約20億ドルもの巨額の投資金をGoogleやAlibabaから集め、会社設立当初から大きな話題になっていたMagic Leapですが、先日ついにARヘッドセット「Magic Leap One」のプロダクト画像を公開しました。Magic Leap Oneは2018年に出荷されるとのことでAR/VR界隈は大盛り上がりなわけです。Rolling Stoneからはデバイスをテスト使用したレビューが発表され、なぜこの会社が20億ドル(ドルですよ、ドル)もの巨額の資金を集めることができたのか、初めて一般人にもその片鱗が見えてきたわけです。
米GizmodoのAlex Cranz記者はRolling Stoneの記事やプロダクト写真に関して言いたいことがあるようです。
何年も小さなリーク情報しか我々のもとには届かなかったMagic Leapですが、ついにMagic Leap One Creator Editionを発表し、Rolling Stoneはこのデバイスのデモ体験のレビュー記事を公開しました。かなり長文の記事ですが、初めてデバイスが生み出す世界について我々に知らせてくれる内容になっています。この拡張現実はユーザーがいる実際の環境ともコラボレーションを行なうことができ、またサウンド(音の方向性も再現)や質感(投影されたものの近くに行くとさらに細部まで見えるようになる、等)、人間的な交流(ロボットやキャラクターが自分と目を合わせてくる、等)といった様々な要素を組み合わせて3Dのバーチャルな物体を演出してくれるようです。
そしてやはり何と言っても一番のインパクトはこの何というか...ダサいゴーグルでしょう。そうです、言っちゃいました。このゴーグル、ダサいです。そもそも頭にでかいゴーグルを付けることにまだまだ我々は抵抗があります。そこに来てこのやぶ医者のような丸メガネデザインです。
一つ思い出しておきたいのはMagic LeapはPlaystation 4などと違ってゲーム機として開発されているわけではない点です(もちろんゲームもコンテンツの一つとなるでしょうが)。ゲーム専用機であればヘッドセットがダサかろうと何だろうと関係無いですよね。しかしMagic Leapはリアルな世界にフィクションの映像を見せるAR技術であり、デバイスを付けた状態で動き回り、人や場所と出会うことを想定しているわけです。だからこそ「コンピューターと人間の関わり方を変える」と言っているわけですね。そういう点ではゲーム機のヘッドセットよりもさらにデザインが重要になります。
Rolling Stoneの記事を読む限り、Magic Leapはかなりクールなデバイスに思えます。「コンピュータと人間の関わりを変える、インターネットの次の革命だ」と記事で言われているのが「あながち過言でもないかも...」と思えてくるんです。だからこそ、だからこそ「もうちょっとカッコよかったら...!」と思ってしまうんです。iPhoneのように、iPadのように、街中で使っても「あ、かっこいいデバイス」と周りに思われるようなデザインだったらさらに可能性が膨らむと思うんですよね。
Magic Leapの素晴らしさはすでに世に出ているARゲームと比べるとよく分かります。Jedi Challengesを例にとって見てみましょう。このゲームではカイロレンは次のように現れます。
これを見る限りはカイロレンが実際に部屋にいないことがすぐに分かりますよね。もしも私とカイロレンの間に誰かが立ったとすると、カイロレンもその人も両方が見えて、カイロレンがフェイクであることがハッキリと分かります。しかしRolling Stoneの記事によると、Magic Leap Oneではそこからして違うようです。バーチャルなロボットを見た時のことをBrian Crecente記者は次のように形容しています。
ロボットは私から少し離れたところに、おとなしく、(エンジニアである)ミラーさんの横に浮いた状態で現れました。ミラーさんがロボットがいるスペースに向かって歩くと、ミラーさんの姿が見えなくなりました。身体のほとんどは隠れて、ロボットの下から彼の足だけが見えたのです。これを見た私の最初の反応は、まるで自然な出来事を見ているかのような感覚でした。次の瞬間に、Magic Leapの技術が生み出したフィクションの存在が完全に実在する人間を遮って見えなくしている、という事実に気付いたんです。私の目は同じ空間に存在している2つのもののうち、エンジニアの人間ではなく創られた物の方がリアルだと捉えて、ミラーさんを捉えなかったんです。少なくとも、Abovitz(Magic Leapファウンダー)氏の説明ではそういうことでした。
現実世界とバーチャルな物体のやり取りをこれほどのレベルで達成することは非常に困難です。これはかなりの偉業と言えるでしょう。
