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キセルがずっと特別だったワケ。「らしさ」を探る、10の影響源

キセルがずっと特別だったワケ。「らしさ」を探る、10の影響源

キセル『The Blue Hour』
インタビュー・テキスト
小熊俊哉
撮影:馬込将充 編集:山元翔一
2017/12/22
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「やっぱりキセルは特別だ」――辻村豪文と辻村友晴による兄弟ユニット、キセルのニューアルバム『The Blue Hour』の帯には、こんな一文が添えられている。もうすぐ結成19年、「カクバリズム」に移籍してからも11年が経過し、「音楽シーンの良心」ばかり所属する同レーベルにおいても、存在感を放ってきた。

3年ぶりとなる本作は、「最新作こそが最高傑作」という安易なクリシェで片づけるべきではない、実り多き変化を遂げた一枚だ。代名詞であるリズムボックスの代わりに「ヒップホップ的」とも言える生ドラムを導入し、フルートやサックスが奏でる茫洋としたトーンが兄弟の歌にメロウな新味を添えている。音はこれまでになくサイケデリックとはいえ、感傷的な気分にさせられる歌詞もあいまって、やっぱりキセルの音楽だと思い知らされる。

そもそも、「キセルらしさ」とはなんだろうか? その説明しづらい魅力を掘り下げるため、結成時から近年までのルーツを二人にたっぷり語ってもらうことにした。国内外の音楽や書籍にラジオと、一見バラバラにも映る参照点を結ぶことで、キセルという不思議なバンドの実像と現在進行形を浮かび上がらせてみたい。

自分が思う「すごい人たち」として、細野晴臣さんや大瀧詠一さんの世代の人たちがいて、世代は違うけど同じような感じで山本精一さんや坂本慎太郎さんが星座みたいにいてはる感じです(豪文)。

—『近未来』(2002年)のリリース時に細野晴臣さんが「この世に音楽は溢れてるけど、キセルは特別だ!」とコメントを寄せていらっしゃっていて、たしかにキセルは、ずっと「特別」な存在として捉えられ続けていると思うんです。今回は、その「特別さ」や「キセルらしさ」の正体を探るためにお話を伺いたいのですが、そもそもキセル結成時には、どういう音楽をやろうと思っていたんですか?

豪文:最初は僕のソロの延長だったんです。友晴くんも高校の文化祭とかで歌ったりしていて、当時はなんかモテてて。デモテープ作るの手伝ったりして。もともと一人でやっていくつもりはなかったし、一緒にやろうかって。「弟が歌ったら売れるかなぁ」くらいにしかその頃は考えてなかったんですけどね(笑)。

—当時のキセルにとって大きかった音楽というと?

豪文:やっぱり僕は、はっぴいえんどですね。友晴くんはサニーデイ・サービスとか。あと一緒にロン・セクスミスはよく聴いていて、そのせいもあってMitchell Froom & Tchad Blakeのような、歌モノなんだけど生ドラムをブレイクビーツっぽく加工したものとか、そういう音楽を参考にしつつ日本語でしっくり来る感じをやりたいと漠然とですが思ってました。

キセル(左から:辻村豪文、辻村友晴)
キセル(左から:辻村豪文、辻村友晴)

キセル『凪』(2010年)収録曲

—はっぴいえんどというと、カバーアルバム『Songs Are On My Side』(2015年発表のライブ会場限定作品)でも、細野晴臣さんの“終わりの季節”(1973年)を取り上げていましたよね。この作品は、カクバリズムのサイト上でも「キセルの真髄が見える」というふうに評されていましたけど、選曲はどのようにされたんですか?

豪文:もともとライブとかでカバーさせてもらっていた曲と、この機会にやりたいと思った曲が半々くらいですね。ついつい普通に弾き語りっぽくなりがちなので、どういう形にすれば意味のあるカバーになるかなと模索してました。

—たしかにザ・フォーク・クルセダーズの“悲しくてやりきれない”(1968年)のカバーは、フィールドレコーディングされた鳥の鳴き声が入っていたり、原曲よりも悲しいムードが強調されている印象です。

豪文:悲しさを増強したら明るくならないかなと思ったんですけど、ますます悲しくなりましたね(笑)。

—ゆらゆら帝国の“ひとりぼっちの人工衛星”(2007年)は、どうして取り上げようと思ったんですか?

