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『うつヌケ』(角川書店)の作者・田中圭一氏に“凍結職人”問題を聞いた。
“機械的に凍結”、Twitterの弱点を突く“凍結職人”
実際にTwitterアカウントの凍結被害にあった漫画家・田中圭一氏が「自分の過去のツイートを調べても、他者への攻撃や差別表現は見当たらなかった」と振り返るように、多くの場合、本人も“凍結された理由”が分からない現状に置かれている。同氏は「Twitterの規定に他人への攻撃を禁止する条項があります。それに反していると複数の人間が一斉に申請することで、“凍結”の可否を機械的に判断されてしまう可能性がある」と指摘する。
一方で、Twitter社もルールの適用・施行にギャップがあり施行面でミスがあったと認めている現状がある。Twitterの利用者数は日本だけでも4500万人以上。これだけの利用者がいるTwitterでは、違反者を人海戦術で取り締まることは難しい。つまり、「機械的に“凍結”というルールが一部で運用されており、それが凍結問題の正体だと思う」と田中氏。
気に入らない相手の“表現の場”を奪えるネット社会の闇
つまり、こうしたシステムの穴をつくことで、自分にとって「気に食わない人」「思想や宗教観が違う人」「自分の思った通りに行動してくれない人」をアカウント停止に追い込むことができるのだ。「凍結職人についてネットで調べると、通報ができそうな“問題”となる発言、先ほども例に挙げた「死ね」や「殺す」みたいな言葉を探し、それらの単語を見つけたら、自分が作った複数のアカウントを使って一斉に通報する。そうすることでターゲットのアカウントを容易に凍結できるようです」と田中氏。こうした手法は、現状のTwitterルールである限り、抗しがたい部分のようだ。
ユーザーの期待に応えられないSNSはすぐさま沈没する時代
現在、Twitterユーザーはいつ“表現の場”を奪われるか分からない状況だ。しかし田中氏は「資本主義のルールに則っていえば、Twitterのルールが気に入らなければ違うSNSに移ってもいいし、別のSNSを立ち上げてもいいはずです。いま、一時代を築いた『ニコニコ動画』に代わりうる動画サイトが次々と立ち上がっている状況もありますし、古くは、あれだけ人気だった『mixi』が、ルールを変えた途端に『Facebook』にユーザーが移ってしまった実例もあります」とSNSの競争を分析。つまり、SNSの運営者も、ユーザーにとって快適な場所を提供できなければ、いまどんなに人気があってもすぐさま沈没してしまうリスクがあるのだ。
「パブリック・エネミー」のレッテル貼りで袋叩きに合う危険性
うつ病から脱し、うつ病の人を救いたいという本を書いている人に対しても、一度“パブリック・エネミー”のレッテルが貼られてしまうと、「うつを再発して死ね」などと言っていいことになってしまう現状がある。「そうした発言をする人は、悪を退治するための“正義の攻撃”だと思っていて、悪いこをしている感覚はない。しかも、正義のつもりで罵詈雑言を発している。そうした意味でも、SNS上のモラルが芽生えない限り、ネット上のレッテル貼りや言葉の暴力は減っていかないでしょう」(田中氏)
かつて、「TV業界では70年代頃まではセクハラ、パワハラ、差別表現が残っていた」と田中氏は述懐する。しかし、そこに異を唱える人が出てきて、何十年も時間をかけてルールが整備してきた背景がある。その中には「表現の自由を奪うな」という声もあれば、「弱者を守れ」という様々な意見があったという。そうした観点で見た時、「SNSのモラルやルールが成熟するのに、まだ何年もかかるだろう」と田中氏は語る。