【ダマスカス篠田航一】内戦7年目のシリアの首都ダマスカス。中心部で続く「普通の暮らし」の背景で砲声が遠く響き、郊外には戦闘で廃虚と化した街が広がっていた。
南郊スベイナ地区に19日入った。空爆で建物の屋根は崩れ落ち、がれきが路上に散乱していた。商店のシャッターには直径1~2センチの銃弾の痕が無数に残る。この地区は政権軍が2013年にほぼ奪還したが、今も最前線には武装勢力の狙撃手が潜んでいるとされ、取材には政権軍兵士が同行した。
損壊した家具店の壁を塗り直していたハレド・アリさん(45)は、12年に家族でダマスカスの別の場所に避難。今年6月に戻ってきたが、その間に身内を失っている。「15年に一度荷物を取りに戻った兄が、たまたまその日に砲弾に当たって……」。最後まで言葉を継げず、声を詰まらせた。
11年に中東全域を覆った民主化要求運動「アラブの春」に端を発したシリアの内戦では、ロシア軍の支援などもありアサド政権が優位を確立し、「戦火のピークは過ぎた」との指摘はある。しかし、最も治安がよいとされる首都周辺ですら、アサド政権軍と反体制派、過激派組織「イスラム国」(IS)による三つどもえの戦闘は続く。
ダマスカス市内で出会ったシリア軍のワリード・ハリル少佐(39)は、泥だらけになった靴を見せながら「武装勢力が掘ったトンネルを調査してきた直後だ」と話した。追いつ追われつの戦いに、明確な終わりは見えていない。
市場に響く砲声 驚かぬ市民
戦闘が続く近郊とは対照的に、ダマスカス中心部は治安も良い。軍服やスーツ姿のアサド大統領の看板があちこちに立ち、商店や飲食店は夜遅くまでにぎわっていた。世界遺産でもある旧市街のスーク(市場)には、人とモノがあふれている。
ベビーカーを押す親子連れ、ベルトなどの革製品を言葉巧みに売ろうとする商店主、アイスクリーム店や貴金属店に長い列をなす女性たち。今後の見通しを聞くと、市民らは口々に「戦争は峠を越えた」「2018年こそ終戦だ」と平和への期待を込めて話した。
歩いていると突然、「ドーン」という重低音が一帯に響いた。旧市街から数キロ東にある反体制派拠点を、政権軍が攻撃した砲撃音だという。だが、買い物に来た市民は驚く様子も見せない。砲声は日常の一部なのだ。
戦闘が続く中、幹線道路の検問所はどこも厳戒態勢だ。銃を構え、金属探知機を手にした兵士たちが、不審車両に目を光らせる。シリア情報省前の検問所では突然、記者が乗った車に犬が飛び込んできて驚いた。爆発物を探知する警察犬だという。車内をかぎ回った後、窓から飛び出していった。
夜、宿泊先のホテルを出て近くの雑貨店に水やパンを買いに行った際、再び大きな爆音が聞こえた。方角が分からないので不安になったが、雑貨店主は肩をすくめて笑うだけだった。「戦争なんて慣れてはいけない。でももうすっかり慣れてしまったよ」