今までの自分の経験と、取材やイベントに出向いて得た知見に基づいて、
特に企画段階や運営において気を付けると良さそうなことをまとめていきます。
自己紹介(やってきたこと)
- Mogura VRでニュースライター(2015.9~現在)
海外ニュースの翻訳、講演会勉強会の取材、国内外のイベント取材、記事執筆など。
書いた記事一覧がこちら。たぶん200本以上ある。 - 東大VRサークル「UT-virtual」所属(2017.3~現在)
2017年3月に発足した東大VRサークルであるところのUT-virtual。創設をちょっと手伝った。 - 五月祭「VR企画」企画責任者 <EEIC>(2017.5)
弊学科主催の企画「近未来体験」内で、VR企画の責任者。Cardboard、Gear VR、Oculus Rift向けの3コンテンツを企画・開発・展示。それ以外にも、マネジメント・事務・会計みたいな裏方もやった。 - IVRC2017予選大会 企画責任者 <UT-virtual>(2017.9)
国際学生バーチャルリアリティコンテストに初めて出場。
HMDに加えて電気刺激、電気味覚を使って「自分の血を吸う」体験を企画して展示までやった。 - 電気系同窓会登壇 <EEIC>(2017.10)
「なぜ、いまバーチャルリアリティなのか」という講演会に、教授方に混じって登壇させて頂いた。
その後パネルディスカッションもやった。僕の当日のスライドはこちら。 - 駒場祭「VR企画」チームリーダー <UT-virtual>(2017.11)
駒場祭ではHMDを使わないVRコンテンツを作った。
コントローラーを懐中電灯に見立てて玉を取り合う多人数バトルゲーム。
- ビーター
βテスター+チーター(チートする人)。SAOのβテストを経験しているために、正式サービス時にゲームのノウハウを充分に持っているプレイヤーを指す言葉。 - 第一層ボス攻略会議
SAOは100層からなる浮遊城「アインクラッド」を登っていくMMORPG。各層にはボスモンスターがいて、それを倒さないと上の層に行けない。デスゲームに閉じ込められ、プレイヤーの間には絶望が広がったが、一部の勇気あるプレイヤー達が「このゲームはクリアできる」と証明しようと、第一層のボス攻略会議を開いた。
いままでのノウハウを全部ゲットして、一気にレベルを上げようぜ、みたいな意味です。
ここに書かれていることを無視することが、ブレイクスルーに繋がる場合もあるかもしれません。
それでも、何らかの一助にはなると信じて。
0.はじめに(VRって何)
「とりあえずVR使って何かやりたい!!!」
って人は、まずVirtualという概念を獲得した方が良いと思います。
とりあえず、例によってVirtual Realityの定義から始めましょう。
みかけや形は原物そのものではないが,
本質的あるいは効果としては現実であり原物であること
(日本バーチャルリアリティ学会 「バーチャルリアリティとは」)
もう少し馴染みやすい表現では、
物理的には存在しないものを、感覚的には
―――本物と同等の本質を感じさせる技術(岩田先生)
―――そこにあると感じさせる技術(鳴海先生)
なんてものも。
「本当」を感じること、仮想ではない「現実」として体験すること。
更に詳しい解説は、Mogura VRの用語集に「VR」があるので参照してみてください。
(具体例)
(VRZONE SHINJUKU『高所恐怖SHOW』(公式サイト)(画像出典))
高層ビルから伸びた木の板、その先にいる子猫を助けにいく体験。
物理的には地面に置いた不安定な板を歩いてるだけでも、感覚的には高くて怖い。
高所恐怖症は主にヘッドマウントディスプレイ(視覚)を使ったものになりますが
VRは、「360度好きな方向見渡せる!」ということでもなければ、
視覚に限った話でもなく、聴覚・触覚・味覚・嗅覚についてのVRも存在します。
「HMD以外にVRって何があるの?」って人は、例えば。
とか、IVRCとかも参考になりそうです。
VRっていうのを扱うにあたって
現実の要素を、(原物を使わずに)いかに現実味を帯びた表現をするか。
そのために、視覚はもちろん、触覚などその他五感にどんな情報を与えればいいか。
そんなふうに、現実を観察し、表現として再構築することが大事そうです。
こうして見ると、VRがエンターテインメントに留まらず、
あらゆる分野で活用できることがお分かりになるでしょうか。
ここから先は、VRを中心に据えたプロジェクトを
良質なものにするためのTipsを、記していく。
1. 企画
1.1 VRを使う意味
企画段階でまず気を付けなければいけないこと、それは
- VR技術で何を実現したいか
- VR技術を使う意味はどこにあるか
- そのVRコンテンツの一番の面白さはどこか
といった、VRを使う目的や意味を明確にするということです。
「最近流行ってるらしいじゃん。話題を呼べるからとりあえずVRで!」
とか言って駆け出した企画では、VRである必要がないコンテンツになってしまいます。
- それ、HMD使わなくてテレビゲームでいいじゃん。
- それ、360度見渡せる必要性ないし、正面しか撮影できないカメラで充分じゃん
- それ、バーチャルじゃなくて実物使った方が早いし楽だし良くない?
