「ZOZOスーツって何?」
ある50代のビジネスパーソンと雑談していたときに、そう言われて驚愕した。「知らないんですか!? それヤバいですよ!」と勢いよくZOZOスーツの魅力を語ったが、まったくピンとこない様子だった。
一方で、私がSNS上でつながる”最先端なモノ”が大好きなビジネスパーソンたちは「アパレル産業が始まって以来の革命だ!」と、ZOZOスーツを熱狂的に迎え入れている。そのスゴさがわからない人、わかりすぎる人、それぞれ反応が極端でおもしろい。
ZOZOスーツは、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を運営するスタートトゥデイが発売した、自動的に身体を採寸できるボディスーツだ。
無料配布(送料200円)のスーツ内に多数のセンサーが内蔵されており、着るだけで瞬時に身体のサイズが計測されて、スマホのアプリにデータが送られる仕組みになっている。「無料で採寸できる」という点が話題を呼び、10時間で23万件の注文が殺到。配送に遅延が生じているという。
前澤友作社長の言うとおり、たしかにZOZOスーツは世界初のチャレンジであり、革命的なプロダクトだ。「まったく興味がない」というビジネスパーソンは感度がよくないと言わざるをえない。
一方で、「ZOZOが世界のアパレル企業と肩を並べる」「オーダーメイド服が常識になる」と期待するのも、過剰に思える。ZOZOスーツを絶賛する“わかりすぎる人”たちは「実はファッションへの理解がそれほどないのでは?」と違和感を持った。
今回はZOZOスーツをめぐる違和感をスッキリと解消するため、(1)「オーダーメイド服」という早とちり、(2)「ユニクロ vs. ZOZO」の仁義なき戦い、(3)究極のファッションとしての「身体性」、という3点から、アパレル産業に与える影響について考えたい。
カンペキな採寸ができるからといって、みんなが「オーダーメイド服がほしい」と思うわけではない。人がオーダーメイドであってほしいと思うのは、シャツ、スーツ、ワンピース、ドレスなど、フィットすると着心地がいい服だ。
タイトなシルエットか、ルーズに着こなすか、「サイズ感」はファッションにとって重要なことではあるが、1つの要素に過ぎない。ファッションデザイナーが創り出すデザイン、色、カタチ、素材など、別の要素のほうが、よほど「この服がほしい」という欲求を引き出すはずだ。
「オーダーメイドの時代がやってくる」というのは、ZOZOスーツのことを“わかりすぎる人”の早とちりだ。スタートトゥデイの前澤社長は、ZOZOスーツと同時にスタートさせるプライベートブランド「ZOZO」について、2017年10月30日に開催された決算説明会で次のように述べている。
「展開するアイテムは超ベーシックアイテムです。誰もが1枚や2枚、1本や2本は持っているだろう、あんなアイテムやこんなアイテムをやっていく。
(中略)ZOZOTOWNには6000ブランドあり、たくさんの取引をさせていただいています。そういったブランドとは極力、競合しないようにしたいと思っています」
なぜZOZOTOWNは他のブランドと競合してはいけないのか? 理由はスタートトゥデイとアパレル企業の間で結ばれる取引形態にある。
昔からアパレル業界には、百貨店などの小売業者に洋服が並んだ時点ではテナント(卸業者やメーカー)の在庫で、売れたときに小売業者が仕入れを計上する「消化仕入れ」と呼ばれる特殊な取引形態がある。つまり、小売業者は在庫リスクを負わずにビジネスができるのだ。
ZOZOTOWNも「消化仕入れ」である。アパレル企業に在庫リスクを負わせて受託手数料を得るビジネスモデルだ。ゆえに競合する商品をつくることで、アパレル企業との協力関係にヒビが入るのは得策ではない。前澤社長が慎重に言葉を選ぶ理由はここにある。
「超ベーシックアイテム」と「超」をつけてまで強調するのは、トレンドを取り入れたオーダーメイド服を当面はつくるつもりが本当にないからだろう。
国内アパレル市場を考えると、全体9.2兆円のうち、ZOZOTOWNが扱うトレンドアイテムの市場規模は2.6兆円。一方で、ベーシックアイテムの市場規模は5.5兆円と約2倍だ(出典:ローランド・ベルガー)。ベーシックアイテムという新たな市場へ参入するのは、合理的な経営判断だろう。