ドラマスペシャル ヘヤチョウ[字] 2017.12.17

1712月 - による admin - 0 - 未分類

(携帯電話の振動音)
(釜本宣彦)おお…森山久しぶりだな。
どうした?
(森山雅之)ちょっと…相談したい事があってな。
「急ぎか?」まあ…。
(沼尻聡史)ヘヤチョウ出動だ。
またかけ直すわ。
(雷鳴)
(うめき声)
(携帯電話の振動音)
(激しい雨の音)
(振動音)
(銃声)どなたですか?捜査一課の釜本だ。
森山…。
(森山百合子)どうしてこうなったのかわからないんです私には…。
昨日…電話をもらいました。
えっ?会って話がしたいと…。
主人はなんて?電話かけませんでした…。
そんな…!主人の親友だったんですよね?主人のSOS無視したんですか!?ねえ釜本さん!ねえひどい!!釜本さん!
(野島謙二)連続通り魔事件の捜査に若い女刑事を投入してくるなんて東中野署はよほど人材不足らしいな。
(本美紀)「私強行犯係ですよ」
(野島)交通課から刑事になったばかりだろ。
しかも所轄をまたいだ合同捜査本部はこれがデビュー戦。
あっ…!
(野島)どうした?
(舌打ち)なんだよお前酔っ払いかよ。
通り魔に狙われないですかね?被害者は全員若い女性。
しかもスマホで話し中に襲われてる。
お前酔っ払い親父なんか狙わないよ。
でも…。
大丈夫ですか?
(野島)起きなさい。
やめなさい!そんな起こし方じゃあ寝込みを襲う泥棒と間違われてタマ潰されるぞ。
あれ…?ヘヤチョウ?ヘヤチョウ?野島ですよ上高田署の。
以前捜査本部でお世話になったじゃないすか!ああそうだ!野島…野島だ!痛い痛い痛い…。
酔っ払いに声がけする時はな…。
はい…。
頭のてっぺん方向に位置取りして声かけろ。
そんな事はお前常識だろうが!なあ?はい…。
すみません。
うかつでした。
大丈夫ですか?失礼しました!今の誰ですか?釜本巡査部長。
警視庁捜査一課のヘヤチョウだよ。
「心猛くも鬼神ならず」「人と生まれて情はあれど」
(すすり泣き)悪い…ちょっとでかいのしてくるわ。
わざわざ言うか。
(女性)ああごめん遅くなって。
今向かってるとこ。
うん…。
えっ?ああごめんって!わかったわかった…。
あの人危ない。
(女性)馬鹿じゃないの?えっ?ねえ…っていうか結構酔ってない?その声は絶対酔ってるって。
ああっすみません。
はあ…。
(携帯電話の着信音)あっ野島さん。
おい本お前どこにいるんだよ?すみません。
今女の人を…。
ああっ…!本!?おいどうした?
(野島)「本…本!!」おい!塩持ってきてくれ。
なんだよ…。
帰ったぞ!どこ行ったんだよ…こんな時間に。
親父。
幸江はどうした?
(呼吸音)
(戸の開く音)帰ってきた。
おい…。
ああびっくりした。
(春田寿子)あら旦那さん戻ってたんですか?あなた確かヘルパーの…。
春田寿子。
ああ…お久しぶりです。
(寿子)「夜間介護を頼みます」って本当は困るんですけどねえ。
でもまあねこちらとは長いお付き合いだから融通をつけました。
女房なんの用事で?さあね?なんかノートに書いてあるかもわかりませんね。
見てみましょう。
あら旦那さん大変ですわ。
奥さん出て行っちゃったみたいですよ。
嘘〜。
これは病院の書類ですねえ。
お父さんの入院の手続きもう済ませてあります。
今日から事件番だ。
しばらく戻れねえ。
(釜本幸江)右だっけ?左だっけ?何が?顎のほくろ。
どっちだったか忘れちゃった。
ずっとあなたの背中しか見てないから。
朝から何言ってんだ。
親父頼むぞ。
話すのはお義父さんの事だけ。
もしお義父さんがいなかったらあなたこの家に帰ってもこないわね。
馬鹿言うな…。
(ため息)行ってくる。
それって今朝の事ですか?いや…。
ああ…3日前。
取り込みがあって家に戻れなくて。
あきれた。
奥さんが赤信号出してるのに3日も放っておくなんて。
俺の…せいか?
(沼尻)ヘヤチョウすまんがちょっと厄介ごとを頼む。
(沼尻)広範囲で散発している連続通り魔事件の捜査資料だ。
今東中野署に合同捜査本部が立ってる。
邀撃捜査中に捜査員が襲われた。
同一犯ですか?ああ。
迎え撃つはずのデカが逆にやられてちゃ世話ないぜ。
(沼尻)そのドジなデカの様子探ってきてくれ。
私が?名前見てみろ。
「本美紀」本ってもしかして…?
(沼尻)殉職した本警部補の娘さんだ。
(吉沢誠)次に勤務規律に抵触する要因がなかったか確認する。
君はもういいよ。
(稲生隆の声)本は今署長と面談中です。
署長じきじきの事情聴取か…。
絞られてるのかい?
(稲生)まるで尋問ですよ。
本は大事な部下です。
よろしくお願いします。
知らねえよそんな事。
(吉沢)君のような未熟な職員を危険な捜査に当たらせるべきではなかった。
任務に就かせたデスク主任の稲生の判断にまず問題が…。
私が志願したんです。
「女だからって特別扱いしないでください」と。
取り調べはその辺でいいんじゃないですか?なんだ?釜本。
本巡査は事件の被害者です。
責任の追及より記憶が薄れないうちにまずは事情を聞くほうが先でしょ。
なんでお前が…。
うちのキャップに応援要請があったようです。
上のほうから。
上から?じゃあ始めさせてもらいます。
おい座れ。
おいちょっと待て。
本の案件はこちらで精査する。
まず優先すべきは責任の所在を明確にする事だ。
(ため息)現場を知らねえお偉いさんの言いそうなセリフ。
貴様!!誰に向かって口利いてんだ!?ホシの手がかりを探るのが最優先だ。
そういえば…森山の事は残念だったなあ。
自殺する前にお前のとこに電話をかけてきたそうだがなんか聞いてないか?親友だったろう?お前たち。
今その話は関係ないでしょう。
(吉沢)警察官の問題行動は常に検証し対処していく。
森山の悲劇を繰り返さないためにもな。
お前の行動は職権を逸脱している。
捜査一課長に苦情を申し入れるからそのつもりで。
大丈夫ですか?署長にあんな言い方して。
吉沢署長とは昔なじみさ。
大学の剣道部の先輩後輩でね。
ああ俺は捜査一課15係の…。
ヘヤチョウですよね?大丈夫ですか?まずいとこ見られちゃったな…。
君は犯人の顔を見てるか?見ていません。
後ろからいきなりでしたので。
犯人の服装は?わかりません。
夜で暗かったですし。
犯人の年齢は?ほんの一瞬目の端に入っただけですが若かったように思います。
性別は?男性です。
背格好は?背はそんなに高くなかったと思います。
(ため息)あの夜君は何を着ていた?えっ?私のですか?うん。
グレーのジャンパーに白のスカートでしたストライプの。
ジャンパーの中には何着てた?Tシャツでした…白の。
そっか。
じゃあ今日はここまでだ。
もう終わりですか?ああ。