最初に述べた通り、VRは現実のエッセンスを人工的に生み出す技術なのだから、
生み出す要素(面白さ・利便性)が明らかになってないとどうしようもない。
VRは手段であり、目的ではないことに注意してください。
VRがあるから企画するんじゃなくて、まず企画があって、その実現に必要だからVRを使う。
VRは万能なんかじゃなくて、得意なことや苦手なことがあります。
1.2 ピーキーな面白さ/忖度
VRを使う必要性を見出したら、次にVRで表現する面白さを突き詰めていきます。
コンテンツ全体が満遍なく実装された体験より、最も打ち出したい面白さを中心に、
ピーキーな力の注ぎ方をしたコンテンツの方が、(たとえ他の部分が未熟な実装でも)
面白い・便利だということが多いです。
あなたが一番表現したい、こだわりたいポイントはどこですか?
(具体例)
「バーチャル空間で銃撃をする」(普通のFPS)
というコンテンツを考える時、次の二つでは趣が異なる。
(1)ゲームとして遊びたい人
- 要求
銃を撃ちまくる爽快感が欲しい。戦場のスリルを味わいたい。(2)ガチで訓練したい軍人
- 要求
実践と同じであってほしい。戦場で起きがちな問題や困難なども対処する練習をしたい。
何が言いたいかというと、
(1)の人は非爽快的な体験は嫌なんですね。
- 複雑な銃弾のリロード
- 一回打たれたら動きが超鈍くなるプレイヤー
- 敵が全然現れない無味乾燥な潜伏時間が続く
簡単な(けれども適度に達成感のある)動作でリロードされてほしいし、
スリルは失うことなく、けれども快適に遊べるダメージ処理を望んでいる。
快適さの話で言うと、以下のようなオモテナシもあります。
- 実際は弾道なんて見えないのに、狙いの付けやすさなどを考慮して、弾丸の初速度をコンマ数秒だけ遅くする
- 地面に落ちたものをしゃがんで拾うのは疲れてしまうので、手の掴み判定を実物より数十センチ先まで伸ばす
逆に(2)の人は、そういう非爽快的な体験こそ実装されていてほしい。
(んじゃないでしょうか。僕は戦場に詳しくないですが。)
じゃないと練習にならないから。
上の例では体験者に合わせてメインの実装ポイントを変えろ、という主張ですが、
つまるところ、自分達が表現したい・打ち出したい面白ポイントが最も活きるような
実装や演出をしよう、ということです。
- あなたの面白さにとって、物理法則のリアリティを追及するのは肝要か?
- あなたの面白さにとって、グラフィックが美麗であることは価値の本質か?
リアルについて、何をどこまで再現するか、というのは大事なポイントです。
また、体験する人・体験する場所を忖度想定しましょう。
実装するべき機能、呈示するべき感覚がそこから逆算されたりします。
会場は広いのか?静かなのか?体験は座って行うのか?
