（秒針の音）
（アラーム）
（風の音）
あ…風があったかい
（水音）
（カモメの鳴き声）
５月朝起きて窓を開けても身をすくめないですむ風が吹くようになった
（風の音）
桐山零。
これが僕の名前。
大きな川沿いの小さな町で僕は暮らしている。
Ｃ級１組五段１８歳。
職業プロ棋士
・「ゆうやけ雲が耳打ちした」・「『次は君の番だよ』って」・「ひまつぶしのゲームに飽きたから」・「どうせスケープゴートなんだろ」・「僕は僕の世界の王様だ」・「水の上も走れるんだ」・「床に落ちた卵も逆再生」・「宇宙飛行士にだってなれんだ」・「空から降りてきたビーズを」・「拾い集めてたらいつか」・「辿り着くだろうひとりきりの」・「自由の旗を立てるんだ」・「穴だらけのジーンズを履いて」・「すきま風に涙こらえて」・「ひとつふたつ大きく息を吐いて」・「立ちあがるんだボクサー」・「起死回生のチャンスは一度」・「絵に描いたドアをたたいて」・「色はにほへど散りゆく花を」・「咲かせるのは自分さ」
（鳥の鳴き声）
（ホイッスル）
５月。
将科部としての活動がいよいよ始まった
（野口）あいや…ちょっとちょっと待って下さい。
ほ…本を見てもよろしいですかね。
どうぞ。
うーん玉は包むように寄せよ…か…。
僕にとってはほぼ初めての部活だ
（野口）うーん…コレがこーででもそうすると角がとられちゃうから…。
ううう…。
負…負…まけました。
くううう。
ま…負けがこんなにも…苦しいものだとは…。
か…勝った…ゼーハーゼーハー。
（野口）日常ではこんなにシビアに「勝ち」「負け」を問われませんからね…。
しかも自分から「負け」を見極めて宣言しないといけないだなんて…。
しかも本を読んで対策を練ってもたいてい相手は「本」と違う攻撃をしてくるのでもう…どうしたらいいか…。
このように将棋格言カードまで作ったのに…うう…。
しかも「対策」を練っても相手がまた「対策の対策」を立ててくるのでそうするとこちらも「対策の対策の対策」を立てなければならず。
もうキリが無いではないですか!?まあ…まあキリはありませんねぇ。
あたりまえですが相手は本の通りには動いてくれないので大筋に気をつけながら進むんです。
まず棒銀ならば自分の飛車が成る事が目標なのでソレを目指してください。
その際なるべく自分の駒も取られないよう慎重に。
うう…では成った後は？相手の王様を捕まえるのが最終目標なわけですからなるべく多くの味方を連れて相手の王様を包囲して行くんです。
ニャー。
ニャー！せんぱいえんごするニャ！心強いニャ！でもっっ味方をたくさん連れて行ったら自分のお城が手薄になってしまうんじゃないですかっ。
あー気付いてしまいましたね。
そうなんです。
（ホラ貝の音や馬のいななき）
（鬨の声）ニャニャニャニャニャニャ！王様よこせーニャニャー！王さまは！絶対に守る！！ニャー！ニャーニャー！味方の数は限られますからね。