頭を打つと前後の記憶が吹っ飛ぶのはよくある事だ。
何か思い出したら忘れないように書き留めておけ。
大事にしろよ。
あの…釜本巡査部長!ん?私捜査本部から外されますか?どうだろうな?今や君は事件の当事者だ。
私自分で犯人を捕まえたいんです。
せいやっと。
(寿子)はあ〜。
ようやくうまくなりましたね。
おかげさまで。
寝返り介助は2時間おきにしてくださいね。
はい。
(風鈴)釜本さーんお顔拭きましょうね。
はいよいしょ…。
せっかく奥さんが入院の手続きしてくださったのに断るなんて。
病院っていうのはねなかなか入院させてくれないんですよ。
まあもう少しだけ家でなんとか…。
奥さんから連絡ありました?えっ…いや…まだ。
私たちも頑張りますけどね奥さんのような細やかなお世話はとてもとても…。
脳梗塞患われてから6年になりますねえ。
まあよくやってらした。
ええ。
奥さんに「ありがとう」って言いました?えっ?いや…。
駄目ですよそれじゃあ。
男の人はね外で手柄を立てたらほらこうやって賞状がたくさんもらえますけどね女っていうのはどんなに頑張って献身的に介護したって誰も褒めてなんかくれないんですからね。
せめてご主人ぐらい感謝しなくちゃ。
そういう事はわざわざ口で言わなくても…。
言わなきゃわかりません!う〜ん!まったく昭和の男っていうのはこれだから…。
(携帯電話の振動音)はい釜本です。
「沼尻だ。
東中野署管内で変死事案」「当直明けに悪いが動けるか?」はい。
お疲れさまです。
ああ。
おおご苦労さん。
派手にやってくれたな。
(沼尻)ホトケさんは岡崎靖男。
この家のあるじだ。
一人息子を10年前に交通事故で亡くし現在は妻の美千代と二人暮らし。
入電時の状況は?
(柳田)本日午前3時50分隣家の主婦が妻の美千代の悲鳴を聞いて110番通報。
駆けつけた交番の巡査が遺体を発見しました。
包丁はこの家のものか?
(柳田)はい。
同じ柄の包丁がそこに。
玄関の鍵は?正面玄関は内側から施錠されていましたが勝手口の鍵は開いていたそうです。
こじ開けた跡はねえな…。
(沼尻)マルガイの女房だ。
旦那のあの姿を見ちまったんだ。
おかしくなるのも無理はないな。
(栗原)死亡推定時刻の0時から3時の間は熟睡していたそうです。
長年の不眠症で睡眠薬を常用しているとかで。
しばらく聴取は無理そうだな。
はい…。
いい夫婦だ。
ん?いや…うちは家族写真なんて飾ってないんで。
俺のとこもさ。
デカの家なんてそんなもんだろ。
(柳田)キャップ!これを見てください。
血だな。
物色中にホシが指を切りつけたのかもしれん。
すぐ鑑定に回せ。
(柳田)はい。
(池端宗二)近隣を当たっている機捜から不審者情報が入りました。
30歳前後の目つきの悪い男がこの家の様子を伺っているのを近隣の主婦が目撃しています。
(沼尻)人相風体は?長身にサングラス一見して暴力団風の男だそうです。
(沼尻)似顔絵班を送り込んですぐに姿絵を描かせろ。
はい!
(沼尻)ああ…ちょっと待て。
不審者の件は他の捜査員には伏せておけ。
予断は捜査の妨げになる。
ヘヤチョウは地取りの指揮を執ってくれ。
地取りですか?お願いします!通り魔事件の捜査に戻してください。
ああいう事があった以上お前を邀撃捜査に加える事は出来ない。
でも…。
本お前も特捜本部に配属か?はい。
手伝え。
でも…。
ぐずぐずするな!お前はこのヤマじゃ被害者じゃねえ。
デカだ。
ほら行ってこい。
はい。
気をつけ!敬礼!休め!
(池端)殺害されたのは岡崎靖男52歳。
大手OA機器メーカーに勤務。
一人息子の啓太は10年前12歳の時に交通事故で死亡。
以後妻の美千代50歳と二人暮らし。
死因は左胸部刺切傷による失血死。
凶器は刃渡り21センチの包丁でこれは被害者宅のものと断定された。
包丁の刃が全て体内に押し込まれていた事から強い殺意があったとも考えられる。
怨恨による殺人という線もあるわけだな。
傷口は1カ所だが体内に創底部が2つ認められるため一度刺した包丁をもう一度さらに深く押し込んだと思われます。
通り魔事件は依然未解決のままだ。
今回も解決が長引くようなら警察の威信に関わる。
指揮系統に従い職権を逸脱する事ないよう捜査に当たれ。
いいな!?
(一同)はい!一区につき2名で回る。
担当は渡した紙にあるとおりだ。
被害者宅のある1区は俺と本巡査が担当する。
はい。
現場付近一帯には事件の事を知る人物が必ずいると思え。
人の記憶は分刻みで消えていく事を忘れるな!
(一同)はい!それから…。
お前!
(近藤勝俊)えっ俺ですか?名前と所属は?東中野署刑事課近藤です。
俺の話聞いてたのか。
すみません。
私特捜も地取りも初めてじゃないもので。
いいか?ありんこ1匹見逃すなよ。
画像解析班の名誉にかけてな。
(近藤)あの年でいまだに警部補にも上がれず巡査部長のままだぜ。
ヘヤチョウなんて出世できないまま年取った巡査部長の成れの果てさ。
大体優秀なデカなら特命とか鑑捜査の指揮任されるだろ。
地取りの指揮ってのはしょせんその程度って事さ。
近藤さん…。
ああ?行くぞ。
はい。
1区の世帯数はざっと300軒。
一軒一軒生活パターンが違う。
深夜か早朝じゃないとつかまらない家もある。
段取りよく回らなきゃ駄目ですね。
最後に姿を見たのは?
(田村昌代)いつだったかしら…。
ご主人いつも帰りが遅いから。
奥さん夜はどんなテレビ見ます?えっ…テレビ?あんまり見ないけど。
本当?ちょっと見てここ。
(昌代)スポーツニュース。
これは主人が必ず見るの。
そうだ!乱闘…プロ野球の乱闘試合のニュースのあとよ最後にご主人見かけたの。
あの試合は確か事件の2日前だったよな…。
(昌代の声)で…そのあとゴミを出しに行った時にご主人が勝手口から入るとこチラッと見えたの。
わざわざ勝手口から?スポーツニュースのあとなら時刻は12時過ぎですね。
ええ…。
よろしいかしら?もう出かけますので。
ご協力ありがとうございました。
いってらっしゃい!はあ…驚きました。
テレビ欄から証言が引き出せるんですね。
あの…東中野署の者ですがご近所で発生した…。
(女性)「さっき話したじゃないですか。
何回するの?」いえ私たちは初めて…。
(女性)「いい加減にして!」「こっちは忙しいんだから。
警察呼ぶわよ!」あっ…あの…。
(インターホンの切れる音)他のエリアの担当者が回ってきたんでしょうか?いや…ブンヤがかぎ回ってるのかもしれねえな。
記者が警察官を名乗るんですか?「警視庁のほうから来ました」って言うのさ。
記者クラブは警視庁の中にあるからまんざら嘘とも言えねえ。
ちょうどいい。
昼飯にするか。
えっ?まだ11時ですよ。
またね。
LINEする!
(女性)全然痩せなくって。