普段ゲームに親しんでいる人か?身体運動を要求できるか?……
大学の文化祭でやる場合は、「体験時間が短く」「VRHMDを体験したことが無い人」がたくさん来るので、
- 複雑なシナリオはやめた方が良い(語り切れないし、詰め込んでも伝えきれず消化不良になる)
- コントローラーだけじゃなく、何らかのインプット操作はシンプルにすべき。複雑にするとアテンドが死ぬし、操作を覚えるだけで体験時間が終わってしまうかもしれない。
- ワーキャー騒げたり、インスタ映えすると拡散されて良い
なんてことも挙げられます。
1.3 プロトタイピング
百見は一体験に如かず
VR界隈で結構聞く言葉。「百聞は一見にhoge」をモジったものですね。
これが言わんとしていることは、
「ディスプレイで100回見るより、VRHMD1回被って体験した方がよく分かる」ということです。
ここから、VRコンテンツ開発におけるプロトタイピングの重要性が導かれます。
- 「こんな体験をしたら面白いはずだ」と言って企画書を書いても
- 「きっと大迫力で見えるはずだ」と思ってPC画面で開発を進めていても
実際に体験をしたら想像していたほど面白くない、といったことがよく起きるんですね。
それゆえプロトタイプの制作を早い段階で行い、実際に体験をしてみて、その体験が本当に面白くなり得るのか確かめる方が吉です。
とにかく思いついた段階で、四角いCubeだけで構成された超簡易ステージで実装し、遊んでみる。「ホワイトボックス」(グレーボックス)なんて呼ばれたりする手法みたいです。
(ホワイトボックスの例)
Unreal Engine 4を利用した先進的なゲーム制作手法 The Unreal Way 2016 Epic Games Japan
そういえば、ゼルダの伝説BoWも、プロトタイプのサイクルを早めに回して作られたみたいですね。
グラフィックが売りというコンテンツでもない限り、
ホワイトボックスの状態で面白くないのなら、完成しても面白さはあまり変わりません。
UXデザインの部分に時間を割いた方が良いんじゃない?ということでしたっ。
1.4 試遊会
開発あるあるとして、「慣れ」があります。慣れが招く悪いものは次の通り
- 酔いやすいコンテンツも、だんだん酔わなくなってくる
- ストーリーが頭に入っているので、演出が雑でも物語がつながって感じられる
- 操作に慣れているので、快適にプレイできると感じる
絶対にいろんな人に体験してもらって、フィードバックをもらった方が良い。
VRではこれまでのゲーム以上に、世界観の強度(没入感・実在感)が求められたり
「私は次にどうしたらいいの?」と体験者が操作やシナリオに戸惑ったりすることが多い。
気をつけないと、体験者を置いてけぼりにして、
制作者の一人語りなコンテンツになってしまいます。
2. 展示
2.1 世界観を作る
ディズニーランドで、ミッキーは来場者にその中身を露わにはしませんよね。
中で働いているキャストはみんな、「そこが夢の国である」というテイで動いています。
仮にアトラクションやイベントがディズニーランドの目玉だとしても、
そこ以外の部分でも演出に余念が無い。世界観を作るってそういうことだと思います。
VR体験は、アテンド(体験者を案内する人)の対応や、
体験するまでの体験(待ち時間やHMDを被る前の説明)も大切。
というか展示スペースに足を踏み入れた瞬間体験は始まってるんだぞ、って感じ。
特に文化祭とかで、何か「設定」がある体験を提供するなら、
コンテンツはPCでビルドした段階ではなくて、
現場で体験者にアテンドすることで初めて完成します。
体験コンテンツに合わせて、操作説明や待機場所の演出などを考えましょう。
ディズニーランドがどんなオモテナシをしているのか勉強しに行こうぜ。
2.2 オズの魔法
ここで言いたいのは
VRは体験したことが全てだから、オズの魔法も積極的に使っていけ
ということです。
童話 「オズの魔法使い」の中でオズが使う魔法は、
見る人が見たらインチキだったり詐欺かもしれない。
けれど心の底から信じ切っている人にとっては、それは紛れもなく魔法なんですね。
こういう思想って結構いろんなところで出ていて、僕は好きです。
信じることこそが魔法の原理である、みたいな思想は、
VRと相性が良い、というかそれこそVRっていうか。
仮想がバーチャルへと変わりゆくために必要なものかもしれません。
(具体例)
以前、プロジェクターでカーテンを投影して、
キーボードを押すとそのカーテンが開く、というシステムを実装しました。
そこで、あえてキーボードを押しているところを見せないように工夫しつつ、
さながらハンドジェスチャーを認識してカーテンが開いたように見せます。
実際は僕が演技でやっている「カーテンを開く動作」はシステムには何も影響しないのですが
