2017年もあとわずかということで今年の漫画を少しずつ振り返っていきます。
今回はその第一弾として、2017年の面白かった読み切り漫画を振り返ります。
読み切り漫画の役割
ジャンプ、マガジンetc、各漫画雑誌には大抵1つや2つ何かしらの読み切りが掲載されます。
休載した漫画の代わり(いわゆる代原)として載ることもあれば、連載までの肩慣らしとして、はたまた出版社の漫画賞で上位入賞した作品がそのまま雑誌で掲載されるケースなど事情は様々。
いずれにせよ数多の競争を勝ち抜いてきた作品のため、光るものを感じさせる作品は多いです。
大人気漫画『ONE PIECE』や『BLEACH』、『食戟のソーマ』、『DEATH NOTE』『七つの大罪』など
近年の漫画界を代表する作品も、実は読み切りから始まっています。
連載じゃないからと侮っていると意外な掘り出し物を見逃すことになるかもしれません。
読み切り漫画にはお宝が眠っている
最近だと週刊少年マガジンで今年の初め頃、読み切りが掲載された『五等分の花嫁』が反響を呼び連載化。早くも10万部突破の人気作となりました。
2017年はこの他にも読み切りが反響を呼び、めでたく連載の運びとなった作品も実は少なくありません。
最近は漫画雑誌を読む人が減ってきたと聞きますが、もし何か雑誌を手に取ることがあれば、せっかくですので目当ての作品以外も読んでみてはどうでしょう。
雑誌を買わない理由として「知らないものに金を払いたくない」という話を聞いたことがありますが「知らないものと出会う機会を得られる」というポジティブな認識に変えるといいかもしれません。
もし何か雑誌を読んでみようかなと思った方がいれば、当ブログで各漫画雑誌について簡単に紹介しているので雑誌選びの参考にしてくだされば幸いです。
さて宣伝がすんだところで今年の面白かった読み切りを紹介していきます。
まずはめでたく読み切りから連載化を果たした作品です。
祝・連載を果たした読み切り漫画
キスアンドクライ(週刊少年マガジン/日笠希望)
天才の絶頂と転落、そして再起の予感を感じさせる青春フィギュアスケート読み切り。
細かい部分はさておき、フィギュアスケートという意外に見かけない競技、これから待ち受ける苦難とそれを乗り越えてくれそうな前向きな性格に期待したくなる。
読み切りというより連載の一話目という締め方で評価されるのはこれからですが、ぜひとも期待に応えてほしいところ。
好評を博し、連載決定!の吉報からしばらく音沙汰なく心配してましたが連載は年明け頃開始するみたいです。楽しみ。
ジャヒ―様はくじけない!(ガンガンJOKER/昆布わかめ)
あらすじ:魔界No.2のジャヒー様は、 魔界中の誰もが恐れ敬う存在・・・だった。
「だった」というように、なんやかんやあって現代日本にやってきて色々頑張るお話。
魔界No.2の実力者ということもあって魔界ではやりたい放題だったジャヒ―様も、魔力がないためこちらの世界では可愛らしい姿に。調子に乗ったり、空回りしたり、不憫だけど可愛いです。
勢いもよく、キャラが立ってるので読んでて楽しい。単行本はもう少し先になりそうですが反響があると嬉しい。
ここは今から倫理です。(グランドジャンプPREMIUM/雨瀬 シオリ)
発売前、そして発売後にもネットを中心に大きな反響を呼び、各書店で即完売、そして即重版になった今年イチオシの話題作。これも実は読み切りからのスタートでした。
去年の10月にグランドジャンプPREMIUMで1話目にあたる読み切りが掲載され、グランドジャンプ 2017 No.4 で2話目にあたる読み切りが掲載。めでたく連載化。
これは読み切りのときから面白いなあと感心して、ツイッターで今年の1月につぶやいてました。
”小難しい話に向かわず、ショーペンハウアーの言葉を使って「個々の視野の限界」について3人の価値観に触れながらの分かりやすい台詞回しは作者の力量を感じました。面白かったです。”
一部抜粋するとこんな感想をつぶやいてたみたいです。
私が面白いと言った証拠の初出はグランドジャンプからですが、実はPREMIUMの読み切りも読んでました。
といっても購読してたわけでもなく、普段利用しない偶然立ち寄ったコンビニで読みました。特に目当てのものもなくパラパラとめくった先がこの作品だったのでそういう運命だったのかなあと一人考えます。
