早朝の通勤時間帯は駅舎の外まで改札待ちの人が連なる=JR武蔵小杉駅新南口

写真拡大 (全3枚)

 冬の早朝、川崎市中原区の武蔵小杉駅周辺では夜も明けきらないうちから、スーツを着た会社員たちの慌ただしく歩く姿が見かけられた。

 見上げると、林立する高層マンションが朝日を浴びて銀色に輝いている。日が高くなるにつれ、高層マンションは住人を吐きだし始める。向かうのはJR・東急線の武蔵小杉駅。通勤時間帯の午前7時を回るころには、人の波がうねりのように押し寄せる。

 JRの新南口はマンション群に近く、人の流れが特に著しい。改札は人をさばききれず、入場待ちの列がどんどん伸びていく。ピークは午前8時前後。行列は50~60メートルに達し、駅舎を飛び出してマンションの出入り口付近にまで及ぶ。武蔵小杉駅周辺で日々繰り返されている光景だ。

 加速する再開発

 人口増を背景に川崎市はいま、ダイナミックに変貌を遂げている。川崎駅(川崎・幸)、登戸駅(多摩)、鷺沼駅(宮前)周辺など各区で再開発が進む中、武蔵小杉エリアは、市の発展をうらなう開発の先行例として注目されている。同エリアは多摩川や等々力緑地などの自然の魅力と、都心や横浜へのアクセスの良さから、人口流入が続いている。その受け皿になっているのが高層マンション群だ。

 市によると、同エリアには高さ100~200メートルのいわゆる「超高層マンション」が9棟ある(12月現在)。1棟あたりの戸数は500~600程度。市は1戸3人の計算で1500~1800人が生活していると見積もる。9棟には合計で、少なくとも万単位の人が住んでいるのだ。

 超高層マンションは平成37年度末までにさらに6棟が新設されるという。単純計算でもあと1万人程度の増加が見込まれる。

 一方で武蔵小杉は、人口増による弊害や災害対策など、現在、市全体の抱える問題の数々が集約されているエリアでもある。改札待ちの行列やホーム上の大混雑もその一つだ。鉄道利用者や周辺住民から不満の声が漏れ、市や鉄道会社は対応に追われている。

 人口過密は大災害時の不安もかきたてる。超高層マンションの膨大な数の住人が、災害時、一斉に避難を始めたとき、果たして安全が確保されるのか。住民の不安・不満は尽きない。

 市政運営難しく

 川崎市は今年、4月に人口150万人を突破した。10月には市長選が行われ、市にとって大きな“転換点”となる年だった。

 福田紀彦市長は再選後、産経新聞のインタビューで市政に対する自信の表情を見せた。市民の信任や人口増の追い風を受け、任期をそつなくこなす考えだ。ただ、市長自らも認めるように、今後、市を待ち受ける課題の解決はそうたやすくはない。特に高齢化とインフラの老朽化、財政逼(ひっ)迫(ぱく)は切実な問題となっている。

 市の統計では、65歳以上の高齢単身者数は2年に約1万1千人。それが27年は約5万8千人と、25年間で5倍以上に膨れあがった。今後もさらに増えていく見込みだ。

 人口増がピークとなる42年は158・7万人中、65歳以上が37・5万人(約24%)になると予想している。その後も比率は高まり、72年には人口142・5万人中50・4万人(約35%)となる。3人に1人以上が65歳以上という「超高齢化社会」を迎えるのだ。

 高齢化を見据えたまちづくりのため、市長は「地域包括ケアシステム」の推進を掲げ、医療や福祉、介護などの生活支援が一体で提供できるエリアの構築を目指している。

 増え続ける歳出

 市にのしかかる財政負担は軽くない。戦後、京浜工業地帯の中核として発展した川崎は、交通インフラや公共建築物、河川施設の老朽化が著しい。災害対策やインフラ再構築による財政圧迫が懸念されている。

 市が11月に発表した収支見通しでは、収支均衡が予定より3年遅れ、減債基金からの借り入れも大幅に増えた。市長は財政健全化と人口増、その先に控える人口減と超高齢化を見越した難しいかじ取りが求められている。

 そんな中、経済活性化の起爆剤として市長が期待を寄せるのが臨海部エリアだ。11月には30年先を見据えた「臨海部ビジョン」(素案)を発表するなど、開発に力を注いでいる。

 羽田空港に近い地の利を生かして、多摩川に沿うエリアと合わせ、先端技術や企業が集積するエリアとして発展させる構想だ。

 市長は臨海部を中心に川崎市が日本を牽(けん)引(いん)するエリアにまで発展する可能性を見いだしている。「グローバル企業が数多く立地し、新産業がどんどん生まれる素地が整っている」とした上で「川崎市の飛躍の可能性を秘めている。今後5年が特に重要。気を引き締めたい」と意気込んでおり、その行方をしっかりと注目していきたい。(外崎晃彦)

 川崎市 神奈川県の北東部に位置する政令指定都市。7行政区(川崎、幸、中原、高津、宮前、多摩、麻生)で構成している。多摩川に沿う長細い市域をJR南武線が縦断し、私鉄5路線(京急線、東急東横線・田園都市線、小田急小田原線、京王相模原線)が南武線と交差している。人口は県内で横浜市に次ぐ2位の規模。平成29年4月に150万人を突破した。36年に市制100周年を迎える。