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2017.12.24

[書評] ごまかさない仏教(佐々木閑・宮崎哲弥)

 仏教学者の佐々木閑に、仏教者と称する評論家・宮崎哲弥が、仏教とは何かといったことを問うという、出版社あるあるの対談書だろうと、『ごまかさない仏教(佐々木閑・宮崎哲弥)』(参照)について予断をもっていた。というのも、宮崎について、もうずいぶん昔になる、というか曲がりなりにも小林よしのりのゴーマニズム宣言を読んでいたころのことだ、宮崎が仏教者であることがその漫画でおちょくられていた。小林に共感しない私ではあったが、宮崎の仏教観もヘンテコなものだなと思ったものだった。人の宗教観というのは存外に変わらないものだから、宮崎のそれも同じだろうし、佐々木も最近の国際的な仏教学を知識を淡々と語るくらいかな、いずれ私が読むような対談本でもあるまいと思っていた。『ゆかいな仏教 』(参照)みたいな本かなと。

 が、この『ごまかさない仏教』は、そうでもなかった。おもしろい。読み進めるにつれ、勉強になってしまうのである。すまなかった、宮崎さん、よく仏教を学んでいる。
 副題に「仏・法・僧から問い直す」とあるが、私の誤解でなければ、「律」の視点から原始仏教を再構成し仏教をとらえるという確固たる視点で、私がかつて批判してきた東大系の理念的な「原始仏教」とも異なり、近年の国際的な仏教学も踏まえ、とてもバランスのよい仏教の基本像が描かれている。もう少し足して言うなら、中村元はきちんと批判されているし、昨今日本でも流行るテーラワーダ仏教についても学問的にきちんと批判されている。これは現代日本社会に重要なことだと思う。
 近現代日本は、西洋文化の受容とともに独自のキリスト教文化受容を行い、私のような亜インテリを生み出し、ミッション系としての各種学校体制を維持してきた反面、これへの反動としての神道や仏教の再構築も行われ、これらが新興宗教的な前近代性を払拭するにつれ、いわばファッションとしての仏教や神道が出てきた。それらの内実を見ると、確かに「ごまかし」と言ってもよく、その点、本書書名「ごまかさない仏教」は妙に言いえている。
 他方、日本の既存仏教界については、本書はサンガの視点から、「日本はサンガを持たない唯一の仏教国になってしまったのです(佐々木)」と明瞭に指摘している。当然、その原点ともなる鑑真への対応も簡素ながら言及されている。ここも重要な点だ。
 個人的に、特に勉強になったなと思ったのは、サンガ(教団)のとらえ方、輪廻思想やアートマン思想の受容の仕方であった。それと、主に龍樹が想定されているが大乗仏教との関連もである。
 その延長ではあるが、ユーラシア史的な大乗仏教や密教については、対談でまったくないわけでもないものの、ほとんど言及はない。観音信仰といったものと仏教との関連はここでは問われていない。私の理解ではアショーカ王の統治では仏教が帝国のダイヴァーシティへの統治機能として仏教が推奨された。これが後にはユーラシアの統治原理と結びつく。さらに私見になるが、その一端が北魏を経て日本の仏教の基本になったのだろう。こうした視点は、歴史学としては「仏教」に関連するとはいえ、宗教として見た場合、前提として本書の範囲からは外れているのだろう。
 その意味で(知識の提示だけなく)、本書は、微妙にではあるが、ごまかさない仏教として真の仏教を志向して問われている。本書対談者二者とも、仏教学と仏教信仰は異なるとしながらも、対談でモデル了解された共通項について、仏教信仰としての共感が見られる。そのあたりは読者によっては、生きる指針としての本書の魅力になってしまうのかもしれない。また、二者はその対談の仏教像に社会的なアクチュアリティも投影している。そこは私には疑問を感じさせる点でもあった。
 そこにあえて自分を近接させるなら、私は道元に私淑しているようなものでありながら、道元の説く釈迦像は受け入れていない。道元は自身こそが真の仏教としているが、私は道元の思想が仏教であろうがなかろうが、どうでもいい。私はどのような宗教であっても自分は異端としてしかありえないだろうと思うし、異端であることはどうでもいいと思っている。(これもまた「仏教」とは言えないだろうが。)
 とはいえ、この手の対談書としては、ためになりかつ面白いものだった。昨今の日本で流布している「本当の仏教」という多様な言説は本書でかなり整理できるだろう。

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