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【神奈川】

<2017かながわ 取材ノートから>(3)小田原市ジャンパー問題 生活保護者への配慮不足

会見で謝罪する市幹部=1月17日、小田原市役所で

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 生活保護を担当する小田原市職員が「不正受給者はクズ」といった意味の英文をプリントしたジャンパーを代々着用していた問題が、一月に発覚した。驚きとともに、疑問と悲しみがこみ上げてきた。

 生活保護世帯への訪問は通常、公用車を離れた場所に置くなど近隣にさとられないよう配慮する。そろいのジャンパー姿での訪問は無神経過ぎる。しかもジャンパーを購入したのは六十四人にも上り、一部職員の問題にとどまらなかった。

 市によると、きっかけは二〇〇七年に起きた傷害事件。生活保護を打ち切られた六十一歳の男性が市の窓口で、職員二人をナイフで負傷させた。事件後、職員間の連帯感を高めようとジャンパーを作ったという。

 だが、加害男性は不正受給者ではない。そもそも、同市で不正受給とカウントしていたのは、雇用主が支払う給与などと自己申告の収入を比べた結果、申告額がゼロか過少だったものが大半。制度を十分に理解していない高齢者や知的障害者、精神疾患者の無申告も多く、暴力団が絡むような悪質な事案はなかった。

 この「不正受給」は書類の照合で簡単に発見できるので、成果を得た気になりやすい。困った人に寄り添い、自立を助けるという本来の目的を忘れていたのではないか。

 市は本年度、市内の農家や福祉施設に協力を求め、生活保護を利用する人が社会参加する支援を本格的に始めた。心の病で引きこもりがちな男性ら二人が福祉施設に通うようになり、仕事が長続きしなかった十二人は果物の収穫や緑地帯整備などに従事し、正規雇用された人も出ている。制度を説明する「保護のしおり」も分かりやすくするなど改善を進めている。

 ただ、それで十分とは言えないだろう。市内のホームレスを訪ね、生活保護の申請やアパート入居を手伝う「小田原交流パトロール」の近藤孫範さん(70)は福祉オンブズマンの導入を提言する。これは福祉サービスの苦情などを専門家が公正、中立な立場で処理する仕組みで、東京都大田区などが制度化している。

 「生活に困り、市へ相談に行った時はみじめな気持ちだった」。七十代の女性は、初めて市に生活保護を申請した時の思いをこう語った。全国では、命を守る最後の砦(とりで)である生活保護を受けられなかったために、餓死した人もいる。信頼回復のためには、各地の先進施策を全て取り入れるぐらいの意識変革が求められている。(西岡聖雄)

 

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