2017年、ビジネス・テクノロジー分野で最も注目を集めた言葉の1つがIoTであることは間違いない。だが、いまひとつ何ができるのか、どのように生活が便利になるのか、あるいはどのように企業に利益をもたらすのか、よくわからないという人も多いのではないだろうか。それを理解するのに最も適した事例が、最近広まりつつある「トイレIoT」だ。Organnova代表/WirelessWire News編集委員の板垣朝子さんが解説する。

「空いている個室」が並ばずに分かる幸せ

「IoT トイレ」でGoogle検索してみると、さまざまな企業がトイレIoTソリューションを展開していることが分かる。

基本機能は「利用者が空室状況をウェブやスマホのアプリで確認できる」こと。空室かどうかを判定する仕組みは、扉が開いているか閉じているかをセンサーで検知したり、人感センサーで個室内に人がいるかどうかを判定する。

トイレに行きたいと思った時に、どこの個室が利用できるのか、行く前に分かるというわけだ。

トイレIoTの例(パーソルプロセス&テクノロジー「Toilet IoT」)

オフィスでは、昼休みの前後や終業前などトイレの利用が集中しがちな時間帯がある。

そんな時でも空いている個室を直接目指せれば、利用者の待ち時間を最小化することができる。万一、空きを確認してからトイレに到着するまでの間に誰かが入ってしまったとしても、その場でスマホを使って他に空いている個室を探すこともできる。

したいと思ってから出すまでの時間は短ければ短いほど身体に良く、心も穏やかになれるのだから、これは分かりやすい、大きなメリットだ。

列車の「あれ」とは何が違うのか

「トイレに行く前に空きを知る」仕組みは、IoTブームのずっと前から存在した。列車の客室トイレの空き状況を壁に表示する「便所使用知らせ灯」だ。

その導入は1951年に遡る。国鉄の急行用客車スハ43系で採用された仕組みで、トイレ入口の錠に連動してスイッチが入り、客室内の壁に取り付けられたランプが点灯することで使用中を知らせる。

以後、国鉄そして民営化後はJRのトイレの標準装備となっており、新幹線ではトイレ側の客室出口付近にピクトグラムで表示されている。

新幹線の便所使用知らせ灯(Photo by PIXTA)

「便所使用知らせ灯」も「トイレIoT」も、トイレの扉や鍵の状態を知らせる点では同じだが、仕組みは大きく違う。

「便所使用知らせ灯」は、戸錠がスイッチになって通電し、すべての個室が施錠されるとランプが光るという、シンプルな電気回路だ。