「米国の分裂」深めるトランプ税制改革

レーガン改革と落差

2017年12月26日(火)

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12月22日、米ホワイトハウスの大統領執務室で税制改革法案に署名、文書を掲げるドナルド・トランプ米大統領(写真:AP/アフロ)

 トランプ米政権の抜本的税制改革が実現した。法人税率の大幅引き下げや個人所得税の最高税率引き下げなど大型減税が主体で、大企業や富裕層優遇という批判が強まっている。レーガン税制改革以来30年ぶりの抜本改革だが、共和、民主両党が協力したレーガン改革と違って両党の亀裂は根深く、中間選挙への影響は必至である。「米国の分裂」が深刻化する恐れがある。大型減税が景気を刺激するのはたしかだが、景気過熱、バブル化の懸念もある。財政赤字拡大を背景に金利上昇や意図せざるドル高に波及し、世界経済を混乱させる恐れもある。

「世界戦略」と「米国第一主義」の差

 トランプ大統領は何かにつけてレーガン大統領を目標にしているようだが、税制改革でもレーガン改革とは大きな差がある。筆者は日本経済新聞のニューヨーク支局長としてレーガン政権の経済政策を取材した。「レーガノミクス」には行き過ぎた新自由主義や財政赤字拡大など批判がつきまとうが、そこには少なくとも理念と戦略があった。そして、対立をあおるのではなく合意を求める政治があった。

 レーガン時代はソ連との冷戦末期にあたる。レーガン政権には冷戦終結に向けて「強い米国」をめざすという明確な戦略があった。経済戦略もそれに沿って組み立てられていた。1985年9月のプラザ合意は、ドル高を是正しながら、協調利下げを導き、国防費カットなど財政赤字の削減につなげる戦略だった。そして、1986年の税制改革では米国経済の活力をよみがえらせることをめざしていた。法人税率は下げる一方で租税特別措置の縮小など課税ベースは拡大した。所得税は引き下げより簡素化に力点が置かれた。全体として、財政赤字拡大を避けるために「税収中立」が貫かれていた。そこに、レーガン税制改革の工夫がみられ、当時の税制改革としては「先駆的」と位置付けられていた。

ロナルド・レーガン第40代米大統領(大統領在任期間:1981年~1989年)(写真:americanspirit/123RF)

 これに対して、トランプ税制改革はほぼ減税一辺倒といっていい。連邦法人税率は35%から一挙に21%に引き下げる。地方と合わせた法人税率は28%程度になり、日独仏を下回ることになる。個人所得税の最高税率も39.6%から37%に引き下げる。企業の海外子会社からの配当課税も廃止する。これらによって、10年間で1.5兆ドル(約170兆円)という「史上最大」の減税が実現することになる。

コメント4件コメント/レビュー

米国内に外国企業を誘致できれば輸出型企業を増やせて、国内にドル安を求める機運が生まれ、ドル高を是正したいアメリカの期待に沿った動きにも繋がるのではないかと。シェールガスのお陰でエネルギー代が安いですから、とくに輸出型製造業にとっては良い環境なのでは

またシェールオイルの本格輸出化に備えて準備を整えているようにも思えます
もしもその流れでアメリカが大戦前後のような輸出型国家を目指すのであれば、変動為替レート制になった現代では、輸出優位な国家こそが強いアメリカであり、アメリカファーストな姿勢ともなんら矛盾しない戦略であるように思われます。
そもそもいまアメリカは世界から孤立しても、食料、資源ともに自給自足できるようになっていますので困らないのでは?しかも世界の基軸通貨が米ドルなんですから横暴にも振る舞いますよね。

我々とは立場が違うのですからあちらの観点で考える必要があるのではないかと感じた次第です(2017/12/26 09:20)

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「「米国の分裂」深めるトランプ税制改革」の著者

岡部 直明

岡部 直明(おかべ・なおあき)

ジャーナリスト
明治大学 研究・知財戦略機構 国際総合研究所 フェロー

1969年早稲田大学政治経済学部を卒業し、日本経済新聞社入社。ブリュッセル特派員、ニューヨーク支局長、経済部次長、金融部次長、論説委員などを経て、取締役論説主幹、専務執行役員主幹。早稲田大学大学院客員教授などを歴任。2012年より現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

米国内に外国企業を誘致できれば輸出型企業を増やせて、国内にドル安を求める機運が生まれ、ドル高を是正したいアメリカの期待に沿った動きにも繋がるのではないかと。シェールガスのお陰でエネルギー代が安いですから、とくに輸出型製造業にとっては良い環境なのでは

またシェールオイルの本格輸出化に備えて準備を整えているようにも思えます
もしもその流れでアメリカが大戦前後のような輸出型国家を目指すのであれば、変動為替レート制になった現代では、輸出優位な国家こそが強いアメリカであり、アメリカファーストな姿勢ともなんら矛盾しない戦略であるように思われます。
そもそもいまアメリカは世界から孤立しても、食料、資源ともに自給自足できるようになっていますので困らないのでは?しかも世界の基軸通貨が米ドルなんですから横暴にも振る舞いますよね。

我々とは立場が違うのですからあちらの観点で考える必要があるのではないかと感じた次第です(2017/12/26 09:20)

税制改革が「成果」だとしながらも、富裕層と貧困層の分裂を深める、欧州との対立が深まる、と抽象的に中傷されても、エビデンスがないので「ああ、そう感じてるのね、この人」としか受け取りようがありません。
EUの側にしても、米国を利さないよう、欧州枠内でのブロックを作りつつある中で、トランプ政権が米国内の経済活況を優先するのは国としては当然の選択ともいえます。
トリクルダウン効果以前に、国の体力自体を維持しなければなりませんからね。
結局、筆者としてはトランプ政権が「どのようにするべき」とお考えなのでしょう?
結論をお持ちでないから切り込めない記事になっているんですかね。(2017/12/26 08:14)

トランプ憎けりゃ袈裟まで憎い(笑)(2017/12/26 07:52)

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