C株主優待券の不正転売の流れ

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 格安で国内線に搭乗できる大手航空会社「全日本空輸」(ANA)の株主優待券をめぐり、グループ会社に勤務していた元男性社員が、使用済みの優待券を持ち出してチケットショップに転売し、不正に数億円を得ていたことが24日、同社関係者への取材で分かった。

 優待券の再使用を防ぐ処理が一部で実施されていなかったことを悪用した。内部調査で約2年前に発覚したが、同社は公表していなかった。ANAは元社員を懲戒解雇し、優待券の仕組みも変更した。

再使用防ぐ処理怠ったか

 同社関係者によると、元社員は約2年前まで数年間にわたり、社内で保管されていた使用済みの株主優待券を不正に持ち出してチケットショップに持ち込み、「未使用」と偽って繰り返し転売。内部調査では、元社員が不正転売で得た利益は数億円に上るという。

 ANAによると、使用済み優待券は当時、全国の空港カウンターなどで利用され、回収後にコンピューターのシステム上で再使用を防ぐ処理をし、一時的に保管。その後、廃棄されていた。一部についてこうした処理がされておらず、使用済み優待券でも再使用できた。元社員はこの管理上のミスを悪用したが、限られた従業員が一部で再使用可能であることを認識していたという。

 ANAの内部調査などで平成27年に発覚し、事実関係を認めた元社員は懲戒解雇。同社は同時期に、優待券が使用済みか外見で判断できるようスクラッチ印刷を削る方式に変更したものの、不正自体の公表は見送っていた。

 ANAの担当者は「不正の詳しい内容は明らかにできないが、元社員とはすでに示談が成立し、顧客や株主に被害がなかったため公表を控えた。二度と不正が起きないよう管理体制を見直した」としている。

 ANAの優待券は半年ごとに計約200万枚を株主に配布。正規の半額で国内線を利用できる。

まさか「ごみ」使うとは…

 「空のトップ企業」であるはずのANAで株主優待券の不正転売が繰り返されたのは、「紙ごみ」だった使用済み優待券の再使用を防ぐ措置を徹底していなかったからだ。管理ミスが大きな原因だが、多大な損害を受けかねない事案の公表を同社は見送っていた。不祥事の隠蔽(いんぺい)ともとられかねず、関係者からは対応を疑問視する声があがる。

 ANAなどによると、優待券は従来、識別番号が割り振られ、空港スタッフらが発券時に識別番号をコンピューター端末に入力すると、同じ番号が二度と使えない仕組みだった。優待券は利用客から回収され、紙ごみとして倉庫に保管。一定期間後に廃棄されていた。その紙ごみに“価値”があることを知っていた元社員は、再使用可能な優待券だけを選別して不正に持ち出していた。

 同社の担当者は「ごみを持ち出して何かに悪用できるとは考えなかった。会社としての不備もあり誠に遺憾だ」と釈明する。ANAは不正発覚後に「利便性の向上」を理由に優待券の仕組みを変更。利用者が券面のスクラッチ印刷を削り、中に書かれた数字をウェブサイトなどに入力する方式に改め、使用済みかどうかも一目で分かるようになった。

「速やかに公表すべきだった」「不祥事の隠蔽」

 ただ、今回の対応には疑問の声もあがる。

 元検事で企業の危機管理に詳しい山本憲光(のりみつ)弁護士は、実際に誰かが使用済み優待券を使い、国内線を安く利用したのであればANAに損害が発生した可能性があると指摘。「損害に関する株主への説明責任などを考慮すると、事実関係は速やかに公表すべきだったのではないか」と話す。

 最近相次ぐ製品データ改竄(かいざん)問題で、事態を把握しながら長期間公表しなかった企業が批判されるなど、不祥事に対する「企業の姿勢」が問われるケースは少なくない。

 ANAグループのある社員は「発覚直後に速やかに公表すべきだった。不祥事の隠蔽と受け取られても仕方がない」と語った。