2016年02月18日
"しゅうむらさん"こと大村です。
実に5年ぶりのブログ更新になります。懐かしくて泣きそう。
この記事は2015年アドベントカレンダー企画の一環です。
毎日記事がアップされる予定なので、そちらも是非御覧ください。
http://www.adventar.org/calendars/823
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私の記事のテーマは、「スピードキューブのための身体と心」です。
先に結論から書くと、身体の方が心よりも重要視されるべきです。
もちろんどちらも大事な要素なのですが、身体は心に比べてコントロールが簡単なので、メンタルコントロールのための第一歩として身体をコントロールしよう!というのが以下の要旨となります。
私の見る限り、スピードキューブの世界に身体を意識したプレイヤーはほとんどいません。
多くの人は素人目に見ても改善点があり、また本人がそれに気がついていないように見えます。
私も高いレベルで実践できているわけではありませんが、今後の発展を考えた時には無視してはいけない要素になってくると信じています。
もちろんキューブのために求められる身体能力はそんなに高いレベルではなく、良い身体の姿勢をキープする程度で十分です。
この記事を読むみなさんにベンチプレスを薦めるわけではないので安心してください。
問題は、そんな簡単なレベルですら意識をして行動しないと良い状態に保てないことにあります。
Fig. 世界大会2015ブラジルへのトランジットで立ち寄ったカナダはピアソン空港にて、わずかな空き時間でも筋トレを欠かさない意識の高さを見せる日本代表選手の大村さん
Fig. 若い世代に身体の重要性を伝える大村選手とそれを煙たがる高岡さん
スピードキューブは頭脳スポーツではなく身体スポーツです。
一般にパズルの持つイメージにとらわれていると不明瞭になりがちなポイントなので、以下を読む前に再確認しておきましょう。
一般に、人間の要素として「身体と心」という二元論で語られることがありますが、これらは独立ではありません。互いに影響を及ぼし合う身体と心ですが、人間が生物である以上は根底にあるのは身体です。
風邪をひいているときに100%の集中力をキープすることはできませんね。
特に心の安定というのはなかなか自分で意識するのは難しく、プロスポーツ選手でも完璧にコントロールできる人はいないでしょう。
勝負時には様々な感情が頭をよぎります。
次のタイムが良ければPB更新だ、悪いタイムを抱えてしまった、勝ちたい、彼女がほしい、他人のタイムが気になる、彼女がほしい…
これらは時として邪魔な感情となります。
ウサイン・ボルト選手がレース前に胸に十字を切るのを見たことがありますか?
また最近ではラグビー日本代表の五郎丸選手の活躍が報道され、彼がキックの前に行うルーティーンが話題になっています。
心のキャパシティはある程度決まっているので、マイナスの影響を与える思考をする余地がないほど身体の細部をコントロールすることに集中することでメンタルコントロールをしようとするもので、スピードキューブにも活かせる発想です。
近年のスポーツ科学の発展により新しい知識が次々と得られて、高いレベルに組み込まれています。
マイナー競技にまで浸透するのには時間がかかるので、自分から積極的に情報収集しなければなりません。良い所はどんどん取り入れて行くべきです。
「本番に弱い」とは?
私を含め、多くの人が自分は本番に弱いと思っているのではないでしょうか。
家で練習しているタイムが出なかったり、決勝でタイムが落ちたりといった話をよく耳にします。
しかし、これは当たり前のこととして受け入れるべきです。過度に気にするとさらなる緊張を招いてしまいます。
問題なのは、多くの人が「俺はメンタルが弱いからな~~」と言った苦笑いで思考停止してしまうことです。
その原因を追求して改善しないと意味がありません。
そもそも、非公式の自己ベストタイムが計測される家での練習というのは特別な環境なのです。
慣れ親しんだリラックスできる場所で、いつもの照明、机、イスのセッティングで、本番と違うキーボードタイマーで、自分の調子のいいときにしか練習せず、しかも無限に近い試行回数がある。
こんな理想的な環境で出したタイムと一発勝負の本番を比較したら「本番に弱い」という結論に至るに決まっています。
本番で良いタイムが出たとすれば、それはまだまだタイムが収束していない成長途中であるということです。普段の練習で追い込みきれていないということなので、もっと日頃の負荷を増やすと良いです。
かつては非公式記録を自慢しあう時代もありましたが、現在トップレベルの選手は公式記録以外に価値が薄いことに自然と気がつき、それほど重視していません。
公式競技が全てと考えることで、絶対に倒せない相手である絶好調の自分自身の影と競うことを避けられます。
そうは言っても、やっぱり本番で良いタイムを出したい!とみなさんは思うでしょう。私もそうです。
自分を最大限良い状態に持って行くにはどうすればいいかと考えましょう。
スピードキューブの基本
まず、基本をおさらいしましょう。
これができていない人は、本番で弱い以前に日頃から弱い可能性があります。
既に文章にまとめてあるので、こちらを読んでください。
簡単に言うと、良い姿勢でいましょうということです。
考えるべき要素としては適度な脱力、イスの座り方、キューブと顔の距離などがあります。
心をコントロールするのは難しい
よし、じゃあメンタルを鍛えよう、となった時に、みなさんは何をしますか?