かといって守りばかりしてしまうと攻めが足りないし…。
ボクも手柄を上げるニャー。
あっ銀さんちょまっっもどってもどってー！！ニャー。
ニャーニャー。
キャーッ。
くるな！攻防のバランスは永遠のテーマなんですよ。
まぁ後はたくさん指して覚えていくしか…。
本だけではなく今はネットで対戦とかもできるので家でも一人で気軽に楽しめますし…。
（林田）桐山ァァァ！！コイツをちょっとビシっとやっちゃってくれよ！！このままじゃオレ負けちまうよっっ。
次の一手どうしたらいいのさっっ。
コイツをギャフンと言わせてやりたいんだよ。
自分で考えて下さい。
何だよ！！冷たいぞ桐山っっ。
お前それでも元オレの生徒か!?ズルはダメです。
テストの時カンニングしたら先生は許すんですか？アウトでしょ？わかりますよね？
（林田）オレはそんな正論が聞きたいんじゃないんだよ！正論ていうかルールでしょ。
子供じゃないんだから。
さあどんどん指しましょう。
「負ける事」をあまりおそれずに。
たくさん指さないとカンはつかめませんから。
「負けに慣れろ」という事ですか？慣れてもダメです。
「負け」が悔しくなくなったら勉強しなくなってしまうので…。
はいっっどのくらい強くなればこんな悔しい気持ちとおさらばできますか。
んー…。
強くなってももっと強い人と当たれば負けます…。
そうすればやっぱり内臓がひっくりかえるくらい悔しいです。
（林田野口）キリないじゃないですか!?はい。
いつまでも悔しいしいつまでも苦しいです。
勝った時以外は…。
「強く」なればなる程負けた時くやしくなります。
むしろかけた時間の分だけ負けるとくやしいので進めば進む程くやしくなります。
（林田）おいちちょっと待った桐山!?お前…将棋やってて楽しい？たの…え？イカンッまあまあ桐山君おっお茶でもいかがですかな？校庭のウラの空地でつんだハト麦で作ったハト麦茶ですぞ☆野口よ自給自足って本気だったんだな…。
タンポポの根で作ったコーヒーもありますぞ？それもう化学じゃなくてすでに農業だよ？
（飲み込む音）ボクちょっと…トイレに。
おおさすがハト麦！！利尿効果がこんなにも！！桐山早く戻れよ。
４時から名人戦のＢＳの放送始まっからなっっ。
あはいいそぎます。
（テレビの音声）
（野口）しかしそうだったのですか…。
桐山君はもうすでにプロで生活してらっしゃったのですか…。
あのシビアな「勝ち」「負け」の世界ですでに桐山君は生きているのですね。
一番強い宗谷名人だって勝率は７割。
１０回に３回は負けてるんだよな。
（野口）ああ…この方は存じております。
以前七冠を取られた方ですよね？今日はその方の対局の中継なのですね。
ああ名人戦の第二局。
一局目は挑戦者の隈倉に負けている。
強くなればなるほど負けた時はくやしいか…。
じゃあこの高さにいる人間が負けた時って心の中はどんな事になってんだろうな。