(店内の音楽)
(女性たちの笑い声)イタリアンだなんて意外です。
立ち食い蕎麦かなんかでぱっと済ませるのかと思い…。
周りよく見てみろ。
サラリーマンが昼飯を食いに来る前のこの時間が狙い目なんだ。
岡崎さんのとこ気の毒だったわね。
奥さんショックで入院しちゃったんだって。
息子さん早くに亡くされて今度はご主人まで…。
仲のいいご夫婦だったのにかわいそうね。
でも…ここだけの話よ?うちの旦那岡崎さんのご主人が若い女といるところを見たって言うの。
バーのカウンターで腰に手回してたって。
(女性)やだ〜!50過ぎて不倫?マルガイには女がいたようだな。
…となると怨恨による犯行の線も考えられますね。
鑑捜査班に知らせて女関係当たらせよう。
はい。
(ブランコのきしむ音)岡崎さんとはお付き合いがないのでお話しする事はありません。
奥さん。
線香を上げさせてもらえませんか?
(鈴の音)所轄から警視庁に異動が決まった時うちの人喜んでました。
これで釜本に追いつけるって。
大学の剣道部の頃から競い合ってたんですよね。
いいライバルでした。
でも捜査一課の過酷な勤務はうちの人には向かなかったんです。
疲れ果てて夜も眠れなくなって身も心もボロボロでした。
私言ったんです。
「命縮めてまで捜査一課にこだわる事ない」って。
ようやく所轄に戻してもらえたのに…。
主人…自分に失望して死を選んだのかもしれません。
釜本さんにはわかんないでしょうね。
釜本さんですよね!?うちの人警視庁に引っ張ったの。
人事課に人となりを聞かれて森山なら間違いないと私が推薦しました。
(百合子)警視庁なんかに行かなければ…!あなたが捜査一課なんかに呼ばなければうちの人は死ななかったと思います!
(百合子の嗚咽)すいません!
(仲島洋一)はい。
ちょっといいですか?近くで発生した事件についてお話を伺ってるのですが…。
ああ…例の岡崎さんの…?岡崎さんと面識がありましたか?花の配達で何度かお宅に伺った事はあります。
昨日はこの辺りに配達に来ましたか?昨日は配達の注文がなかったので…。
もういいですか?配達の途中なんで…。
ああ…どうぞ引き留めてすいません。

