンがカウンターにて待つ最中、部屋の隅でアンジェはバッケと話をしていた。
「さ、最近になって手を繋いだり、抱き締められたりはする、けど……」
「はぁー、こりゃ重症だねぇ。いいかい、アンジェ? それはアタシの娘達でさえ攻める時にやるような、ママゴトと同レベルのもんだ。ケルヴィンには6人も相手がいるんだろう? そんな競争の激しい激戦区にいるってのに、何でそんなにおっとり走っているんだい! アンタ、足は化物みたいに速い筈だろっ!」
それとこれとは別の話では。アンジェはそう思ったが、バッケの気に押されて口にする事ができなかった。
「理由は聞かない。過去なんて関係ない。アンジェ、アンタはケルヴィンが欲しいんだろ? 他の女に取られたくないんだろう? 恋は狩りと一緒なんだ。自分が狩らなきゃ、他の誰かに先を越されちまう。世間はアンタの事情なんて考えてくれないんだよ?」
「でも、エフィルちゃんは親友だし、独占はよくないと思う…… 確かに人数は多いかもしれないけど、皆で納得もしてるし……」
「し、親友も一緒なのかい。噂に違わぬ好き者だねぇ、ケルヴィンも…… まあ、それならそれでも良いよ。信頼の上での共有も結構な事だ。でもね、その親友達はアンジェよりも一歩進んだところにいるんじゃないかい? そんな中で、アンジェはこんなところで躓いていても良いのかい?」
「それは…… で、でも、今はそんな事をしている時じゃない……」
「ほう、そんな時じゃない? じゃあ、他の子達も何もしてないんだね?」
「それは―――」
そこまで言葉を言い掛けて、アンジェは言葉を詰まらせてしまった。ついさっきの一場面が、この瞬間に脳裏を過ったのだ。
(そういえば、さっきケルヴィンがコレットさんの部屋から出て来た時、やけに疲れていたような…… はっ! ま、まさか、部屋の中でさっきまで!?)
こうしてアンジェはバッケに説得され、ある決心を固めるのであった。
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