米安保戦略を読む、実は中ロと宥和するサイン

日米離間と日本の核武装

2017年12月25日(月)

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 トランプ米大統領が12月18日、安全保障戦略を発表した。中国とロシアを「修正主義勢力」「競合勢力」と断じ、強硬姿勢に転じた――との解説が目を引く。だが、川上高司・拓殖大学教授は新しい安全保障戦略は中ロと宥和するサインと読み解く。

(聞き手 森 永輔)

米安全保障戦略を発表するトランプ大統領(写真:UPI/アフロ )

ドナルド・トランプ米大統領が12月18日、「国家安全保障戦略」を発表しました。そもそも「国家安全保障戦略」はどのような位置づけのものなのでしょう。

川上:大統領が就任してすぐに、安全保障に関わる全体的な考え方を国の内外に向かって示すものです。日本が2013年に「国家安全保障戦略」を定めたのは、米国のこれにならってのことです。トランプ政権は成立した後も内部対立が続き安定せず、これまで発表することができませんでした。

川上 高司(かわかみ・たかし)氏
拓殖大学教授
1955年熊本県生まれ。大阪大学博士(国際公共政策)。フレッチャースクール外交政策研究所研究員、世界平和研究所研究員、防衛庁防衛研究所主任研究官、北陸大学法学部教授などを経て現職。この間、ジョージタウン大学大学院留学。(写真:大槻純一)

トランプ氏は2017年8月に、スティーブ・バノン首席戦略官・上級顧問を事実上更迭しました。同氏はトランプ氏の最側近。排外的な政策を提唱することで、大統領選での票獲得に貢献した人物です。しかし、政権が成立してからは、ジェームズ・マティス国防長官をはじめとする軍人出身者と対立していました。

川上:国家安全保障戦略はまさに、マティス国防長官、H.R.マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)、ジョン・ケリー大統領主席補佐官の3将軍が中心となって政権を導く体制が確定したことを示すものと言えます。

 今回の国家安全保障戦略には、これに関連してもう1つの意味があると考えています。3将軍が、トランプ氏の行動にたがをはめたことです。トランプ氏は政権幹部に図ることなくツイッターで言いたいことを言い放ちます。北朝鮮に対する発言内容が、レックス・ティラーソン国務長官の発言と食い違うため、外交ウォッチャーは翻弄されてきました。ケリー氏がホワイトハウスに出勤してまずするのは、トランプ氏のつぶやきの後始末という日々が続いています。この状況を改め、トランプ氏にも国家安全保障戦略に定めた方針の範囲内でのみ行動するよう求める環境を整えたわけです。

 執筆の中心になったのはマクマスター氏、実質的に執筆したのは同氏の信任の厚いナディア・シャドロー氏です。シャドロー氏は近く退任するディナ・パウエル大統領副補佐官(国家安全保障問題担当)に代わって、マクマスター氏の側近に就任する予定。陸軍や国防総省での勤務経験を持つ、ロシア問題の専門家です。

 同氏は「軍事外交」「棍棒外交」――軍事力を背景に政治・外交力を行使する――を提唱してきました。トランプ氏が11月にアジア各国を歴訪するのと軌を一にして、空母3隻を東アジアに展開したのは棍棒外交の一例です。したがってトランプ政権は今後、外交面においても、3将軍もしくは国防総省が主導権を握る体制で政策を進めていくと思います。国務省の発言力は弱まることでしょう。

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「米安保戦略を読む、実は中ロと宥和するサイン」の著者

森 永輔

森 永輔(もり・えいすけ)

日経ビジネス副編集長

早稲田大学を卒業し、日経BP社に入社。コンピュータ雑誌で記者を務める。2008年から米国に留学し安全保障を学ぶ。国際政策の修士。帰国後、日経ビジネス副編集長。外交と安全保障の分野をカバー。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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