(学生たちの声)「心猛くも鬼神ならず」「人と生まれて情はあれど」釜本さんもしかしてあの夜は森山さんの…。
通夜の晩だった。
ぼやぼやするな。
次の家当たるぞ。
はい。
(池端)職場の部下小西香奈28歳。
バーで一緒にいるところを目撃された女性ですが事件当夜のアリバイが取れました。
マルガイには他にも複数遊び相手の女性がいたようです。
部下に次々手出してよく問題にならなかったな。
まあうまく立ち回って遊んでたんでしょうねえ。
知ってたんですかねえ?あっ?マルガイの奥さんですよ。
旦那が若い女と遊んでた事知ってたんですかねえ?何も知らなかったのなら余計哀れだな。
ええ。
奥さんの事情聴取は?ああまだ入院中で許可が下りてません。
盗み目的の流しの犯行ですかね?まあ今のところ有力な目撃情報は例の不審者だけですが。
悪いが地取り班から4人画像解析班に回してもらえないか?うちからですか?
(沼尻)うん。
(池端)姿絵を元にコンビニやATMのビデオを解析して不審者の動きを追う事になった。
いやしかし…うちの地取り班もギリギリの人数で…。
管理官からの指示でな。
どうもここの署長の要請らしい。
(舌打ち)吉沢さんか…。
(ホイッスル)
(足音)騒がしいな。
(池端)ああ通り魔事件の邀撃捜査ですよ。
今日は日曜か…。
帳場を2つ抱えてここも手いっぱいだ。
なんとかやり繰りしてくれ。
わかりました。
(捜査員)いいか?邀撃班。
今日が最後のチャンスと思え。
見逃すな!
(捜査員たち)はい!
(捜査員)敬礼!
(足音)いいか?今夜必ずホシを挙げる。
(捜査員たち)はい!今夜だけでも捜査に同行させてください。
(野島)はあ?何言ってんだよお前。
係長お願いします!自分の職分をわきまえろ。
通り魔事件はお前の持ち場じゃない。
今は特捜の一員として足手まといにならない事だけを考えろ。
(野島)本!係長にあんまり駄々こねんなよ。
本。
お前なんか隠してるな?
(電車の走行音)係長警察を辞めるかもしれないんです。
体の具合でも悪いのか?いえ娘さんが6歳なんですけど重い心臓病で…。
治療法は心臓移植しかないそうで…。
待機してる子供が多くて順番を待つ間に合併症を起こして亡くなる事も…。
望みはアメリカに渡って移植手術を受ける事ですが…。
金がかかるな。
1億円以上です。
娘さんのために資金集めに徹して渡米するか刑事の仕事続けるか係長ずっと悩んでて…。
私を刑事課に引っ張ってくれたの稲生さんなんです。
女の刑事に偏見持つ人多いですけど稲生さんは「デカはホシを挙げる熱意があればいい」って。
何も出来ないですけどせめて部下として少しでも稲生さんの役に立ちたくて…。
大変だなあの人の家も。
(警笛)
(電車の走行音)
(吉沢)今朝も有力情報はゼロ。
捜査会議は君たちの言い訳や泣き言を聞く場ではない。
(吉沢)えー地取り班から画像解析班へ回る4名は機捜から報告のあった住民の目撃証言を元に人物の特定を急ぐように。
(ざわめき)
(近藤)目撃証言ってなんすか?聞いてないっすよ!
(捜査員)俺たちは蚊帳の外かよ!
(捜査員)ちゃんと説明してくださいよ!
(吉沢)不服そうだな。
あの言い方じゃ姿絵の人物がホンボシだと捜査員に思い込ませてしまいます。
有力証言は今のところあれだけだ。
予断を持って動くと現場に落ちている大事な情報を拾いもらす事があるんです。
文句があるならホシを挙げてから言え。
そもそも地取り班がだらしないから捜査が行き詰まっているんじゃないのか?釜本!やってらんねえよ!まったく。
お前ら何油売ってんだ。
捜査会議でコケにされて悔しくねえのか?
(近藤)容疑の濃厚な奴が浮上してるんですよね?俺たち聞かされてませんけど。
情報握ってるのは偉いさんと捜査一課だけ。
所轄のデカは使いっ走りって事ですか?違う。
俺も姿絵は見てねえ。
情報を伏せていたのは先入観が捜査の目を曇らせるのを防ぐためだ。
だったら俺も画像解析班に回してくださいよ。
そっちのほうが楽に手柄あげられそうだし。
何…?
(近藤)効率悪いじゃないですか。
ねえ。
どうせ空振りなのに聞き込みに回るなんて…。
効率…?そんな事でまともな捜査が出来るか!昭和のデカの説教か…。
今なんて言った?デカは靴底すり減らしてなんぼとか言うんですよね。
それ昭和の刑事ドラマですから。
科学捜査の時代に根性論なんて…馬鹿馬鹿しい。
近藤さん!お前なんのためにデカやってる?はあ?被害者の無念を晴らし一日でも早く成仏させてやる。
それがデカの本分だろ!そのために走り回って靴底すり減らすのに昭和も平成も変わりはねえ!
(携帯電話の振動音)
(携帯電話を開く音)
(携帯電話を閉じる音)
(携帯電話の振動音)すぐ戻る!
(戸の開く音)親父!大丈夫か!?
(寿子)肺炎だそうです!往診の先生がすぐに入院させるようにって…。
今病院から搬送の車がこちらに向かっております。
熱いな…。
タオルとか下着とか入院の準備はしたんですけど…。
あのね…ほらああ…!保険証が見つからなくって…!保険証?ええ…ちょっと…。
どこにあるんだかねえ…。
保険証どこだ?保険証…。
あっ俺だ。
「留守番電話に接続します」「発信音のあとにメッセージを録音してください」「録音を終了するには1を」
(救急車のサイレン)「メッセージを確認変更するには#を押してください」「
(発信音)」俺だ。
親父が入院する事になった。
(救急車のサイレン)あのな…。
(寿子)ありました!ありました。
はい。
(救急車のサイレン)
(寿子)ああ!救急車が来ました。
救急車…。
(セミの鳴き声)ああ…待たせたな。
お宅で何かあったんですか?あれ?野島さん。
(野島)うおっよう!おう。
何してるんですか?
(野島)聞き込みだよ通り魔事件の。
お前らもこの辺りを回ってたのか。
捜査が手詰まりで聞き込みエリア広げたんですよ。
もう早くホシ挙げろってうちの署の上がうるさくて。
なあ。
まあ検挙すればうちが近隣署を引き離せますからね。
所轄同士の点取り合戦か。
ハハ…。
だが管内で起きた事件の分はそれぞれの所轄の取り分だ。
お前のとこだけ上に行くわけじゃねえだろうが。
うちの署は一連のヤマをタタキで追ってるもんで。
タタキ?タタキは指定重点犯罪で得点高いっすから。
これで。
じゃあ失礼します!ああ。
おいちょっと待て!え…はいっ!お前岡崎さんの家にも聞き込みに行ったか?あ…ええ。
事件前に2回ぐらい。
まああいにく留守で会えなかったですけど殺しがあるとは…。
本。
はい。
(野島)釜本さん!
(池端)目撃証言を元に描いた不審人物だ。
長身にサングラススーツにタンクトップ。
目つきが鋭くてちょっと見はやくざ風…。
これは…。
野島だな。
警察が来たばかりだと門前払いを食わされた理由もこれだったんだ。
回ってたのはブンヤじゃねえ。
野島たちだ!なんだ?どういう事だ?近隣住民が目撃した不審者は通り魔事件捜査本部のデカだったんです!
(沼尻)何…?
(池端)ああ?上高田署の野島巡査部長です。
あの風体でうろついてたら不審者と間違えられても無理ありませんよ!はあ…。
嘘だろ!?
(沼尻)なんてこった…!
(ヒグラシの鳴き声)ほい。
ありがとうございます。
捜査振り出しに戻っちゃいましたね。
何…1つの可能性が潰れたってだけの事だ。
地取りは根気強く聞き込みを続けるさ。
はい。
ああ…。
なあ本。
お前さ通り魔の顔見てるよな?えっ?もういいんじゃねえか?本当の事話しても…。
初めて会った時のやり取り覚えてるか?性別は?男性です。
背格好は?背はそんなに高くなかったと思います。
あの夜君は何を着てた?えっ?
(釜本の声)犯人についての質問に次々と即答したお前が着ていた服についてはなかなか思い出せなかった。
想定していた問答集に自分の服装についての質問がなかったからだ。
よどみのない返答はあらかじめ用意されてた可能性が高い。
真実を隠すためのつじつま合わせにな。
どうしてそんな事…。
人の心を読むのがデカの仕事だぞ。
お前が通り魔の捜査にこだわるのは犯人の目星がついていたからだと察しはついてたさ。
だがわからなかった。
なぜ見た事を隠すのか。
その謎が野島の話でようやく解けたよ。
検挙票だな?ホシを挙げれば所轄は事件の数だけ検挙票が書ける。
その数が刑事課の成績になる。
だが…。
うちの署は一連のヤマをタタキで追ってるもんで。
タタキ?タタキは指定重点犯罪で得点高いっすから。
おかしな話だが同じ事件でも罪状が違えば点数が変わる。
向こうに先越されりゃ一気に点数持ってかれる。
お前はホシを挙げる事より所轄同士の点数争いを優先させたんだ。
だがつまらねえ競争のためだけに犯人の情報を隠したとはどうしても思えねえ。
他に理由があるはずだ。
「あの晩後ろから襲われた私はとっさに振り向き意識をなくす前のほんの一瞬ホシの姿を見ました」
(美紀の声)左耳にピアスが2つ。
一瞬でしたがその顔に見覚えがあったんです。
免許証。
(美紀の声)交通課で違反切符を切った男によく似ていました。
違反登録票の入力記録を確認しました。
(美紀の声)ピアスの男は黒川健次郎24歳。
駒場でバーテンをしていて店は日曜定休です。
犯行が日曜の夜に集中していたのはそのためだと思いました。
日曜の夜黒川の自宅に張り込めば動きがつかめる。
うまくすれば犯行現場を押さえられる。
そう思いました。
だが殺人事件の特捜本部に配置されてお前は身動きが取れなくなった。
焦りました。
私が黒川の事を隠したために次の被害者が出たらどうしようと…。
見た事を話すのはその時でも遅くなかったはずだ。
どうしても言い出せませんでした…。
自分で逮捕したくて。
理由は…稲生さんか?部下の自分がホシを挙げれば稲生さんに花を持たせられる。
そう思ったのか?
(すすり泣き)稲生さんに恩を返す道はそれしかないと…。
浅はかでした。
刑事を続ける資格…私にはありません。
ちょっと付き合え。
親父は捜査一課のデカだった。
脳梗塞で倒れてもう6年も寝たきりだ。
親父の世話を俺は女房に任せきりにしてた。
女房は家を出ていったよ。
そこまで思い詰めてる事に俺は気づかなかった。
(釜本の声)森山は死ぬ前に俺に電話をかけてくれた。
最後のSOSだ。
(携帯電話の振動音)
(釜本の声)俺はそれも見逃した。
人の心を読むのがデカの仕事だと偉そうな事を言ったが女房の心も親友の心も読めなかった。
刑事の資格なんて俺にもあるのかどうか…。
そんな…。
俺な若い頃ゴンゾウって呼ばれてたんだ。
ゴンゾウ?どうにも使えねえ駄目刑事って事さ。
優秀な親父と比較されてひがみ根性で凝り固まってた。
性根の腐った俺を叱り飛ばして一から鍛え直してくれたのが…本警部補だ。
父が…?
(釜本の声)犯人を追跡中に本さんは民間人をかばって凶弾に倒れた…。
(釜本の声)立派な警察官だった。