豪文:こんなことを言うのもおこがましいんですけど、最初にこの曲を聴いたときに、ただ好きっていうのもありつつ他人事じゃないっていう感じが勝手にして、いつかカバーしたいって思ってたんです。

—この曲は豪文さんにとって、音楽のひとつの理想形だと。

豪文:当時やりたいなって思ってた感じが目の前にあるって感じでした。でも自分がやれることより次元が全然上やなぁとも思ったり。

—今回の『The Blue Hour』を聴きながら、個人的に連想した音楽のひとつが坂本慎太郎さんによる一連のソロ作でした。

豪文:真似事になってないといいですけど。絶対真似できひんし。坂本慎太郎さんのソロはすごく好きです。ゆらゆら帝国もずっと好きで、ああいう音楽を、日本語の余白の情報量がめっちゃ豊かな感じで聴けるのがありがたいし、ほんま楽しいなぁって思いながら聴いていました。自分が思う「すごい人たち」として、細野晴臣さんや大瀧詠一さんの世代の人たちがいて、世代は違うけど同じような感じで、山本精一さんや坂本さんが星座みたいにいてはるって感じなんです。

キセル

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リリース情報

キセル『The Blue Hour』
キセル
『The Blue Hour』(CD)

2017年12月6日(水)発売
価格:3,024円円
DDCK-1054

1. 富士と夕闇
2. 君を待つあいだに
3. 山をくだる
4. わかってたでしょう?
5. 二度も死ねない
6. うしろから来る
7. モノローグ
8. 来てけつかるべき新世界
9. 明日、船は出る
10. 一回お休み
11. きざす
12. ひとつだけ変えた

イベント情報

『キセル「The Blue Hour」発売記念ワンマンTOUR 2018』

2018年1月6日(土)
会場:大阪府 梅田CLUB QUATTRO

2018年1月7日(日)
会場:愛知県 名古屋CLUB QUATTRO

2018年1月13日(土)
会場:東京都 恵比寿 LIQUIDROOM

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プロフィール

キセル
キセル

辻村豪文と辻村友晴による兄弟ユニット。カセットMTR、リズムボックス、サンプラー、ミュージカルソウ等を使用しつつ、浮遊感あふれる独自のファンタジックな音楽を展開中。これまで4枚のアルバムを「スピードスター」よりリリース。2006年12月に「カクバリズム」に移籍し、『magic hour』『凪』『SUKIMA MUSICS』のアルバムと10インチレコードやライブ会場限定のEPなど精力的にリリース。どの作品も多くの音楽好きを唸らす名盤となっており、ロングセラーを続けている。毎年の大型野外フェスへの出演や、フランス・韓国・台湾でのライブ、ジェシ・ハリスとの全国ツアー、年末恒例のワンマンライブをリキッドルームや赤坂ブリッツなどで行っている。2014年には結成15周年記念ライブを行い、同年12月3日に7枚目のアルバム『明るい幻』をリリース。昨年1月~2月にかけて行われた『明るい幻』のリリースツアー、本人たちにとって2年振り2度目となる日比谷野音でのワンマンライブ『野音でキセル 2015』も大成功させた素敵な2人組である。2015年4月より、京都α-STATINにてラジオ番組「FLAG RADIO」のレギュラーDJを担当。2017年12月、ニューアルバム『The Blue Hour』をリリース。

関連チケット情報

2018年1月6日(土)
キセル
会場:梅田クラブクアトロ(大阪府)
2018年1月7日(日)
キセル
会場:名古屋クラブクアトロ(愛知県)
2018年1月13日(土)
キセル
会場:LIQUIDROOM(東京都)
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