もし、あなたが素晴らしい小説のアイデアを思い付き、実際に本にして出版したいと考えたとしよう。
まず思い付くであろう方策は、出版社に原稿を持ち込むというもの。しかし、持ち込み原稿が編集者の目にとまることは極めてまれで、文学賞を狙った方がまだマシかもしれないという現実に直面する。このままでは、潜在的なファンに小説を届けることさえできない。
では、電子書籍の自費出版はどうだろうか。これなら出版までのハードルは低いし、例えばAmazonでは著者の印税が販売価格の70%に設定されているため、収益率もよさそうだ。
しかし、現実では文章の校正やイラストの手配など、本を形にするために必要な作業は自分で全て行わなければならず、その費用を捻出しなければならない。その分の資金をKickstarterなどクラウドファンディングサイトで募ったとしても、特に電子書籍の場合、ロングテール化(長期に渡って少しずつ商品が売れる)することが多いため、制作に関わった人たちへの印税支払いなど事務作業も煩雑になってしまう。
これは著作家だけの問題ではない。読者にとっても、こうした問題があるせいで本の選択肢が限られたり、ペイする(商業的に成り立つ)ことだけを主眼にした質の低い本が世にあふれることで、読書への意欲が削がれてしまったり、ということもあり得る。
日本にまだ上陸していない、IT関連サービス・製品を紹介する連載。国外を拠点に活動するライター陣が、日本にいるだけでは気付かない海外のIT事情をお届けする。
こうした課題を「ブロックチェーン」の技術で解決しようとするのが、次世代出版プラットフォーム「Publica」だ。
Publicaは、イーサリアムブロックチェーン上で発行されるトークンの標準規格「ERC20」に準拠した独自のトークン「PBL」を使い、著者が読者から直接本の代金を受け取れる仕組みになっている。
彼らの狙いは「非効率な出版業界に革命を起こし、著作家がビジネス上の選択肢を持てるようにする」こと。同プラットフォーム上で本を出版する際の流れを見てみよう。
作品を形にするためにどのくらいのお金が必要か分かった作家は、Publica上でクラウドファンディングを実施し、アイデアに興味を持った読者からPBLで資金が集まり始める。
支援額が目標に到達すると、本の制作に取り掛かると同時に、本の価格、イラストレーターを始めとする協力者への支払い条件などの情報をスマートコントラクト(ブロックチェーンネットワーク内に埋め込める電子契約書のようなもの)に書き込む。
本が完成すると、支援者に対しては「READトークン」が、協力者に対してはそれぞれの貢献度合いに応じてPBLが配布される。READトークンとは、読者のウォレット兼電子書籍リーダーアプリに格納される、本へのアクセスキーのようなもの。
つまり執筆した本は、常にブロックチェーン内のスマートコントラクトとひも付いた形で保管される。READトークンは1つ1つの内容が異なるため、著作権侵害につながるトークンの流用も避けられるので安心だ。
さらに、クラウドファンディング終了後でも、本に興味を持った人はPBLとREADトークンを交換でき、1冊販売されるごとに作家を含む、制作に関わった人全員に収益が分配される。
上記のような、著者と協力者、読者の距離の近さ、そして関係者全員が1つの契約情報を参照できる「透明性」こそがPublicaの最大のメリットだ。全てのユーザーが同じ「台帳」を持つというブロックチェーンの特徴がうまく反映されている。
冒頭の「著作家がビジネス上の選択肢を持てるようにする」という点についても、印税の支払い同様、スマートコントラクトがカギを握っている。
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