(釜本の声)「ホシを挙げて被害者の無念を晴らせ」「そのためにあがいてあがいて走り回れ」「それがデカの仕事だ」と…。
私何やってたんだろう…。
父の思いを継ぎたい…。
いい刑事になろうってあの日決めたのに…。
悔しさと情けなさを性根に刻み込め。
どん底から這い上がってきた奴はいいデカになる。
さあ署に戻って上に報告するぞ。
処分は免れないが今回のヤマには最後まで付き合ってもらう。
(稲生)処分は当面保留に決まりました。
私の個人的な事で本を追い込んでしまいご迷惑をおかけしました。
検挙票に振り回されるのはみんな同じだ。
刑事はしょせん検挙実績という数字でしか評価されねえからな。
(稲生)黒川の尻尾は我々が必ずつかみます。
なあ稲生さん。
あんた警察辞めるのかい?
(斉藤)事件当夜午前3時半頃普段はめったに吠えない飼い犬が吠えていたとの証言を得ました。
(斉藤)証言者は高橋昌子88歳で記憶もあいまいな様子でしたので信憑性はあまり…。
地取り2区は午前3時半頃の目撃証言を当たれ。
(捜査員たち)はい!午前3時半か…。
ちょうど朝刊が配られる時間帯ですね。
新聞の配達員から目撃証言があがるかもしれんな。
近藤新聞専売店はお前が担当の8区だ。
配達員とはもう接触したか?おととい回りました。
今のところ特異な報告はありません。
(池端)「従業員11名のうち本日接触した者は5名」「残る6名の聞き込みは未了」「1名はすでに退職しているため接触は困難」…。
この配達員の退職日はいつだ?ええ…7月8日ですが。
あっ…。
8日は事件の日じゃねえか!
(池端)お前!報告書に何を書くべきかわかってるのか!?
(机をたたく音)
(沼尻)その配達員がホシの可能性もあるぞ!ヘヤチョウ新聞店の再聴取はお前がやれ。
はあ…。
(沼尻)下手な聞き込みをすれば逃亡や犯人隠匿を招く恐れがある。
くれぐれも慎重にな。
わかりました。
では地取り班の責任者として指示を出す。
近藤専売店にはお前が行ってこい。
(池端)おい!近藤がつかんできたネタです。
デカなら自分の持ち場でつかんだネタを他のデカに奪われるほど悔しい事はないはずだ。
再聴取やらせてもらいます!やってられませんよ!落ち着け野島!黙って引き下がるくらいなら任意でもなんでも引っ張ってやりますよ!どうしたんですか?連続通り魔事件の受け持ちが本店に変わった。
連続通り魔の帳場は解散だとよ!どうして…。
被疑者の黒川は浅草北署の署長の息子だったんだ!不祥事を隠すためにごまかすってわけか…。
クソーッ!!靴底すり減らしながら捜査してきたのはなんのためだったんだよ!そんな…。
署長に会ってくる。