（テレビ）お始まった。
（アナウンサー）「第６９期名人戦第二局一日目です。
まずは今朝の両者入室の模様からご覧下さい。
まず８時５３分挑戦者の隈倉健吾九段入室しました」。
（アナウンサー）「そして８時５５分に宗谷名人入室」。
（シャッターを切る音）
（アナウンサー）「対局開始は午前９時。
まもなく第二局開始です」。
（かみ砕く音）楽しそーだねぇ宗谷君。
妬けるなぁ。
まーまー待ってなって。
棋匠戦になりゃ宗谷の方から会いに来てくれるさ。
挑戦者としてなっ。
おーコワッ楽しみだねぇ。
宗谷くん可愛い顔して骨砕きに来るからね。
あーこわいこわい。
（神宮寺）そりゃあアンタがひらひらとからかうような手を指すからでしょう。
（柳原）からかってなんて…オレはいつでも真剣ですよ。
あーゴメン☆真剣にからかってんだよね。
ハハハ…正面切って殴り合って勝てるんなら殴るけどね。
も体力的にキツイもんね。
なんせこちとら還暦前ですから。
死んじまうっつーの。
フフフフ…思いっ切り技をかけても怪我しない。
全力で殴っても同じ位の力で殴り返して来てくれる。
そりゃ宗谷も隈倉にあたるのは嬉しかろーよ。
そしてそれは隈倉にしたって同じ事。
あいつらお互いにお互いが相手の事を力いっぱいブン回しても壊れないおもちゃだと思ってるからな。
（林田）しっかし絵になるなぁこの２人。
ふと思った。
島田さんも今どこかでこの２人の姿を見守っているのだろうか。
西陽で朱く染まった教室で画面の中のその人は
微かに笑っている様に見えた
（ししおどしの音）う…うわー。
て…手づかみですよ？
（林田）すっげケーキ３個瞬殺だよ？
（野口）ペロリですよ？ペロリ！！しかも目はがっつり盤をにらんだままっ。
なんとごうかいな…。
それにしても…不思議なシーンですね。
こんな真剣に和服でビシッと戦ってる最中にいきなり「おやつ」ですからね。
しかもそれが全国に中継されてしまうという…。
まぁ脳が体の中で一番の「大喰い」の器官だからな。
しかもブドウ糖しか栄養に出来なくて…。
将棋なんてその脳だけをフル回転させてる訳だからな。
でもって宗谷は…。
脳直でエネルギー補充キター！！角砂糖何個入れたよ!?今っっ。
しかもレモン…３枚ｉｎ!?疲労回復のクエン酸と脳エネルギーの糖分。
率直すぎる！！さすが名人戦。
（太田）実に効率的ですね！
（林田）やっぱり怪物だよこの人たち。
色んなイミで。
そこですか!?
（柳原）うーわー。
ケーキ３つ瞬殺いい食べっぷりだなァ隈ちゃん。
もうすでに「名物」だよな名人戦中継の。
この喰いっぷり。
絶対「おやつタイム」映すもんなっ。
しかもまた隈ちゃん飲みっぷりもハンパないからなぁ。
ケーキつまみに芋焼酎ボトル１本空けた男だぜ？うわー合うの？それ。
合わんだろ。
それにひきかえ宗谷と来たら…何とも味気無い男だねぇ。
しかもアレ角砂糖だと思うだろ？え違うの？ふふふふっブドウ糖☆うわっ何よそれただのエサじゃんか脳のっっ。
ホントに味気ねぇなあ。
らしいけどさハハハッ。
（神宮寺）何か今売ってんだよ。
やわらかく四角く固めたヤツ。
薬局とかコンビニで。
（柳原）詳しいね。
頼まれたんだよ宗谷にこないだ京都で。
全部喰っちまったから買って来てって。
京都…ああ獅子王戦か島田との…。
（シャッターを切る音）
（神宮寺）島田をねじふせるのにそうとう頭と体力を使ったって事だな。
４−０で余裕に見えたがな…。
（柳原）追われる方も必死か。
（野口）「脳は大喰い」か。
そうだ桐山君ラムネって何で出来てるか知ってますか？え？あいえ。
ブドウ糖とでんぷんです。
ブドウ糖…？
（野口）しかも作れるんですよカンタンに。
作ってみますか？一日目の中継も終わった事ですし。
確かまだ材料の残りがあったはず…。
何でまたそんなモンが？去年のバザーで実験試食会をしたんですよ。
ホント納豆といい稲作といいハト麦茶といい…。
お前らなんか喰ってばっかりじゃないの？ハハハハッ科学ですよ科学の一環としてですよ。

