著者の斎藤ウィリアム浩幸さんは、1971年に米ロサンゼルスに生まれた日系2世の起業家です。指紋などを使った生体認証システムを開発し、160社以上の企業とライセンス契約を結びました。2004年には会社を米マイクロソフトに売却し、05年からは東京に拠点を移して活動しています。現在は、米セキュリティー大手、パロアルトネットワークス日本法人(東京・千代田)の副会長を務めながら、日本の再生に必要なリーダーシップやチームづくりの在り方を訴えています。
本書では世界を舞台にした活動から斎藤さんが得てきた「国際社会での働き方のコツ」を今日から実践できる形で紹介しています。
■日本の49%の仕事が代替可能に
(250ページ「第5章 すでに変容した世界のルール」より)
野村総合研究所によると、10~20年以内に日本で働いている人の49%の仕事が人工知能(AI)やロボットで代替可能になるといいます。IoT、ビックデータ、AI――。「第4次産業革命」とも呼ばれる大きな時代の変化を生き抜くために、私たちはどのように仕事を選べばよいのでしょうか。
斎藤さんは、これからインフラを整備していかなくてはならない国々が、変化する世界に必死に対応しているにもかかわらず、すべてがそろった日本が前世代から受け継いだ遺産をただ目減りさせることに終始していないか、と読者に問い掛けます。そして今の日本人に与えられた使命は、世界をリードする「チェンジ・メイカー」になることだ、と主張します。
■ルールはバカのためにある
( 23ページ「第1章 ルールは壊すためにある」より)
斎藤さんは日本に唯一欠けているものとして「チャレンジ」を挙げています。新しい技術やサービスがどんどん生まれてくるなかで、古い「ルール」に執着している間に、世界は急速に変わっていきます。個人も組織も、いかに柔軟な思考で対応できるか否かで、未来は大きく変わっていくはずです。英語のことわざ「There is no general rule without some exceptions.(例外のないルールはない)」を聞くと、「ルール」という言葉で思考停止に陥ってしまっている自分を叱責したくなります。
■シリコンバレーで見本にされた「ノミニケーション」
( 15ページ「第2章 世界で勝つリーダーの思考術」より)
過去の日本経済躍進の背景に、どちらかというと面倒臭いと思われがちな「ノミニケーション」があったのは驚くところです。「余分なコストとしてではなく、多様な個性やスキルを持つ人材が多様に意見を出し合うイノベーティブな環境と定義しなおしたところに、現在のアメリカの強さがある」と斎藤さんは指摘します。
思えば上司や親と話していると、趣味や日常生活も全く異なり、世代間ギャップに驚かされます。よくあるのは、カラオケに行った時の共通項が「AKB48」しか無いことでしょうか。「知らないの? ならいいや」とバッサリと切り捨てる前に、一度じっくり飲みに行ってみると、意外と新しいイノベーションの芽にも出合えるのかもしれません。
「ルールはバカを守るためにある」──。本文にも登場しますが、非常にインパクトのある言葉です。与えられたルールの枠内で努力し、器用に適応してしまう日本企業と、ルールを自分の都合のいいように変えてしまう欧米企業。好き嫌いは別として、彼我の発想や行動の違いを端的に表しているのではないでしょうか。
ということで、最初は書名も「ザ・ルール・メイカー」「ザ・ルール・チェンジャー」などにしようかと考えていたのですが、斎藤さんと相談していまのタイトルに落ち着きました。「ルールは悪い意味での規制を思い起こさせるので、タイトルに入れると後ろ向きに見えるのではないか」とのこと。
このあたりのちょっとしたニュアンスの差にも、文化の違いが感じられました。
(雨宮百子)
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