(田辺)なんだ?通り魔事件捜査本部の解除は誰からの指示ですか?本部と相談した上での決定だ。
追い詰めたホシをデカの目の前でかっさらう気ですか?この案件は現場の刑事レベルで処理出来る話ではない。
キャリア仲間の息子がホンボシじゃ都合が悪いという事ですか?馬鹿な…。
社会的な影響力を考慮して適切な処理をすると言っているんだ。
組織防衛がそんなに大事か?お前は口を出すな!たかが現場の刑事が。
たかが…?
(田辺)ちょっと待て…。
たかが刑事と言ったか?身を削ってホシを追ってるのは現場のデカだ!被害者の無念を晴らすために地べた這いずり回ってでもホシを挙げる。
それが刑事の誇り刑事魂だ!警察組織の中では刑事も駒の一つに過ぎない。
むしろお前の振りかざすその古臭い刑事魂とやらが現場の刑事を追い詰めているんじゃないのか?森山もそのうちの一人だ。
現場を知らねえ野郎に刑事の何がわかる!?離せ!森山の魂がお前なんぞにわかるのか!?釜本!
(沼尻)もういい!よすんだ!
(稲生)釜本さん…。
ただで済むと思うなよ。
(田辺)これは問題になるぞ!
(近藤)退職した配達員は四方田修三27歳。
事件のあった早朝に寮を引き払い現在は居所不明です。
四方田には前科がありました。
3年前に傷害事件を起こし長野で服役しています。
マエ持ちか…。
こりゃホンボシを引き当てたかもしれんぞ。
(磯崎)四方田の携帯の通話記録を入手しました。
(池端)通話数やけに少ないな。
専売店の同僚によると四方田は口数が少なく人付き合いも苦手だったそうです。
あっこの番号…何度も電話してるのに事件当日を境に一度もかけてませんね。
私も気になったので照会したところ電話の相手は武藤舞子24歳。
四方田と同郷の女性で都内に在住しています。
四方田の女か。
(近藤)恐らく。
事件のあと彼女に最後の連絡を取ってから東京を離れたという事でしょうか?いいや違うな。
四方田はそこにいる。
一緒にいるから電話をかける必要がないんだ。
(沼尻)武藤舞子の住所は?
(チャイム)
(磯崎)おはようございます。
武藤さんいらっしゃいますか?
(解錠音)
(近藤)こちらに四方田修三さんは…。
(武藤舞子)修ちゃん!四方田!落ち着け!話を聞くだけだ!
(四方田修三)嫌だ…!四方田修三ガラ確保!ガラ確保!
(吉沢)無言でにらみ続けて3時間だ。
被疑者にことさら不安を与える行為は「取調べ適正化規則」の第3条に抵触する。
ただちに中止させろ。
しかし四方田から真相を聞き出すのに必要な行為です。
(吉沢)3時間ひと言も発しない取り調べが圧力でなくてなんだ?失礼ですが刑事の経験はおありですか?いや私は行政官だ。
ではおわかりにならないでしょうが取調室の中では今デカと被疑者が必死で戦っているんです。
(ノック)失礼します。
これを。
わかった。
これで決まりだな。
舞子が何か話したんですか?どうして舞子まで巻き込むんだよ!あいつは何も知らない!関係ないだろ!いっつも警察はこうだ!「お前には前科がある」「そんな野郎が言う事は信用出来ない」って。
刑務所で罪償っても俺はまだ罪人なんですか!?これまで君の過去を理由に人格を不当におとしめたデカがいたならすまなかった。
俺に警察を代表出来るわけはないが…。
このとおりだ。
教えてほしい。
君はあの日午前3時半頃被害者宅の近辺にいたのか?…いいえ。
2時です。
(四方田)「あの近くを通ったのは夜中の2時頃」「販売店から寮に帰る途中でした」新聞配達に回ったんじゃないのか?あの日は配達を代わってもらいに行ってその帰りでした。
午前2時に何があった?危ねえだろ!気をつけろよ!
(四方田の声)血でした。
何か事件が起きたんだなって思いました。
なぜ通報しなかったんだ?怖かったんですよ。
関わったらろくな事はない。
警察はきっと俺を疑うから…。
事件の事はいつ知ったんだ?ニュースで見て…。
ますます怖くなりました。
警察に目をつけられたら終わりだと思って…。
それで彼女の家に隠れてたんだね?ぶつかった男の顔は見てるか?知ってる男かい?見た事あるようなないような…。
(沼尻)よしすぐに裏取りの手配だ。
(池端)はい。
本。
釜本に見せたメモあれには何が書いてあったんだ?
(吉沢)「夕食の出前はカツ丼にしますか?」「これで決まり」か…。
3時間経っても聴取が終わらなかったら出前のメモを持ってくるように言われたんです。
(中村)血液照合の結果が出ました。
四方田修三の上着に付着していた血液はマルガイ岡崎靖男のものと一致しました。
(捜査員たちのどよめき)
(中村)それからソムリエナイフに付着していた血液ですが四方田のものではありませんでした。
(沼尻)四方田とぶつかった午前2時の男そいつがホンボシの可能性が出てきたな。
キャップ四方田と一緒に動いてみます。
何かの拍子に記憶の糸がほぐれてぶつかった男の手がかりが拾えるかもしれません。
(四方田の声)信じるんですか?俺の話。
(釜本の声)よく話してくれた。
(四方田の声)傷害事件の被害者の方に支払う示談金がまだ残っているので生活は切り詰めています。
息抜きは…レンタルのビデオを見る事ぐらいかな。
(釜本の声)ビデオ店で見知った顔の奴はいるかい?
(四方田の声)朝刊の配達が終わったあとなんで店にいるのはほとんど学生かフリーター連中です。
(釜本の声)そうか…。
(仲島)行ってくるね。
(店員)はい。
どうした?
(四方田)あいつです。
もういいですか?あの時の…。
(仲島)ご主人から随分前にご注文頂いていました。
仕事が忙しくなって忘れるといけないからと…。
(泣き声)百合子さん…。
釜本さん…。
私の一番好きな花覚えててくれたんですあの人。
(百合子)「これからもよろしく」って…。
私…ようやく泣く事が出来ました。
(泣き声)
(泣き声)あの花屋さんってどんな方なんですか?とってもいい方だと思います。
どうしてそう思うんです?会員同士に接点はありますか?
(里中英子)ええ。
定期的に茶話会を開いていますのでお二人ともよく参加されています。
岡崎さんのご主人も一緒ですか?
(英子)いいえ。
いつも奥様お一人でした。
仲島さんはどうです?
(英子)やはりお一人で。
奥様とは離婚されたとかで…。
(電話)
(英子)失礼します。
繋がりましたねマルガイと仲島。
(警察官)なんですか?なんですか?
(警察官)失礼しました!どうも腑に落ちねえ…。
どれもこれも笑ってるじゃねえか…。
うーん…。
うちの旦那岡崎さんのご主人が若い女といるところを見たって言うの。
だったらこの笑顔は一体なんだ!?花か…。
(セミの鳴き声)
(携帯電話の振動音)はい釜…。
すぐ行きます。
今のうちにご親族に連絡を取られたほうがよいかと思います。
爪伸びちまったな…。
親父大事にしてたよな…警察官の制服。
デカは私服ばかりでめったに着る事はなかったけど…。
(釜本の声)ガキの頃こっそり着てみてはおふくろに叱られたっけ。
バーン!コラ宣彦!捜査に入ればひと月もふた月も留守にする。
呼び出しがかかれば夜中だろうが俺が熱が出ていようが構わず飛び出していっちまう。
母さんが倒れた時だってろくに見舞いにも来やしなかったな…。