さらにすごいのは、Magic Leapによると我々が目で捉えている「ライトフィールド(明視野)」を操作することでARを実現しているということです。こう言うとまるでSFの世界の技術のように聞こえますが、ライトフィールドとは物体に当って跳ね返っている全ての光のことを指しています。Abovitz氏が他の研究者たちと新しい映像を作るにあたって試行錯誤を繰り返した結果たどり着いた結論は次のようなものでした。
(彼らの結論は)脳の視覚野はコンピューターの中のグラフィックス・プロセッサーのような機能を担っているということでした。目から与えられた情報を元に、その人間が知覚する世界をレンダリングしているのです。そしてそれをするために必要な情報量はとても少なくて良いということでした。
すごく遠くにいる動物を見ても、まるで二次元の段ボール紙の切り抜きと同じような存在にしか見えません。しかし近くから見つめてみると、毛並みや皮膚の汗などディテールもはっきりと我々は見ることができます。脳は必要に応じた時にだけ必要な情報を目から得て、視覚野でアバターを生み出すかのようにレンダリングをして”見ている”というわけです。
であれば、彼らが開発するデバイスも常に全ての情報を使って映像を再現する必要は無いと考えたとのこと。必要に応じて正しいライトフィールドを脳へと届けることができるチップを作れば、そこに存在しないものを”見ている”と脳に信じ込ませることができると確信したわけですね。
この方法は現在映画館やゲームなどでステレオスコープのメガネをかけて鑑賞する3D映像よりもずっとリアルになるそうです。Abovitz氏はステレオスコープを利用した従来の3D映像の仕組みを「何度も生き返る、業界におけるゴキブリ」と呼んで「終わらせる必要がある」と言っています。なんとも強烈ですね。
確かにこのステレオスコープ3D技術は、なんと100年以上の歴史を持つ古い仕組みです。1800年代後半から1900年代初頭にかけて、カーニバルの見世物小屋ですでに飛び出す画像、というショーが行なわれていました。60年代には青と赤のメガネをかけて、2000年にはいると灰色のメガネをかけて3D映画を見るようになりましたよね。また今日使われているVRヘッドセットも基本原理は同じです。同じ物体を軸を少しずらした状態で両目で見ることで脳を騙すという3Dの仕組みですね。Abovitz氏の説明をそのまま理解すると、Magic Leapはこの古いテクノロジーを捨て去って全く新しい3D鑑賞方法を生み出したことになります。少なくとも理論上は、ですが。
実際に使用してみないと果たしてこれがどれくらい「革命的な」影響を一般社会に与えるかは未知です。「コンピューターディスプレイがいらなくなる」という大風呂敷もメディア評の中では見受けられるものの、スマートフォンやBluetoothヘッドセットがiPhoneによって分かりやすく、かつクールにブランディングされるまでほとんど消費者には見向きもされなかったことを考えると、Magic Leapが何を達成してくれるか、慎重になる必要があります。何しろゴーグル自体がこんなにダサいわけですから。
確かに、以前リークされたバックパック式のものや、初代Oculus Rift、MicrosoftのHoloLensと比べるとかなりデザインとしては改善されているように思われます。
ミックスド・リアリティ(MR)に夢中なディベロッパーからするとむしろこの無骨なデザインは歓迎されるかもしれません。しかしこれを付けて家の外を歩けるか、というとちょっと難しいですね。
モデルの男性はハンサムですし、オシャレなタトゥーも入っています。Tシャツしか着ていないのに安っぽくもだらしなくも見えません。これは偉業です。ヒゲもきれいに整えられています。そんなパーフェクトなモデルがこのゴーグルによって間抜けに見えてしまっているということは、いかにゴーグルがダサいかを物語っています。
これが本当に「コンピューターと人間の関わり方を根本的に変える」テクノロジーになるとすれば、Magic Leapの課題はライトフィールド技術を一般人に分かりやすく説明すること...ではなくSF映画に登場する大量生産ソルジャーのような見た目になってしまうことを説得することでしょう。
もちろん、私がここでうだうだ言っていることはMagic Leapの開発者は全て理解しているのでしょう。Google Glassの失敗は業界の全ての人の記憶に新しいところです。つまりこの見た目でも全く気にせずに利用したくなるほどの体験を提供する覚悟があるということです。また投資家や起業もかなりの自信を持っているように思われます。いよいよ、ARの新しい時代の幕開けとなるのでしょうか。
Image: Magic Leap
Alex Cranz - Gizmodo US[原文]
(塚本 紺)