具体的なイメージをするのは難しいはずです。出家して滝に打たれれば何かが変わるでしょうか。
心ってなんですか?
これは人によって様々な答えがあるでしょう。
僕は愛だと思います。マジで。
心という曖昧なものを操ろうとするのは困難です。
では、何が自分にとってコントロールできるパラメータなのかを消去法で考えた時、見えてくるのは自分の身体と環境だと思います。
身体の影響は意外と大きく、普段と同じ体勢になるだけで落ち着いてくるものです。
それこそがルーティーンの意味です。
可能な範囲で多くを支配下に置く
体調
身体が冷えているよりは、軽く汗ばんでいるくらいが身体がよく動きます。
重ね着をできるよう衣類に注意しましょう。
また、決勝が集中する午後で迎える疲れのピークを軽減するため、私は昼休みに仮眠をとります。
大会前日の飲み会、夜更かしなど論外です。戦う前から負けています。
Fig. 日本にいた時の感覚を思い出すためにブラジルで壁倒立をする大村選手
競技環境
照明や机の高さは会場依存ですが、椅子の高さは調整可能なのでこれを考えるのは非常に重要だと思います。
キューブを見降ろす角度や距離、身体の緊張具合、身体とタイマーとの位置関係など多くの要因に影響します。
一般にキューブの大会が開かれる公民館の椅子などは過去の日本人体系に合わせてあるため、現在の若者にとっては低く感じることが多いです。
私は特に184cmと長身のため、毎回ストレスに感じていました。
私はイスを2つ重ねたり、座布団やクッションを持ち込むことでこの問題をクリアしています。
イスの高さを意識し始めた最近はそれほど大きく緊張することもなく、関西定例大会、東大大会と333部門で優勝することができました。
Fig. 関西定例大会2015での333優勝者とそれを煙たがる選手
また、着席してから与えられる最大60秒の猶予を無駄にしている人も非常に多いです。
競技卓につくとすぐにジャッジがキューブ袋を置いて「準備はいいですか?」と聞いてきますね。
これに合わせるようにすぐに頷く人が多いですが、オススメしません。
WCA規約によれば最大1分間ジャッジを待たせて良いので、十分にこの時間を使ってコンディションを整えましょう。無理に引き延ばすことはありませんが、一呼吸くらいおいてみたらどうでしょう。
Feliksは必ず予備キューブを回し、指の状態を確認してから試技をスタートします。
これは推測ですが、彼は普段の練習環境に近づけようとしているのではないでしょうか。
大会では一試技毎に時間が空いてしまいますが、普段の練習ではキューブを揃えると同時に次のスクランブルを始めますね。
たくさんのキューブを連続で解く中の一つとして本番の試技を捉えると重要性が分散されて気が楽になるでしょう。
日本人で言えば、洲鎌くんは肩甲骨を大きく回して筋肉をほぐし、ミサワさんはオタクっぽい動きをします。
私は予備キューブを持って顔との距離感や照明の当たり具合を確認することにしています。
このように、自分にあったルーティーンを見つけることが大事です。
大事なことは、普段からこれらの行為を行うことです。
本番だけやっても効果は薄いでしょう。
少なくとも大会の直前には本番を見越して環境を真似た練習をするべきです。
「そのうち慣れる」に期待しない
キュービストには変人が多いので、緊張しない人もいます。
しかし私をはじめとする一般人は緊張して当然です。
私は世界大会2009で444部門優勝しましたが、動画で見るとわかるように力が入ってガチガチで、手も震えています。
緊張しても勝てるくらい圧倒的に強かっただけで、実力を出せたわけではありません。
また、2008-2012あたりの333のタイムの統計を取ってみると、決勝が予選ラウンドよりも0.5秒ほど遅かったのです。
初心者はともかく、大会常連で未だに本番で緊張する人は意識的に何かの対策を打つべきです。
慣れや時間が解決する問題ではありません。
私は最近になって初めてこの記事のようなことを考え実践してから、いくらか改善の兆しが見えています。
キミだけのルーティーンを作って、大会本番で良い記録を出そう!