(釜本和彦のすすり泣き)
(釜本の声)親父の涙を見たのはあの時だけだ…。
父さん…。
俺だ。
親父が危篤だ。
それだけ伝えたかった。
元気にしてるか?今どこにいるんだ?俺は…。
お前と向き合ってこなかったな。
駄目な亭主だ。
長い事すまなかった。
…ありがとう。
(心電図モニターの音)
(心電図モニターのアラーム)
(医師)釜本さん聞こえますか?
(医師)釜本さん聞こえますか?釜本さん!
(看護師)先生!
(医師)エピネフリン1筒!
(看護師)はい。
(医師)急いで。
(看護師)エピネフリン1筒ですね。
(医師)聞こえますか?釜本さん。
DC!
(看護師)はい。
(心電図モニターのアラーム)
(和彦の声)行け…。
行け…!行け…。
行け…!
(池端の声)仲島は任意同行の求めに素直に応じたそうです。

(ため息)」こうなる事をある程度覚悟していたのかもしれんな。
このまま一気に落とせるといいんですが…。
岡崎美千代さんとは親の会で会ったんだね?何度か配達に行くうちに子供さんを亡くされている事を知って私が親の会に誘ったんです。
親しくしてたんだね。
いろいろと相談に乗ったり…。
相談って例えば…ご主人の女性関係とか?奥さん知ってたんだろ?旦那が外で遊んでる事。
花飾って家族写真並べていい家庭にしようとしてたんだろうになあ。
美千代さんがかわいそうでした…。
同情が…愛情に変わったのか?フフ…あんたは独り身だ。
そんな気になっても不思議はないさ。
私は…美千代さんがご主人と別れたら一緒になりたいと思っていました。
向こうもその気だったのかな?約束したわけではありませんが。
でも…ご主人に離婚する気はなかったんです。
若い女と遊んでるのに?世間体でしょう。
それじゃあ聞くがね。
あの晩…どうして岡崎さんの家に行ったんだ?事件の夜だよ。
夜中の2時頃あんたは岡崎さんの家から飛び出してきた。
その時ぶつかった男がいただろう。
その人の服についた血があんたの服の血と一緒だった。
調べてみたら岡崎さんの血だったよ。
岡崎さんを…刺したんだね?科捜研から報告です。
被害者宅のソムリエナイフについていた血が仲島のDNA型と一致しました。
(池端)よし!これで決定的だ。
(沼尻)あとは本人の供述だけだな。
殺すつもりで家に行ったのか?違います。
話をするつもりでした。
美千代さんと別れてほしいと。
あんな遅い時間に?嘘を言うなよ。
本当です!会社に行くわけにもいかないし。
帰りを待つしかないじゃないですか!奥さんに説得を頼まれたのか?私の独断です。
美千代さんを巻き込まずに岡崎さんと話し合いたくて…帰宅した岡崎さんに声をかけたんです。
お願いします。
話を聞いてください。
お願いします。
(岡崎靖男)いつまで死んだ子供の事を引きずって傷なめ合ってるんだよ。
お前たち見てるとな気が滅入るんだよ。
こっちまで頭がおかしくなるんだよ。
帰れ。
(仲島)あの…お願いします。
(仲島の声)諦めて出直すつもりでした。
けれど…。
怒りがこみあげてきたんです。
子供を亡くした親の思いを美千代さんまで侮辱された気がして…!
(仲島の声)鍵は開いていました。

