静かに広がる「アンチ深層学習」「アンチAI」

ブラックボックス化を警戒

2017年12月25日(月)

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(写真=CHRISTIAN LAGEREK/SCIENCE PHOTO LIBRARY/Getty Images)

 「うちのシステムにAI(人工知能)という言い方は使っていません。書き方に気をつけてくださいね」

 記者は最近、感情の分析、翻訳、セキュリティーなどの課題に挑むAIに関して取材に当たっていた。その際時折、このような注意を広報担当者から受けたのだ。

 過去にはAIの研究者が冷遇される時代があり、自身ではAIを研究しているつもりでも、研究費を得るために「ロボット」などに看板を架け替えていたことがあった。しかし、空前のAIブームに沸く現在において、同じ現象が起き始めているのだ。

バズワードになったAIと深層学習

 その理由のひとつは、AIという言葉が、意味が不明瞭のまま使われる「バズワード」と化し、猫も杓子もなんにでも使われていることへの反感ではなかろうかと思う。自省をこめていえば、これは我々報道機関に責任がある。

 AIの定義は学術的にはっきりとは決まっていないそうだ。手元にある辞書の説明では、ヒトの知的機能を代行できるシステムを指す。では、たとえば1人プレイモードがある将棋や麻雀のゲームアプリはAIだろうか。これはAIでないという意見を持つ人でも、米グーグル持ち株会社、アルファベット傘下の英ディープマインドが手掛ける「アルファ碁」ならAIと呼ぶことに違和感がないかもしれない。両者の大きな違いは、システムが賢くなるための学習機能を備えているかどうかだ。あるいは、アルファ碁ですらAIではなく、すべての機能においてヒトと変わらない能力を持って初めてAIと呼ぶにふさわしいと思う人もいるかもしれない。

 最近の報道はこんな定義を気にもせず、AIと一口に書くだけでその技術的背景や企業間の違いも詳述しない。AIという見出しだけが躍る。そんな報道ばかりでは、開発側も嫌気が差すのではなかろうか。グーグルがAIのフレームワークを公開していることで、簡単なAIならだれもかれもつくれる時代だ。ただただAIと表現されるだけでは、製品の特徴が分からず陳腐にさえ見えることもある。

 そして、推測しうるもうひとつの理由が、「ディープラーニング(深層学習)」への反感。正確に言えば、同じくバズワードと化した「深層学習」という言葉への反感だ。ヒトの脳神経の機能を模した深層学習技術は、アルファ碁をプロ棋士を超える強さに育て上げたことで、報道に頻出するようになった。昨今のAIといえば、深層学習を使うのがスタンダードになっている。しかし、現在のAIブームを巻き起こしたこの深層学習を、ある点ではネガティブな意味に一部の企業は捉えているのだ。ゆえに、深層学習を連想させるAIというバズワードも使いたがらないのではないだろうか。

 深層学習以前のAIは、AIが正解を導くための判断材料の見つけ方や、材料をもとにした判断プロセスを、ある程度ヒトがプログラミングしていた。深層学習は判断材料を探すところからすべてAIに任せている。

 たとえば動物の画像をみて、それが猫かどうか判断する課題にAIが挑んだ場合、旧来のAIはあらかじめヒトが「ヒゲに注目しろ」「目に注目しろ」「耳に注目しろ」などとプログラミングをしておく。深層学習AIの場合は、あらかじめ猫の画像を大量に読み込んでおけば、注目するべきポイントを自ら見つけてくるのだ。

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「静かに広がる「アンチ深層学習」「アンチAI」」の著者

寺岡 篤志

寺岡 篤志(てらおか・あつし)

日経ビジネス記者

日本経済新聞で社会部、東日本大震災の専任担当などを経て2016年4月から日経ビジネス記者。自動車、化学などが担当分野。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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