Fig. まだ肩幅が狭かった頃の大村選手
実に5年ぶりのブログ更新になります。懐かしくて泣きそう。
この記事は2015年アドベントカレンダー企画の一環です。
毎日記事がアップされる予定なので、そちらも是非御覧ください。
http://www.adventar.org/calendars/823
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私の記事のテーマは、「スピードキューブのための身体と心」です。
先に結論から書くと、身体の方が心よりも重要視されるべきです。
もちろんどちらも大事な要素なのですが、身体は心に比べてコントロールが簡単なので、メンタルコントロールのための第一歩として身体をコントロールしよう!というのが以下の要旨となります。
私の見る限り、スピードキューブの世界に身体を意識したプレイヤーはほとんどいません。
多くの人は素人目に見ても改善点があり、また本人がそれに気がついていないように見えます。
私も高いレベルで実践できているわけではありませんが、今後の発展を考えた時には無視してはいけない要素になってくると信じています。
もちろんキューブのために求められる身体能力はそんなに高いレベルではなく、良い身体の姿勢をキープする程度で十分です。
この記事を読むみなさんにベンチプレスを薦めるわけではないので安心してください。
問題は、そんな簡単なレベルですら意識をして行動しないと良い状態に保てないことにあります。
Fig. 世界大会2015ブラジルへのトランジットで立ち寄ったカナダはピアソン空港にて、わずかな空き時間でも筋トレを欠かさない意識の高さを見せる日本代表選手の大村さん
Fig. 若い世代に身体の重要性を伝える大村選手とそれを煙たがる高岡さん
スピードキューブは頭脳スポーツではなく身体スポーツです。
一般にパズルの持つイメージにとらわれていると不明瞭になりがちなポイントなので、以下を読む前に再確認しておきましょう。
一般に、人間の要素として「身体と心」という二元論で語られることがありますが、これらは独立ではありません。互いに影響を及ぼし合う身体と心ですが、人間が生物である以上は根底にあるのは身体です。
風邪をひいているときに100%の集中力をキープすることはできませんね。
特に心の安定というのはなかなか自分で意識するのは難しく、プロスポーツ選手でも完璧にコントロールできる人はいないでしょう。
勝負時には様々な感情が頭をよぎります。
次のタイムが良ければPB更新だ、悪いタイムを抱えてしまった、勝ちたい、彼女がほしい、他人のタイムが気になる、彼女がほしい…
これらは時として邪魔な感情となります。
ウサイン・ボルト選手がレース前に胸に十字を切るのを見たことがありますか?
また最近ではラグビー日本代表の五郎丸選手の活躍が報道され、彼がキックの前に行うルーティーンが話題になっています。
心のキャパシティはある程度決まっているので、マイナスの影響を与える思考をする余地がないほど身体の細部をコントロールすることに集中することでメンタルコントロールをしようとするもので、スピードキューブにも活かせる発想です。
近年のスポーツ科学の発展により新しい知識が次々と得られて、高いレベルに組み込まれています。
マイナー競技にまで浸透するのには時間がかかるので、自分から積極的に情報収集しなければなりません。良い所はどんどん取り入れて行くべきです。
「本番に弱い」とは?
私を含め、多くの人が自分は本番に弱いと思っているのではないでしょうか。
家で練習しているタイムが出なかったり、決勝でタイムが落ちたりといった話をよく耳にします。
しかし、これは当たり前のこととして受け入れるべきです。過度に気にするとさらなる緊張を招いてしまいます。
問題なのは、多くの人が「俺はメンタルが弱いからな~~」と言った苦笑いで思考停止してしまうことです。
その原因を追求して改善しないと意味がありません。
そもそも、非公式の自己ベストタイムが計測される家での練習というのは特別な環境なのです。
慣れ親しんだリラックスできる場所で、いつもの照明、机、イスのセッティングで、本番と違うキーボードタイマーで、自分の調子のいいときにしか練習せず、しかも無限に近い試行回数がある。
こんな理想的な環境で出したタイムと一発勝負の本番を比較したら「本番に弱い」という結論に至るに決まっています。
本番で良いタイムが出たとすれば、それはまだまだタイムが収束していない成長途中であるということです。普段の練習で追い込みきれていないということなので、もっと日頃の負荷を増やすと良いです。
かつては非公式記録を自慢しあう時代もありましたが、現在トップレベルの選手は公式記録以外に価値が薄いことに自然と気がつき、それほど重視していません。
公式競技が全てと考えることで、絶対に倒せない相手である絶好調の自分自身の影と競うことを避けられます。
そうは言っても、やっぱり本番で良いタイムを出したい!とみなさんは思うでしょう。私もそうです。
自分を最大限良い状態に持って行くにはどうすればいいかと考えましょう。
スピードキューブの基本
まず、基本をおさらいしましょう。
これができていない人は、本番で弱い以前に日頃から弱い可能性があります。
既に文章にまとめてあるので、こちらを読んでください。
簡単に言うと、良い姿勢でいましょうということです。
考えるべき要素としては適度な脱力、イスの座り方、キューブと顔の距離などがあります。
心をコントロールするのは難しい
よし、じゃあメンタルを鍛えよう、となった時に、みなさんは何をしますか?