(岡崎)うわっ…!なんだ?お前。
そこで何してる!謝れ。
俺の息子にも美千代さんにも謝れ!何わけのわからん事言ってるんだ貴様!
(仲島)謝れ!
(岡崎)うわーっ!
(もみ合う声)
(刺す音)
(岡崎)うっ!うわあーっ!うっああ…。
あっああああっ…!うっ…あっ…。
(仲島の声)殺すつもりじゃなかった。
(仲島の声)すぐ逃げようと思いました。
(仲島の声)でも強盗に見せかければ疑われないかもしれないと思って…。
(仲島)あっ…!
(物音)
(仲島の声)美千代さんが目を覚ましたんだと思い私は慌てて家を飛び出しました。
岡崎靖男を刺したあと物盗りに見せかけるために室内を物色した。
これで間違いはないな?間違いありません。
申し訳ありませんでした。
やりましたね。
カンオチですよ。
どうも腑に落ちねえ。
供述に何か矛盾点でも?いや…矛盾はないんだ。
少しもな。
(足音)おい。
係長!お前の証言のおかげで黒川を検挙出来た。
これで…俺も警察を辞める踏ん切りがついた。
え…?このヤマの始末をつけたら娘の親として生きる事に決めたよ。
そうか…。
仲島の供述は整いすぎてるんだ。
素人が人一人殺したんだ。
混乱して記憶がとっちらかったりするもんだろ。
もしかして…仲島はあらかじめ供述を用意していた?
(ドアの開く音)仲島が自供しました。
ソムリエナイフに付着した血採取した指紋や足跡物的証拠も揃い供述とも矛盾しません。
しかし私はまだ語られていない何かがあると…思ってます。
(吉沢)何をやっている!慎重を期すべき遺族への事情聴取をなぜ釜本にやらせる?釜本がつかんだネタですから。
遺族への聞き込みは鑑捜査がやるべきだ。
しかし釜本なら真実を引き出してくれます。
個人プレーに走らせるな!組織にはルールというものがある!口を出さないでもらえませんか。
何!?組織の論理なんかで事件は解決しないんだ!家に絶やす事なく飾ってたのは亡くなった息子さんが好きだった花…ですよね?ご主人その事に気がついてました?お恥ずかしい話ですが実は私女房に家出されましてね。
出て行かれてやっと気づきました。
黙々とやってくれていた事がどれほど大変だったか。
家を空けるのもデカの仕事のうちとわかってくれてる。
そう思ってましたが…勝手な思い込みでした。
寝たきりの親父の容体がゆうべ急変しましてね。
やっと女房に言えたんです。
今まですまなかったって…。
もっとも相手は留守電でしたが。
もし…亡くなったご主人が私のような男だったとしたのなら奥さんは仲島に救いを求めたんでしょう。
仲島はわかってくれる。
花を飾り続ける奥さんの思いを…。
(ため息)
(岡崎美千代)主人は…息子の死から立ち直れない私の事を疎ましがっていました。
いつまでも辛気くさい顔を見たくないって言って…。
でももう10年経ったから忘れなくちゃいけないなんてそんな事ありますか?我が子を亡くしたのに…。
仲島さんは…私を励ましてくれて一緒に息子の死を悼んでくれました。
私がいけなかったんです。
仲島さん優しいから…。
(美千代の声)私のために夫を刺したんだって気づいて仲島さんの事を守らなきゃって思いました。
(美千代の声)強盗に見せかけようって言い出したのは私です。
部屋を荒らしたあと仲島さんには逃げてもらいました。
多分…午前2時ぐらいだったと思います。
じーっと待ちました。
仲島さんが家から遠く遠く離れるまで。
それから…大きな声で叫んだんです。
隣近所に聞こえるように。
仲島の供述とは食い違っていますね。
仲島さんは私をかばって嘘をついているんです。
本当に申し訳ない事をしました。
(ため息)もう一つ確認したい事があります。
はい…。
ご主人を刺したのは仲島を逃がしたあとですか?あなたもご主人を刺してますね?
(携帯電話の振動音)胸の傷口と内部の損傷角度から見てご主人は二度刺されています。
二度目は刺さった包丁をさらに深く柄の付け根まで押し込んでる。
整然とした仲島の供述の中で二度刺した事だけが抜けてました。
一度刺した包丁をもう一度さらに深く押し込んだと思われる。
仲島は知らなかったんです。
彼を逃がしたあと…。
あなたがさらに深く包丁を押し込んだ事を…。
仲島が逃げたあと…ご主人にはまだ息があったんじゃありませんか?話してください。
何が真実なのか。

(岡崎)うぅっ…。
うっ…。
うっうっ…。
うう…ああ…。
ううっ!ああぁっ…。

(美千代)ああーっ!!あーっ!なぜそんな事を…。
ご主人が一命を取り留めて犯行が明らかになる事を恐れたんですか?いいえ。
許せなかったんです。
息子が事故に遭った時夫は電話に出ませんでした。
何度も何度も…何度も携帯に電話したのに。
ようやく連絡がついた時には息子はもう…息を引き取ったあとでした。
私には仕事だって言ってました。
でも違ったんです。
職場の部下と…ホテルにいました。
あの人…私と離婚したがってました。
(美千代の声)でも私は別れてやる気はなかった。
(岡崎)グダグダと…辛気くさい!
(美千代の声)花を絶やさずに家族写真で家を飾り立てたのは夫への復讐です。
あの人が息子の事を思い出していつまでも苦しみ続けるように…。
刑事さん私…10年間ずっと憎み続けてきたんです。
夫の事を。
最後にもう一つ聞かせてください。
仲島さんに何か伝えておく事はありますか?
(寿子の泣き声)ああ〜旦那さん!遅かったよ…。
(泣き声)ありがとうございます…。
お世話かけました。
ううん…違うんだよ。
奥さんが来てくれました。
え?最期を看取ったのは奥さんなんですよ。
(泣き声)
(足音)「心猛くも鬼神ならず」「人と生まれて」
(幸江)お義父さん。
幸江…。
戻ってきてくれないか。
お前に話したい事がたくさんあるんだ…。
私も…。
2017/12/17(日) 21:00〜22:54
ABCテレビ1
ドラマスペシャル ヘヤチョウ[字]

内野聖陽、渾身の一作!事件解決に奔走する刑事を、一人の“人間”として、その悩みや葛藤を描く、これまでにない骨太な刑事ドラマ!

詳細情報
◇番組内容
肩書きは一介の巡査部長に過ぎない刑事だが、誰もが認める高い手腕で“ヘヤチョウ”として信頼されている男・釜本。親友で刑事の森山から久々に電話をもらうが、緊急出動がかかり、かけ直すこともなくそのままに…。その夜、森山は拳銃で自殺してしまう…。森山の妻から「主人のSOSを無視したんですか」と責められた釜本は、自らを責め通夜で泥酔して帰宅。すると、テーブルには妻の幸江が署名・捺印した離婚届が置かれていて…
◇出演者
内野聖陽、武田梨奈、平田満、吹越満、奥貫薫、石橋蓮司
◇原作
飯田裕久『地取り』『検挙票』(朝日新聞出版)
◇脚本
山本むつみ
◇監督
猪崎宣昭
◇音楽
吉川清之
◇おしらせ
☆番組HP
 http://www.tv-asahi.co.jp/heyacho/

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz

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