3 Lines Summary
- ・仕事の見直しをせずに働く時間ばかりが短くなっている
- ・一人ひとりのニーズ・事情を踏まえた働き方改革が必要
- ・「何も変わらない」はNG もっと積極的に動くべき
2016年9月、内閣は「働き方改革実現推進室」を設置し、本格的に「働き方改革」が動き出した。本来は、「労働生産性の向上」や女性や高齢者といった人々を取り込んだ「労働力の確保」などがその目的とされているが、特に世間の注目を集めているのは「長時間労働の是正」だ。
過労死ラインを越える労働と、それによる自殺問題が大きな問題として取り上げられたことで、多くの人々の関心を集めているこのテーマ。しかし、なかなか浸透していないのはなぜだろうか?
仕事の量・効率・質は以前と変わらず…
「今、政府が進めている『働き方改革』にイチャモンをつけられるのは、サイボウズくらいじゃないですか?(笑)」
グループウェアを提供するサイボウズ株式会社の代表取締役・青野慶久さんは、何のためらいもなくこう話し、笑う。
ご存知の方も多いと思うが、同社は、今年の9月13日、日経新聞上に「働き方改革に関するお詫び」と題した広告を掲載、その他「働き方改革、楽しくないのはなぜだろう。」とのコンセプトのもと制作した『アリキリ』という短編アニメが話題となった。
この『アリキリ』は、「残業編」「女性活躍編」「イクメン編」の3編あり、働き方の現状と働き方改革の問題点をおよそ3分ほどのアニメに詰め込んだものだ。
そんな青野さんに、「どうして『働き方改革』が浸透しないと思いますか?」と聞いたところ、以下のように話す。
「じつは簡単な理屈があって、業務を効率化すれば、働く時間は短くできます。なので、早く帰れます。しかし現状は、業務の効率化もしていないし仕事量の調整もしていないけど、働く時間だけを短くしようとしていて、『そりゃ無理だよね』という印象です。結局、夜に残業できなくなった分、朝早く出社して補っている人は少なくありません」(青野さん、以下同)
形だけは働き方改革を進めている気になっているが、勤務時間以外は何も変わってはいない。さらに、当然仕事の質を下げるわけにもいかない。
「本来は、まずは仕事を見直して、その結果、『短時間でできるようになりました』、『自宅でもできるようになりました』、『柔軟な働き方ができるようになっていました』となるのが理想。順番が間違っているので、浸透しないのではないでしょうか」
右向け右の改革では何も変わらない
では、働き方改革を今後世間により浸透させていくためには、何が必要なのか。
「先ほど話したように、まずは業務を見直すことから始めるべきです。
しかもその時に、『一人ひとりのニーズが違うこと』を認識しなければいけません。遠くから通う人がいれば、近くから通う人もいる。お金を重んじている人がいれば、お金はそこそこでいいけど柔軟な働き方をしたい人もいる。それぞれ事情が違うはずなので、その事情を汲んでそれでもみんなで働き続けられる環境を作らないと定着しませんよ。
一人ひとりに事情を聞いていけば色んな理由・都合が出てくるはずなのに、全員一律で『18時に帰れ!』と言われるから、『困ったな…』となる。『アリキリ』のワンシーンの『会社を出て近くのカフェに入ったらみんな会社の人たちだった』がまさにそう。早く帰れるわけではなく、結局場所を変えて仕事をしているんです」
たしかに、個人のニーズに寄り添った働き方改革にはなっていない。国がこう言っているから、あの会社が始めたからと、右向け右の状態で、“とりあえず始める”企業が多いのだ。
「ある意味、経営者がビビってしまって、それまでは『若い頃は長時間労働して当たり前だろう』とか『独身なんだから残業して残業代稼げよ』なんて言ってた人が、『これからは、こんなことを言ったらダメなんだ…』ということになりました。それゆえ、『お前ら早く帰れ(俺の首が危ないじゃないか)』と、
“保身のため”に言い出して、働く人も『俺のために言ってくれているわけじゃないな』と気づいている。なかには、『残業代が減ってラッキー』と思っている経営者もいるでしょうね」
その上で、「働き方改革を担う経営者たちは、『働き方はこうあるべき』と、ひとつの正解を探すのではなくて、100人従業員がいれば100通りの正解があるはずなので、その100通りの正解を実現するようにしていくのが経営者の仕事」と青野さん。
個人個人が望む生き方に合った働き方を、経営者が応援する。それこそが、青野さんの望む「働き方改革」だ。
諦めるな!「どうせ変わらない」はNG
ここまで、企業・経営者側の視点での働き方改革を見てきたが、企業に属するイチ個人でできることは何かないものだろうか?
青野さんは「個人としても、もっと積極的に動いてほしいと思う」といい、次のように話す。
「よく講演に行くと、『青野さんのいうことはわかったけど、うちの組織は変わらないんだ』とか、『経営者の意識が低いからいくら言ってもダメなんだ』と言われます。しかし、そういう風に言った瞬間に何も変わらなくなってしまいます。
じつは個人でできることはたくさんあって、転職だってひとつの手段。いくら言っても変わらない会社なんて、みんなで辞めて転職すれば当然潰れます。今や働き方改革に取り組んでいる会社はたくさんある。そういう会社に転職しちゃえばその人も幸せだし、その変わらない会社が消えていくわけです」
また、「その経営者も、ひとりの言うことは聞いてくれないかもしれないけど、会社のメンバーを集めて、みんなでまとまって言ったらどうにかなるかもしれません。正直、ひとり辞めるくらいなら何も言わないだろうけど、5人、10人と辞められると、社長もビビります」とも。
最後に、青野さんからこんなアドバイス。
「『何も変わらない』と諦める前に、一度ぜひやってみてほしい。どの会社も人手不足だし、異議を唱える人たちを簡単に排除できる時代でもありません。今の状況を逆手にとるべきです。今までとはまったく違う環境になって、個人でも動きさえすれば変えられるところまで来ています」
右向け右で進みがちな働き方改革。企業としての課題はまだまだあるが、企業に期待せず自分が一歩踏み出すことも大切。さすれば、いずれ本当の意味で働き方改革が浸透していくのかもしれない。
取材・文=明日陽樹/考務店
取材協力
サイボウズ株式会社 代表取締役 青野慶久
https://cybozu.co.jp/