（野口）まずは細かくくだいたブドウ糖をよくふるいにかけます。
ビーカーに片栗粉と…水とこれだけだと味気ないのでクエン酸を入れましょう。
すっぱいと口がスッキリしますからね。
クエン酸は疲労にも効きますからね。
で混ぜ合わせ少々加熱します。
そんなに少しでいいのか？クエン酸って。
（野口）これはね少量でも超すっぱいんですよ。
でブドウ糖に少しずつ混ぜて…もんでもんでギュッとして！！ハイ出来上がり。
え!?もう？こうやって小さく切り分けて自然乾燥させればカンペキです。
うわぁ…！まだ固まりきってませんがどうぞ。
おおホントだラムネだ。
スゴイ！！！ラムネってこんな風にできてるんだ！！桐山君はすごいビックリしてくれるので実験のしがいがありますねぇ。
じゃあ重曹を入れたモノも作ってみますか？重曹？
（野口）炭酸水素ナトリウム…炭酸ですな。
コーラみたいにシュワシュワしますぞ。
僕やってみていいですか？どうぞどうぞハハハ…いいですねえ桐山君。
科学の素晴らしさを解っていただけて来たようですな。
これって科学なの？もちろんです。
何をおっしゃいますことやらっっ。

（野口）そうそう。
あっ水入れすぎはダメですよ！そうです。
でまぜてまぜて。
えーとこのくら…い？桐山お前意外とぶきっちょなのか？ぷくく…。
（野口）ちょっと多いですかねぇ。
ああれ？水多過ぎた？
（林田）桐山お前子どもか!?なんで右手と左手同じ方向に動くわけ!?お前さ右手で四角左手で三角同時に描くのできないだろ？ケケケククク…。
で…できますよ。
（林田）ホントかぁ？
（野口）桐山君大丈夫ブドウ糖を足せばいいだけです。
復旧できますよ。

あれ？何だコレ…
オレ部活やってる…。
笑ってしゃべってる。
学校で…
（野口）さあ食べてみましょう。
桐山くん。

ラムネは甘くて口に入れたらホロホロと崩れて
胸いっぱいに溶けていった
（林田）ん桐山こりゃ重曹入りの方がだんぜんうまいなっ。
（野口）こちらの方が爽やかさが出ますなやはり。
ハハハハ…。
うっかりすると目から何かが出そうだったけどそれは死ぬ気でふんばった
あのこれ…もらって帰ってもいいですか。
残ったラムネはノートの切れ端に包んで
カバンに入れた
ひなちゃんとモモちゃんにあげたら喜ぶかもしれないと思ったから
会いに行こう。
あの橋を渡って

そして
（モモ）れいちんだー。
ラムネの作り方を
（ひなた）あーれいちゃんだ。
部活の話を。
野口先輩の話を。
先生の話を
いらっしゃい。
聞いてもらいたいと思ったんだ
・「どうして笑うのさ指先でなぞる夜は更けて」・「大きすぎるこの世界の隅で心は溶けて行く」・「枯れない花が雨を弾くように」・「大切なものが零れてしまった」・「いつのまにか一人きり遠くまで歩いてた」・「忘れてた本当の僕の声不思議な気持ちで」・「長い夜の明けたあと思い出す夢のように」・「懐かしい永遠に身を委ねまた歩き出せそうだ」
（あかり）まあ。
ん〜っ♪シュワシュワするね。
どう？モモ。
んーっっ。
れいちゃんたちが作ったんだって。
わぁ…！すごい！！私も作ってみたいな。
れいちゃんおしえてくれる？うんもちろん。
んっんっ…シュワシュワー！！！「３月のライオン」次回もお楽しみに。
零ちゃんありがとう！ラムネすっごくおいしいね！
（モモ）シュワシュワー！！2017/12/25(月) 01:20〜01:45
ＮＨＫ総合１・神戸
アニメ　３月のライオン　第２シリーズ「第１話」[字][再]

高校生プロ将棋棋士・桐山零の成長を描くアニメの第２シリーズ。厳しい勝負が続く中、零のよりどころである川本家の次女・ひなたが、中学校でのいじめに巻き込まれていた…

詳細情報
番組内容
東京の下町・六月町に一人で暮らす桐山零は、高校生にしてプロの将棋棋士。放課後理科クラブと将棋部を合体させた「将科部」では、零は、部員たちに将棋を教えたり、ラムネの手作りを教わったりと順調に活動していく。学校の中にできたあたたかな居場所に喜びをかみしめる零。ラムネを手に、もうひとつのあたたかな居場所、川本家へと向かう。
出演者
【声】河西健吾，茅野愛衣，花澤香菜，久野美咲，大塚芳忠，竹内良太，玄田哲章，櫻井孝宏，うえだゆうじ，利根健太朗
原作・脚本
【原作】羽海野チカ，【脚本】東冨耶子，木澤行人
監督・演出
【監督】新房昭之

ジャンル :
アニメ／特撮 – 国内アニメ

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード（ステレオ）
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