恵比寿のブッダボウル 04-消えた兄と、父の最期

2017年12月25日 夕方公開終了

マリさんから見た父・本田靖春の話はまだ続く。

「私、小さい頃は父親のことが大好きだったんですけど、高校の時から大嫌いになるんです。父からはずっと『高校を卒業したら何をしてもいいから、それまでは(育ての親の)言うことをよく聞いて、我慢してくれ』って言われて、私は父親のためだと思って、ずっと我慢をしてたんです。育ての親はすごく厳しい人で、毎日のスケジュールが細かく決められていたり、高校生になっても門限5時だったり。だから私、家を出るまで映画も観に行ったことがなかったんです」

「私、高校卒業したら、専門学校に行くはずだったんです。音楽に関わる道に進みたいと思って、青山レコーディングスクールという専門学校に行きたいと言ったら、父のOKが出て。そうしたら卒業間際になって、いきなり父に部屋に呼ばれて『競馬でお金がなくなってしまったから就職してくれ』と言われて、酷くないですか?」

酷いです。

「それで、結局就職したんですけど、家を出るための資金を貯めたかったので、しばらくは自宅から勤め先に通っていたんです。で、高校卒業したからもういいだろうと思って、自分のお金で好きな洋服を買ったり、お化粧したりしてたんです。そしたら、父は機嫌が悪いと信じられないくらい酷いことを言うんですけど、売女呼ばわりされて。それ以来、大嫌いになりました。で、家出したんです。そこからは家にほとんど帰らなくなりました」

ところで、資料によると本田靖春氏は2人の子供をもうけたようで、マリさんには3つ上の兄がいるという。お兄さんの話が今までほとんど出てこないんだけど、何か理由があるんですか?

「兄は、私よりも繊細だったのでもっと大変で。いまどこにいるのか分からないんです。うちの母親が亡くなったときに会って以来、行方不明。本当は捜索依頼とか出さないといけないんですけど」

「いなくなった原因ですか? たぶんお金だと思います」

「うちの兄ってもともと危ういところがあって、何をしているのかよく分からない人だったんです。で、ある日、本当かどうかわからないというかたぶん嘘なんですけど、『ある会社に勤めているんだけど、その会社には負債があって、それを自分が補填しなくちゃいけなくなった。お金が必要だ』と言い出して、母がお金を貸してしまったらしいんです。うちの母親は精神の病気なのでそもそも働けないですし、祖母の遺したお金で細々と暮らしていたんですけど、たぶん、私たちが小さい頃に一緒に暮らせなかったので『困った時には何かしてあげなくちゃ』という気持が強かったと思うんです」

「それで、その後、母が自殺して亡くなるんです。そしたらお通夜の時に兄がやって来て、俺には遺産をもらう資格がない、俺のぶんはおまえがもらえと言って、それ以来まったく連絡が取れなくなってしまったんです」

「父は2004年に亡くなりました。私が葉山でカノムパンというお店をやっていた頃。自殺したうちの母は、最後まで父親のことが好きだったから、一応報告しておこうと思って、久しぶりに父に会ったんですけど、父はとにかく癇癪持ちで、激しい躁鬱で、いつもいきなり怒り出すんです。で、そのときも最後は言い合いになって、結局『もう二度と来るか!』って言って帰っちゃったんですけど。そのとき、父は糖尿病の末期で、両足と左手が切断されていて、片目も見えなくなっていて。『右腕だけは(物書きとしての)商売道具だから、なくしたくない』と言ってたんだけど、やっぱり壊疽がひどくて切断しなくちゃならない、ってなって、その手術をしている最中に亡くなったんです。私のところには(育ての親からは)連絡が来なくて、ネットのニュースで知って慌てて連絡したときにはもう火葬も終わっていて……」

「これからはただ、穏やかな人生がいいです」

「私は本田の血縁から離れたところで人生を送りたいんです」

(つづく:次回12/25公開「ノーミュージック、ノーライフ」)

北尾修一(きたお・しゅういち)

1968年京都府生まれ。編集者。株式会社百万年書房 代表。

← 過去の投稿へ

次の投稿へ →

Twitter

  1. 公開しました~。ノンフィクション作家・本田靖春の娘が語る、家族の話。 恵比寿のブッダボウル 04-消えた兄と、父の最期 https://t.co/pjuWJYJ8T9

  2. 本日の更新です。ノンフィクション作家・本田靖春の娘が語る、「家族」。 恵比寿のブッダボウル 04-消えた兄と、父の最期 https://t.co/9cZ0jT3skv

  3. 最後に目を見開いて驚いた。私が時々タイ料理のランチに行き、幼い娘を連れてパンを買っていたお店のあの人が本田靖春の娘さんだったとは。。恵比寿のブッダボウル 04-消えた兄と、父の最期 https://t.co/iYxA8UvIVd