大学二年、二十歳の男です。12/22~25、地元の商店街の催事場でクリスマスイベントのバイトをしてます。今日で二日目。駅前のデパートの広場にステージを組んで、サンタショーをやったりしてます。
なんでこんな時期にバイトをしてるかというと、彼女にふられたからです。月始めに突然LINEでふられました。生まれて初めてできた彼女でした。付き合い始めたのは今年の春。大学に入学した直後です。
当然、クリスマスは彼女とハッピーに暮らす予定でしたので、ふだんバイトしてるタコ焼き屋のシフトも削り、クリスマスデートに向けていつでも動ける準備をしていました。ところがいきなりふられてしまったので、むりやり短期のバイトをねじこんだわけです。本当は死んでしまいたいような精神状態なのですが、あまりに辛すぎて逆に何かしてないとほんとに死んでしまいそうなので、働くことにしました。
交際8か月。夢のような日々でした。毎日がありえないぐらい楽しくて、浮かれっぱなしでした。僕みたいな人間はたぶん一生童貞だろうと考えていましたので、まさかあんな幸せなに日々が送れるなんて思ってもいませんでした。でも彼女はそうじゃなかったんですね。
さすがにLINEでオシマイは無いだろうと思い、最後に電話で話したんですが、彼女の態度は別人のようにクールでした。恋人の雰囲気は微塵もなし。淡々とクレーム対応をこなすテレアポみたいな口調でした。僕もだんだん申し訳なくなってきて、「わかりました、それはもう仕方ないですよね」と敬語になる始末でした。
結局、明確な理由は聞けずじまい。彼女は「自分の時間が欲しい」の一点張り。時間泥棒だと言われたに等しく、返す言葉もありません。
そんなわけで昨日も今日も昼から働いてたわけですが、僕の仕事は地元の商店街のゆるキャラの「中の人」です。着ぐるみに身を包んでアーケードをひたすら練り歩きます。子供に風船を配ったり、広場でぴょんぴょんと跳ねたり。ちなみにこのゆるキャラは全然かわいくありません。バケモノとピエロの混合体みたいな感じです。全身黄色で、なぜか登頂部にもみじの葉がくっついてます。腹と背中には七色のうずまきが入っていて、かなりサイケデリック。デザインした人がジャンキーなのかもしれません。シラフでは決して生み出せないキャラです。
やってみてわかったのですが、この仕事は重労働です。たまに粗暴なガキが全力で腹を蹴ってきたりします。傷心の身に腹パンはこたえます。僕は着ぐるみの中で何度か泣きました。どれだけ泣いても誰にも気付かれないので、余計に悲しくなってきます。
事件は昨日の夕方に起こりました。駅の方に見覚えのある顔があり、よく見ると彼女でした。こちらに向かってまっすぐ歩いてきます。彼女はニコニコしながら僕を見ていました。もちろん僕である事には気付いてません。黄色いバケモノを見ているのです。そして、彼女の隣にはいかにもパリピといった風情の男がいて、二人はしっかりと手を繋いでいました...
気付くと彼女とパリピ野郎が並んで目の前に立っていました。彼女が僕(黄色いバケモノ)の頭を撫でました。続けてパリピ野郎が、笑いながら僕のわき腹を小突いてきました。それを見た彼女が「かわいそうだよぉ~」と聞いたことも無いような甘ったるい声で言いました。二人はずっと手を握り合っていました....
そのあとのことはあまりよく覚えてません。彼女とパリピ野郎が並んで歩くうしろ姿だけが脳裏に焼きついています。二人はずっと固く手を繋いでいました。
このバイトは明日も明後日も続きます。もしあなたの住む町に全身黄色のバケモノが現れたら、どうか優しくしてやってください!