英単語のカタカナ化の仕方に文句を言う増田がたまに見られる。ついこの間も、「imageは『イミジ』が正しい」みたいなことを書いている人がいた。
しかしカタカナ化というのは、音が近ければ良いというものではないんだよ。
言語には意味のある音の区別と、意味のない音の区別がある。例えば日本語なら、「難波」の「ん」と「あんな」の「ん」は違う音だけど、日本人にとってはどちらも同じ「ん」だ。音声学上は区別されるが、音韻論上は区別されないともいう。
タイトルの「ワラ」に関しても、確かにwaterは「ワラ」のように聞こえる。単純に「一番それっぽく聞こえるカタカナ表記」ということなら「ワラ」が正解かもしれない。でも英語では、このラ行のように聞こえる、waterのtの音と、普通にタ行に聞こえるt、例えばtalkなどのtは、同じ音なんだ。それなりに乖離があるので、英語ネイティブの人でも聞き分けてもらえば違いはわかるだろうけど、普段話しているときは意識しないし、同じ音だとして扱っている。
日本人にとっては全然違う音でも、ネイティブにとっては同じ音だということ。そしてもっと重要なことは、waterのtをtalkのtで発音しても問題ないけど、talkのtをwaterのtで発音することは許されないということ。どちらもtの音と言っても、片方が本来であり、もう片方は一応同じと扱われている、変化した音ということになる。そして「本来の」tは、間違いなくラ行よりはタ行に近いのだ。
次に、外国語をカタカナで表現する際は、まず問題になるのが、カタカナの表現力が限られているということ。
英語では途方も無い数の音が表現されるが、カタカナは所詮50音である。文字通り数える程しかない。
とはいえ、この数える程の文字数で、工夫して、できるだけ本来の言語の表現力が失われないようにしなければならない。そうでないと、その言語から大量のカタカナ語が入った際に、だんだん区別がつかなくなってきてしまう。だから、英語で区別がない音は、カタカナで表現する際も、できるだけ区別しないようにする必要がある。本当に必要な区別をしたいときに被ってしまうと困るからだ。
したがって、waterのtもtalkのtも区別せず、両方タ行で表すべき、ということになる。
あとはだいたい同じような話なんだけど、ついでなので、waterの他の音についても。
現在概ね採用されてるカタカナ化には、だいたい共通した法則があって、例えば、長母音は長音記号を使って表すこと、がある。このようにすることで、短母音と長母音でカタカナでも10種類の母音を表現できることになり、かぶりが少なくなる。「ワラ」と聴こえても、water [wɔ́ːtər] の最初の母音は長母音だから、長音記号を使う。また、この母音は、ア段ではなくオ段として表現することも習慣で決まっている。wall も「ウォール」とオ段で書かれるが、これも同じ母音である。
ちなみに、この[ɔ́]の音がオではなくむしろアに聴こえるという人も多い。「ワラ」に近いというのはそのためだろうと思う。しかし、これがア段ではなくオ段に当てられているのは妥当なんだ。なぜかというと、英語には他にもアのように聴こえる母音がたくさんあって、cat [kæt] の [æ] もそうだし、car [kɑːr] の [ɑ] も間違いなくアに聴こえるし、あと曖昧母音 [ə] の直後に[r] が続いた場合も間違いなくアに聴こえる。これらは実際カタカナではア段が割り当てられていて、これにさらに[ɔ́]まで加えるとなるとア段で表す音が多すぎてちょっと被りが心配ですねという話になる。一方、オ段で表す母音は [ɔ́] の他には cold [koʊld] とかの [o] くらいである。
このように、現在のカタカナ表記にはそれなりの合理性がある。こっちの方が聞こえ方が近いから、とか安易な理由で覆すべきではない。
英語のエナジーとドイツ語のエネルギーみたいに意味は同じだけど、カタカナが複数あるのはどう考えます?
「たまたま」ということでいいと思います。 実際にはもちろん語源が共通してるわけですが、日本語から見たらどちらも一つの外来語にすぎません。 それぞれ別々に、妥当な表記を考え...