お客さんにはまるで、僕がCGのカーテンを物理の手で開けたように見えるんです。
あまりにも単純で稚拙な実装ながら、バレなければ結構驚いてくれたりします。
システム全てが最強のプログラムによって実装されているならそれはそれで良いですが、
そんなことまでしなくとも同じだけの効果が得られる場合がある。
とりわけ製作期間が限られている場合に効果的だったりします。
どれだけ上手にプログラムが書けたか、どれだけ手の込んだ実装をしているか
それは体験する側にとっては、本質的にはどうでも良いこと。
どう見せるか?「現実らしい」と思わせたらそれで良いってことなんですね。
2.3 非体験者をどう楽しませるか
VRHMDを使った展示をする場合、かなりネックになるのが、
「外から見ても何を体験しているのかわからない」
ということです。
あるいはモニターに体験者が見ている映像を映すことはできますが、
見た目のインパクトに欠けます。
ブースを構えて展示をする場合、外から見ている人をどう呼び込むか、って大事ですよね。
たとえばVR ZONEの脱出病棟。
同じフロアの一角から「ぎゃああああ」って悲鳴が聞こえてくるので、
なんだなんだと興味をそそります。
集客以外の観点から言うと、VRHMDは時間あたりに体験できる人数が相対的に少ない。
整理券を持ってないと世界に触れることさえ出来ない場合、機会損失というか、
オモテナシ失敗って感じです。
ポスター展示をするのか、ど派手なスクリーンを出すのか、
プロジェクションマッピングをするのか、体験者にリアクション芸をさせるのか、
体験していない人にちょっとでも何か配慮があると、企画の満足度があがるかなって思います。
3. 運営
特に文化祭とか、イベント出展に向けて突発的にプロジェクトを回す場合について述べます。VRに限った話ではない部分も多いです。
3.1 チーム編成(ジョブベース)
タスクDrivenでプロジェクトを進めましょう。
人に仕事を与えるのではなくて、仕事に対して人をアサインしていく。
特に「エンジニアしかいない集団」だとプロジェクトは回りません。
展示会場の手配は?機材の管理は?予算は?外部団体との連絡は?宣伝は?アテンドのやり方は?当日の会場内に飾り付けるものは?体験者の導線は?……
プログラムを書く人だけではプロジェクトは回らない。
リーダーの仕事は、「タスクを見出し、人を割り当てる」ことです。
開発や当日に際してどんなことが必要になるのか徹底的に想定し、タスクシートに書き出した上で、そのタスクのことを専門に考えてくれる人(エンジニアと兼任でも良い)を任命しておきます。
どんなに細かくてもいいんです。当日展示会場までのルートを調べるとか、列整理のための張り紙を作るとか、メールを一通出すとか、機材をAからBまで運ぶとか。
とにかく宛名の無いタスクを減らすことを徹底する。リーダーは、プロジェクトのオペレーションに支障がでない範囲で仕事をしましょう。
3.2 進捗管理
ほんのメモ程度なんですが、タスク管理も兼ねてTrelloは便利でした。
かつて文化祭で3チームに分かれて3つのコンテンツ開発をしたときは、
チームごとに板を作って、チームにまつわること全部をTorelloで一元管理してもらいました。
開発タスク(やってないこと、やってること、終わったこと)、買った機材、ミーティングの議事録……。
何が便利って、リーダーが一目で全部確認できることですね。
組織が大きくなってきたら、Googleスプレッドシートに移行した方が良いかも。
大事なのは3.2で見た通り、タスクに対して誰が割り当てられているかが確認できることかな。
4. 参考になりそうなリンク集
ここまで話してきたようなことが総合的に述べられている記事です。
とても参考になるので是非目を通してみてほしい。
VR ZONEのコンテンツ制作に関するポイントが開設されています。
VR初心者に向けて、企画・制作について気を付けるべきポイントを総合的に解説しています。もっと勉強したい人向けに、Appendixもめっちゃ入れました(僕が書きました)。
アテンドや演出、もてなし方の好例として。
東京ゲームショウで女性客に大好評だった刀剣乱舞の事例。
5. おわりに
いかがだったでしょうか。
アウトプット無精な僕ですが、どうにかこうにか間に合った。
ご意見ご質問等、ありましたら是非ください。(@yunoLv3)
余談ですが、来年はアーネスト・クラインのVRを題材にした小説「Ready Player One」(邦題:ゲームウォーズ)がスピルバーグ監督の手によって映画化しますね。
バーチャルという概念は、改めて説明するのは難しいかもしれないけれど、
人間の生活や行動のあちらこちらに、バーチャルなものは現れています。
やがて来るであろう、コンピュータでVRを自由自在にデザインできる時代を憧憬して。