具体的なイメージをするのは難しいはずです。出家して滝に打たれれば何かが変わるでしょうか。
心ってなんですか?
これは人によって様々な答えがあるでしょう。
僕は愛だと思います。マジで。
心という曖昧なものを操ろうとするのは困難です。
では、何が自分にとってコントロールできるパラメータなのかを消去法で考えた時、見えてくるのは自分の身体と環境だと思います。
身体の影響は意外と大きく、普段と同じ体勢になるだけで落ち着いてくるものです。
それこそがルーティーンの意味です。
可能な範囲で多くを支配下に置く
体調
身体が冷えているよりは、軽く汗ばんでいるくらいが身体がよく動きます。
重ね着をできるよう衣類に注意しましょう。
また、決勝が集中する午後で迎える疲れのピークを軽減するため、私は昼休みに仮眠をとります。
大会前日の飲み会、夜更かしなど論外です。戦う前から負けています。
Fig. 日本にいた時の感覚を思い出すためにブラジルで壁倒立をする大村選手
競技環境
照明や机の高さは会場依存ですが、椅子の高さは調整可能なのでこれを考えるのは非常に重要だと思います。
キューブを見降ろす角度や距離、身体の緊張具合、身体とタイマーとの位置関係など多くの要因に影響します。
一般にキューブの大会が開かれる公民館の椅子などは過去の日本人体系に合わせてあるため、現在の若者にとっては低く感じることが多いです。
私は特に184cmと長身のため、毎回ストレスに感じていました。
私はイスを2つ重ねたり、座布団やクッションを持ち込むことでこの問題をクリアしています。
イスの高さを意識し始めた最近はそれほど大きく緊張することもなく、関西定例大会、東大大会と333部門で優勝することができました。
Fig. 関西定例大会2015での333優勝者とそれを煙たがる選手
また、着席してから与えられる最大60秒の猶予を無駄にしている人も非常に多いです。
競技卓につくとすぐにジャッジがキューブ袋を置いて「準備はいいですか?」と聞いてきますね。
これに合わせるようにすぐに頷く人が多いですが、オススメしません。
WCA規約によれば最大1分間ジャッジを待たせて良いので、十分にこの時間を使ってコンディションを整えましょう。無理に引き延ばすことはありませんが、一呼吸くらいおいてみたらどうでしょう。
Feliksは必ず予備キューブを回し、指の状態を確認してから試技をスタートします。
これは推測ですが、彼は普段の練習環境に近づけようとしているのではないでしょうか。
大会では一試技毎に時間が空いてしまいますが、普段の練習ではキューブを揃えると同時に次のスクランブルを始めますね。
たくさんのキューブを連続で解く中の一つとして本番の試技を捉えると重要性が分散されて気が楽になるでしょう。
日本人で言えば、洲鎌くんは肩甲骨を大きく回して筋肉をほぐし、ミサワさんはオタクっぽい動きをします。
私は予備キューブを持って顔との距離感や照明の当たり具合を確認することにしています。
このように、自分にあったルーティーンを見つけることが大事です。
大事なことは、普段からこれらの行為を行うことです。
本番だけやっても効果は薄いでしょう。
少なくとも大会の直前には本番を見越して環境を真似た練習をするべきです。
「そのうち慣れる」に期待しない
キュービストには変人が多いので、緊張しない人もいます。
しかし私をはじめとする一般人は緊張して当然です。
私は世界大会2009で444部門優勝しましたが、動画で見るとわかるように力が入ってガチガチで、手も震えています。
緊張しても勝てるくらい圧倒的に強かっただけで、実力を出せたわけではありません。
また、2008-2012あたりの333のタイムの統計を取ってみると、決勝が予選ラウンドよりも0.5秒ほど遅かったのです。
初心者はともかく、大会常連で未だに本番で緊張する人は意識的に何かの対策を打つべきです。
慣れや時間が解決する問題ではありません。
私は最近になって初めてこの記事のようなことを考え実践してから、いくらか改善の兆しが見えています。
キミだけのルーティーンを作って、大会本番で良い記録を出そう!
Fig. まだ肩幅が狭かった頃の大村選手
(08:55)