私一人がどれだけ面白いと言っても説得力に欠けるのが弱小ブログの痛いところですが、こういう積み重ねで少しずつ信頼を得たい。
今はまだ虎の威を借る狐ですが、いつか虎側にまわりたいものです。
※2、3話無料公開は期間限定のため終了しました。
1話目もその片鱗は感じ取れるので「ふーん面白そう」と思ったらぜひ単行本でも読んでみてください。4話目がすごく好きです。
つらなるステラ(on BLUE/高野ひと深)
『私の少年』で一躍人気作家となった作者のBL短編集。「連載」という形ではないですが読み切りが単行本に収録されるため紹介。
少年から青年になってもその美しさは変わらず。道化を演じ続ける自分とは別の道を歩む蒼馬への嫉妬を、かつての羨望では堪え切れなくなった瞬間を切り取ったコマは思わず息をのむ。美しい。
BL独自の性描写についてはいまだに慣れませんが、過程が素晴らしかったです。高野先生のファンやBLに抵抗感がない人は手に取ってもいいんじゃないでしょうか。
重版おめでとうございます。
祝・連載を果たした作家の読み切り漫画
こちらでは読者の反響を得て読み切りが連載!とはなりませんでしたが、評価を受けて別のお話で連載を獲得した作家を紹介します。
クリックでアマゾンに飛びます。こういうときに電子書籍は便利。
友情のラリアット(月刊少年チャンピオン 2017年 01 月号 [雑誌]
/齋藤周平)
リングの英雄に憧れた少年たちのその後を描いた青春ストーリー。
「プロレス版キッズリターン」との評価も。
荒々しい作画ながら臨場感と迫力があり、雨が降りしきる中で組みかわす友情のラリアットは映画のワンシーンを観ているように映りました。
拳を交わしたからこそ分かり合える二人のラリアットに読んでてすごくドキドキしました。
同誌月刊少年チャンピオンで『クローズ外伝 鳳仙花 the beginning of HOUSEN』を連載開始。チャンピオンらしい硬派な作風なのでかなりマッチしていると思う。
今後の活躍に期待しています。
阿佐ヶ谷芸術高校映像化へようこそ(少年ジャンプ 2017年2月13日号 No.09
/原作:マツキタクヤ、作画:宇佐埼しろ)
クリエイターとはこうあるべし!というエゴの塊のような主張に胸を打つ人は多いだろうと思いました。ただある程度実績がないと言えない台詞も見受けられるのでそういう部分も含めてエゴの塊のような話でした。
2018年週刊少年ジャンプ8号から同じ原作作画コンビで『act-age アクタージュ』を連載開始予定。ジャンプから久しぶりに楽しみな新鋭が出てきました。
雪女ちゃんのはかない日常(少年エース 2017年7月号
/川村拓)
「はかない」と聞いてどんな言葉を連想しますか?
そうナッシングパンティという意味の穿かないですね。
真っ先にこの意味を連想した人はなかなか訓練されてますね。
冗談はさておき、雪女と人間のハーフという設定を生かしたはかないコメディは安易なようで視点の付けどころが面白かったです。
完全に読み切り向けの出オチではありますが、儚い恋心も見え隠れし、ラブコメの波動もバランスよく配置されていて、なかなか笑えるコメディに仕上がっていました。
とはいえ話は面白いけど作画は別の人が担当した方がいいのではと、このときのアンケートでは書きました。
しかし、その後同誌少年エースで連載開始した『七億円を手に入れた僕にありがちなこと。』では作画と内容のアンバランスさがなかなか面白く読ませます。
慣れてくると思いのほか味のある作画なのかもしれません。
最近の少年エースの新連載攻勢の中で一番の期待作なので人気出るといいなと思ったので紹介。
売れなかったら改めて原作と作画を分けてみればどうかと提案しますが話を考えるセンスは高いと思いました。今後の活躍に期待しています。
求む!次世代の人気漫画家!魅力溢れる読み切り漫画
ここで紹介した漫画家が後々ヒットしたら見る目があると自慢していきます。
見かけたら目をかけてください。どうぞよろしくお願いします。
世音ちゃんは甘やかしたいのに(ガンガンJOKER 2017年 12月号
/藤近小梅)
下のきょうだいを甘やかすことに全てを捧げてきた長男長女カップルのラブコメディ。
不器用ながら甘やかすことで愛情を伝えようとしてるのがいじらしいやら恥ずかしいやらで読んでてバタバタしました。
この尊さ、全世界に広めたい・・・!
