汝、退屈を憎むなかれ

2017年12月22日(金)

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 昨年あたりから折にふれて話題になっていた第三次産業の人手不足は、ここへきていよいよ本格的な局面に突入してきたようで、もうすぐやってくる来年のお正月は、久しぶりに、休業する店舗のシャッターが目立つ、静かな三が日をわれわれにもたらすことになるかもしれない。

 まだ、実際に来てみるまではわからないが、いくつかの新聞記事が伝えている感じでは、今度の正月は、年中無休24時間営業という、この30年ほど当たり前になっていたトレンドが、折り返し点を迎える最初の正月になる雲行きだ。

 日本経済新聞の電子版は

さらば年中無休 年末年始、大戸屋や携帯ショップ休業

 という、やや詠嘆調の見出しで、この間の事情を伝えている。

 記事によれば、定食屋チェーンの大戸屋ホールディングスは、この12月の18日、大みそかと元日に休む店を2倍に増やすことを発表しており、携帯電話販売店にも年末年始に休業日を設ける動きが広がっているのだという。

 今回は、今年最後の更新(次回は、新年吉例の「いろは歌留多」を掲載するつもりです。さすがにネタ切れの感は否めないのですが、苦しいこじつけにこそ渋い味わいが宿るのがこの仕事の醍醐味でして、まあ、そこのところはよろしくよろしく)でもあれば、年末年始の長期休暇を控えた時期の原稿でもあるということで、「休み」についてあたらめて考えてみたい。

 私の世代の人間が子供だった時代、正月は、総じて退屈な季節だった。

 お年玉による臨時収入が期待できることを除けば、冬休みは、万事にイベントの多い夏休みに比べて、どうにも時間のつぶしように困る二週間だった。

 少なくとも、私の記憶では1970年代の終わり頃までは、東京の正月は、冴えない季節だった。

 というのも、商店街と言わずデパートと言わず、商店という商店が軒並みシャッターを降ろしているこの時期の東京の街路は、文字通り、人通りの絶えるゴーストタウンだったからだ。

 飲食店も、ごく限られた都心部や初詣観光地周辺の店舗を除けば、基本的には三が日が終わるまでか、ひどいところになると松が明けるまでは開店しなかった。

 そんなわけで、わたくしども昭和中期の子供たちは、冬休みが終わるまでの正月の間、まるまる家の中に閉じこもって暮らすことを半ば強いられていた。これは、遊びたい盛りの子供には、試練だった。

 私は、必ずしも学校が大好きだった子供ではないのだが、それでも、毎年、年が明けて3日もたつと、早く学校が始まることを心待ちにしたものだった。近所に住んでいる友達が帰省やら観光やらでどこかに消えてしまう正月は、実家の居間で家族揃ってテレビのお屠蘇番組を視聴している時間の身を刻むような退屈さといい、酔っぱらった年始客の相手をすることの面倒くささといい、何年かに一度しか会わない親戚の子供たちと一緒に遊ばねばならないノルマの気詰まりさといい、負担ばかりが多い時期だったからだ。

 一日二日は、それでも、お年玉をもたらす来客を待ち構える気持ちで、退屈を押さえ込むことができた。

 しかし、脳内にある予定回収先名簿のチェック欄がおおかた埋まってしまうと、休日のやるせなさは、いよいよ呼吸困難に近い実感をともなって身を圧してくる。実に、子供というのは、変化のない時間に耐えられないように設計されている生き物なのであって、してみると、年末年始のもたらす空白と虚脱は、一人遊びのゲーム端末が発明されていなかった時代の子供にとっては、ちょっとした苦行だったのである。

「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「汝、退屈を憎むなかれ」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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