中国やスウェーデンでキャッシュレス化が進行している。一方、ビットコインを始めとする仮想通貨が注目を集めている。
これらの新しい通貨は、これまではできなかったことを可能にすると期待されている。それは一体何だろうか?
以下では、最も重要なものはマイクロペイメントの可能性であることを指摘し、それを巡って電子マネーと仮想通貨の関係が複雑なものとなりうることを述べる。
ビットコインが登場した時、「マイクロペイメント」が可能になるといわれた。
これは、インターネットを通じて、誰でも少額の代金を送金し、誰でも受け取れる仕組みだ。
これが可能になれば、個人が様々なことをインターネットでできるようになる。
……例えば、誰でもウェブ上の店舗を自分で開ける。
いまは代金を受け取ることが簡単にはできないので、楽天などのプラットフォームに依存せざるをえない。しかし、代金を簡単に回収できるようになれば、自分のホームぺージで店舗を開ける。これは、フリーランサーの可能性を大きく広げるだろう。
あるいは、寄付を地球の裏側の人や団体にも簡単に送れるようになる。
こうして、社会の構造が大きく変わると期待された。
キャッシュレス化の利点として、様々なことが言われる。例えば、札勘定をしたり、釣銭を用意する必要がなくなることや、盗難の心配がなくなることなどが指摘される。これらは確かに大きな利点だが、最も重要なのは、現金やクレジットカードでは不可能だったマイクロペイメントが可能になることなのである。
マイクロペイメントというと、あまり重要な問題ではないように感じられるかもしれない。
実際、経済の議論において、しばしば送金はコストゼロでどんな少額でもできると仮定されることが多い。しかし、現実には、そうではなく、それが経済活動にとって大きな制約になっているのだ。
巨大組織が有利になる大きな原因の1つは、少額の送金が不利であったり、実行できないことにある。
マイクロペイメントが可能になることは、送金に関する限り「摩擦なし」の経済活動が可能になることを意味するのだ。
ビットコインを保有する人が増えてくれば、その夢が実現に近づくはずだった。
ところが、実際には、極めて皮肉な結果になった。
ビットコインの認知度が高まるにつれて価格が上昇し、それによって送金コストが高くなってしまったのだ。いまの状態では、銀行の口座振替より割高になっており、送金の手段として実用的でなくなった。
送金コストをゼロ近くまで引き上げる新しい技術が開発されているが、いますぐ利用できるわけではない。
ところで、 マイクロペイメントを実現できるための条件は、つぎの3つだ。
第1に、利用者数が多数存在していること。これによって、多くの人からの送金を受けることが可能になる。これは、「ネットワーク効果」と呼ばれるものだ。
第2に、送金者や受け取リ者になるために、特別の審査を経る必要がないこと。また、設備投資が必要ないこと。
第3に、送金者や受け取り者が負担すべき手数料がないか、あっても極めて低いこと。
クレジットカードのシステムは、上記の第2と第3の条件を満たしていない。
このシステムは、加盟店が支払う手数料によって成り立っている。手数料は、送金額の3、4%程度と、かなり高い。これは、利用者が代金を支払わなかった場合の回収コストが含まれているからだ。