このジャンプするところがいいんですよ!(細かい)
記事を書こうと思った原動力はこの読み切りがきっかけでした。
最近ヤングジャンプ『かぐや様は告らせたい』少年サンデー『保安官エヴァンスの噓』など恋心を自覚しているのに一歩踏み出せないじれったさ・不器用な愛情を面白おかしく描いたラブコメが人気を得ています。
『世音ちゃんは甘やかしたい』はそんなカップルを一歩進ませたようなお話で、ラブ度がさらにアップ。
少年誌ラブコメは結ばれたらお話はここでおしまいという作品が大半ですよね。その後を描いたような話が読みたかったと心の奥底に秘めていたんでしょうか。
こういうカップルが読みたかった!甘い!甘すぎる!これじゃあ~!!と思いの丈を込めたアンケート葉書はこの感想で埋まりました。
ラブコメの民は尊いものには優しいし、きちんと宣伝すればヒットする代物だと思います。ぜひとも連載化して欲しい。郎報を待ちます。
お雑煮(グランドジャンプ 2017 No.4
/山本中学)
帰省しない理由が「あーわかる」と妙に共感してしまう(笑)
出来事なし男にならないよう色々関わっていこうと思いました。
山本先生の描く女の子は素朴かわいくて好きです。
好感(ウルトラジャンプ 2017年4月号
/夢乃狸)
ウルトラジャンプで好評を博す読み切り企画ウルトラエロティックからの一作。
人によってはビッチに映るかもしれないけれど結末を読んで「好きの許容範囲が広い人」だと感じました。
貞操観念を抜きにして考えると読んでて共感する人は多いのではないでしょうか。
決して誰かれ構わずという話にしなかったのがポイント高かったです。
この読み切り企画のいいところは普段描いてるエロ漫画とは区別して描いてる人が思いのほか多かったところ。もちろん持ち味を出してくる作家もそれはそれでありです。
共通してるのはみんな一定以上のクオリティがあって外したと感じることが少ない部分。
最近は色気や肉感のある作画を武器にして成年向けから一般誌にやってくる作家もよく見かけるようになりました。実力のある作家ならエロも一般も関係ありません。
これからもどんどん出てきて欲しいです。
金言が聴こえる(別冊少年チャンピオン2017年08月号 [雑誌]
/原作:中島悠、漫画:青野照坊)
お金の声が聴こえるがためにお金を使うことができずドケチと誤解されていた少年の話。
人づてに面白いと聞いて読んでみようと珍しく普段手に取らない雑誌に手を出しましたが、期待して読んでも十分応えてくれる素敵な話でした。
お金との会話は序盤こそギャグっぽくも、締めるところは締めてラストシーンに持っていくのでなかなかグッときました。
最近はなんでも無料にしろ安くしろみたいなモノの価値を低くみてくる変な風潮があるから警鐘の意味もあるのかなと意図を想像した感想をつぶやいたら作者に届いて返事貰ったときは便利な世の中になったなあと思いました。
作者によると「1つの信頼の証=貨幣という私見をどう少年少女に伝えようかと着想したお話」だそうです。なるほど。
この原作作画はコンビでやってるようで、ジャンプルーキーに色々投稿しているみたいです。キャラが渋すぎやしないかというのが個人的に懸念でしょうか。そこをクリアできればまだまだ伸びそう。今後の活躍に期待しています。
佳作(別冊少年マガジン 2017年7月号 [2017年6月9日発売] [雑誌]
/魚豊)
最初はギャグ漫画かな?と思っていたら想像以上の熱量に圧倒。読んでてワクワクしました。
己の矜持を信じて劣等感で殴りまくる試合の描写は荒々しくも迫力が素晴らしい。
編集部も同様にその熱量を絶賛し、第98回新人漫画賞のトップを飾ったことで別冊少年マガジンに掲載されたみたいです。
まだまだ作画の荒さは目立つので連載となるとどうだろう。という段階ですが裏を返せば伸びしろがあると踏んだがゆえの感想です。
この人が画力を手に入れたらどれだけ多くの読者の心を掴むのか、楽しみで仕方ありません。
作画に拙さはありますが、期待したくなる魅力に満ち溢れた一作です。下記リンク先で読めます。
以上12タイトルでした。他にも面白い読み切りはいくつかありますが今回はこんなところで。
最近はジャンプ+や講談社のモアイなどで読み切りにも力を入れているサイトも増えてきたので来年はそこから紹介できたらいいなと思います。
とはいえまだまだ主流の読み切りは漫画雑誌でしか読めないため本当一期一会です。
読み逃しまった。でもいつか読めるだろうと期待する方もいるかもしれませんが、よほどの人気作家にならない限り、読み切りが単行本で出版されるということは基本的にありません
しかし、説明したように反響があれば連載化というケースは少なくありません。
編集部の受けは大事ですが何よりも読者の声を大事にしているのはどの出版社にも言えることです。
もしふらっと読んだ読み切りが思いのほか面白く、「続きが読んでみたい」「この作者の話をまた読んでみたい」と思ったらぜひアンケートを送ってください。
その一票が編集部を動かす一票になるかもしれません。
来年はどんな掘り出し物の読み切りが出てくるのか、漫画雑誌を読むのはまだまだやめられそうにありません。
ぜひ興味をもった読み切りがあれば読んでみて下さい。それではまた。