こんにちは。インターン生の牧野です。
最近、介護保険サービスと介護保険外サービスを組み合わせた「混合介護」の規制を緩和する動きが活発になっていることをご存知でしょうか?つい先日も、「介護サービスの提供と利用の在り方について」というテーマで政府が公開ディスカッションを行っていました。
規制緩和推進派の主張は、福祉従事者の低資金構造を改善することです。高齢化により介護保険を利用する人は増え続ける一方ですが、国が負担する介護報酬の増額は難しく、報酬が上がらなければ福祉従事者の低賃金構造は改善されません。保険外サービスを使いやすい世の中になれば、低賃金の問題も解決できますし、よりより介護サービスが普くはずです。
今日は福祉×VRで様々なメディアに取り上げられている登嶋健太さんに、保険外サービスという観点でVRはどのように活用できるのか直撃してきました。
登嶋 健太さん
福祉業界でヴァーチャル・リアリティ(VR)を活用するパイオニア。NHK、フジテレビを始めとした数多くのメディアでその取り組みが報道されています。勤め先の介護予防デイサービスで「利用者さんにリハビリ意欲を維持してもらいたい」と思ったのがきっかけで、VRを活用するようになったそうです。2014年末にはクラウドファンディングサイトReady Forにて目標金額75万円を超える85万円の支援金獲得を達成。昨年はVR学会にも参加し、アカデミック分野でも精力的に活動中です。
◆ 実際に見ているのは、頭の中にある昔の思い出
ー 登嶋さんはVRをどのように福祉の現場へ導入していったんですか?
最初はラップトップと大きなVR本体を使っていたのですが、今はスマートフォンを挿すだけで簡単に使えるハコスコを使っています。ハコスコの藤井社長は眼科医でもあるので、「お医者さんが作ったものなんですよ」と説明すると、より受け入れてもらいやすくなりましたね。そういった声かけも現場で受け入れ易くなった要因の1つかもしれません。
導入後の反響も良かったですね。ご利用者さまはVRを見ながら「ここ主人と行ったのよ」と喋り出すんですが、周りの人たちは何を見ているかわからないので「何を見ているんですか?」と話しかけます。そうするとコミュニケーションをとるきっかけにもなります。
ー VRの他にも検討していたツールはありましたか?
ありませんでしたね。VR導入のきっかけは、地味で単調なリハビリにどうやったら意欲的に取り組んでもらえるかを考えていたことでした。
ある時、談笑中に施設近くの梅林公園が話題になって、利用者さまが「久しぶりに行きたいわね〜」と仰ったのですが、お一人で外出できないのが現状でした。そこでお昼休みに梅林公園の写真を撮りに行って、それを見せながら「来年の梅まつりに行けるようにリハビリ頑張りましょう!」と声をかけたら、前向きな気持ちになってもらえたんですよね。
写真を見せる活動は利用者さまに好評だったのですが、僕が撮りに行った写真を見て記憶が蘇り「この右側にお店があるでしょ?後ろにベンチがあって…そこが見たいのよ」といった再リクエストを貰うことがチラホラあって、撮り直しに行って見せる…これを繰り返していく内に、360度で撮ることができたら便利だなと思い調べるようになりました。
このような経緯でVR活用が始まったので、他のツールについて考えることは無かったです。
ー 視覚的なレクリエーションはご利用者さんに喜ばれる傾向があるんですか?
そうですね。利用者さまが行ったことのある場所に僕が行って、そこで撮ってきたものをVRで見てもらうんですけど、Viewerを見つつ実際に見ているのは、頭の中にある昔の思い出なんですよね。映像をダイレクトに見せることで、頭の中にある映像を引き出してあげることができる。それに気がついた時、VRはすごくいいなと思いました。画質に左右されないのも特徴ですね。
過去をより明確に思い出すための触媒としてVRを使いたいです。こういう使い方だったら、提供する方もされる方も純粋に楽しい気持ちになれますから。
◆ VRは保険外サービスの橋渡しになる!?
ー ハコスコを使ったこの取り組みは、こちらのデイサービス(※早稲田イーライフ柿の木坂様)以外でも行っているんですか?
現時点ではここのデイサービスのみですね。他の事業所にも広げていきたいと考えていますが、「レクリエーションで取り入れましょう」だけでは、事業所にとってあまりメリットがないので、ちゃんとお金のことも考えなければなりません。その1つとして保険外サービスがあるのではないかなと思っています。
介護予防プログラムに特化した施設では、遠出したい・旅行したいと願う利用者さまが多くいらっしゃいます。その夢を叶えるためには他企業と協力し保険外サービスを提案することになりますが…これまで保険内サービス主体だった現場では環境の変化に戸惑うスタッフがいます。
実益までの一貫した流れを創ることで他事業および現場理解を得たいと考えています。サービスの「みえる化」は1歩踏み出すのが苦手なお年寄りにとって重要な事です。そういった観点で疑似体験できるVRは福祉業界で保険外サービスをやる上で良いツールになるかもしれません。
ー 登嶋さんの試みを知って、VRでのリハビリ意欲向上は保険外サービスとして使えるのではないかと思っていたのですが、VR体験自体を保険外サービスとして提供しようと思ったことはありますか?
ないです。VR=VirtualRealityです。利用者さまの夢はReal(現実)でありReality(現実味)ではありません。あくまでVRは補助道具として使うべきだと思います。
ただ、デイサービスはDoortoDoorのクルマ送迎が基本なので、日常的にVRができる環境が整えば非常に贅沢な場所になると考えています。日々VRコンテンツについて利用者さまから意見を聞いたり、施設にVRをなじませるトライアルしてしたり試行錯誤を続けています。もしかしたら活動の延長線上に答えが出てくるかもしれません。
(壁にかけてある絵をスマートフォンでかざすと簡単にVRコンテンツにつながる仕組み)
◆ 福祉業界が潤う仕組みを作っていきたい
ー 保険外サービスについて、いつ頃から課題感を持っていらっしゃったんですか?
1年くらい前からですね。肌で感じたのは運動をサポートするドリンクを販売することになった時です。ある程度のマニュアルがあっても、スタッフによって”オススメ”に差がでるのを目の当たりにしました。「旅行の提案になったらもっと大変だろうな」と。
保険外サービスはお勧めしづらい空気感があるんですよね。福祉って無論ボランティアじゃないんですけど、そんなイメージが根強いみたいで、そこに保険外サービスを提示すると「あ、お金をとるのか…」って。もともと国は介護保険で支えるという方針でしたし、僕達も保険外サービスに注力する必要がありませんでしたから、そういうマイナスイメージが先行するのは仕方ないんですけど。
ー 福祉業界がもっとこうなったらいいのにという具体的なイメージはありますか?
保険外サービスを普通に選択できるような環境が整備されたらいいなぁと。ツールとしてVRを用いることで、お年寄りにとって保険外サービスが理解しやすく、スタッフにとって”オススメ”しやすいモノになれば嬉しいです。保険内外サービスのバランスが大切だと思います。
終の果てではない、元気を取り戻せる脱介護の場所を作りたいです。