2017年12月21日
若いミレニアル世代ほど、ソーシャルメディアよりブランドメディアを信頼している
伝統マスメディアの信頼性が復活か
ところが意外にも、マスメディアへの信頼性が復活する動きが出てきているのだ。Gallup(ギャラップ)が毎年実施するマスメディア(新聞やテレビ、ラジオ)に対する信頼度調査では、マスメディアの情報を信頼する米国民の割合が下落する一方であった。ところが2017年には一転して昨年の32%から41%へと大きくリバウンドしている。
トランプ政権に対する危機感を抱く民主党支持者が、昨年の51%から今年の72%へと、マスメディアに高い信頼を寄せるようになったためといえそう。米国の有力マスメディア・ブランドの大半がもともとリベラル派であることも大きい。
(ソース:Gallup)
図1 Gallupが実施したマスメディア(新聞、テレビ、ラジオ)に対する米国民の信頼性調査。2017年の電話インタビュー調査は、9月6日~10日に全米50州でランダムに選んだ18歳以上の大人1022人を対象に実施。ウォーターゲート事件やベトナム戦争の報道で、マスメディアの信頼が最も高かった1976年には72%の国民から信頼を得ていたが、それ以降は長期低落が続いていた。それが今年は前年比9%増の41%に大きく回復した。
オンライン情報のアクセスではFacebookからが断トツのトップであるが
ただ、伝統マスメディアの信頼が回復する気配が見られたといっても、メディアの主役は今やオンラインへ急速にシフトしている。さらに、スマホ(モバイル)化とソーシャルメディア化へとメディア環境も激変してきている。伝統マスメディアのパブリッシャーも、重心をオンラインに移してきている。今や若いミレニアル世代を中心に、ニュースからエンターテイメントまでの情報を入手する媒体としてはオンラインが主流になってきているのだ。
そこで、米国人が日常的にオンライン情報をどこから入手しているか、それらの情報をどの程度信頼しているか、またどの程度フェイク情報である懸念を抱いているかを、Digital Content Next (DCN)が調査していたので、その結果を紹介する。DCNはデジタルコンテンツ産業のための非営利事業団体である。調査は、2017年10月に18~64歳の米国の大人1000人を対象にオンラインで実施。対象者は、自宅からインターネットに接続し、少なくとも週に1回はソーシャルメディアやブランド・サイト/アプリを利用している。
調査結果の図2は、ニュースからエンターテイメントまでのオンライン情報を、回答者がネット上のどのソースから入手しているかを示している。複数回答である。21~40歳をミレニアル世代、41~52歳をX世代、53~64歳をブーマ世代として、世代別の各ソースの利用率を示している。
Facebookからの情報アクセスが、どの世代を通しても最も多い。若者のFacebook離れがよく伝えられるが、若いミレニアル世代でも8割以上の人が日常的にFacebookから情報を得ている。日本や中国の一部の国を除けば、大半の国でFacebookが情報収集の主要な場となっている。
(データ:DCN、グラフ:Axios)
(データ、グラフ:DCN)
図2 どのソースのオンライン情報を利用しているか
伝統マスメディアのブランドがオンラインでも健在
また図2で注目したいのは、ソーシャル全盛時代なのに、ミレニアル世代も含めてDesktop site、Mobile site、Mobile appにアクセスしている人が未だに多いことだ。これらは、ブランドサイトやブランドアプリから情報を得ているということである。
一方でFacebookのようなソーシャルメディアでは、情報を発信しているブランド(情報の発信元や発信者が明確)が無視されがちで、センセーショナルな見出しの情報とか、いいね!が多い情報などがよく閲覧される。発信責任者が定かでない情報も氾濫し、真っ当な情報が埋没しがちである。どうしても、フェイク情報がはびこりやすい。
ニュース情報のアクセスでも、ソースとしてソーシャルメディアが米国では主流となってきているが、日本と違って、伝統マスメディアのブランドサイト/アプリも質量とも充実しており、今も人気が高い。(注:日本では、ヤフーニュース、ラインニュース、スマートニュース、各種まとめサイのようなアグリゲーターサイト/アプリが主流)。
こうした米国のブランドメディアは、大統領選の年にトラフィックが急増しても、選挙明けの翌年は一般に急落していた。ところが選挙明けの今年8月時点で、有力な伝統メディアサイトのトラフィックが、図3に示すように、1年前の選挙時に比べ増えているのだ。今年8月の月間ユニークビジター数が、CNNが前年比19%増の1億1200万人、NYタイムズが同12%増の9500万人、Washington Postが同12%増の9200万人と、勢いを増している。逆にFacebookなどのソーシャルメディア依存の高いBuzzfeedやHuffPostが伸び悩んでいるのが興味深い。トランプ大統領誕生により、信頼できる情報を伝統メディアに頼ろうとしているからではないか。Gallupの調査で、今年のマスメディアの信頼性が急回復したのと符合する。
(データ:comScore、グラフ:Axios)
図3 トップクラスのニュースサイトのトラフィックの変化。2017年8月時点の月間ユニークビジター数と、前年同期比の増減率を示している
若い世代ほど、フェイクが少ないブランドメディアを信頼している
DCNの調査でもなぜ、ブランドサイト/アプリの利用者が意外と多い結果となったのだろうか。図4と図5の調査結果が面白い。
図4では、ブランドサイト/アプリ、YouTube、それにソーシャルメディアの三つのデジタル情報ソースに対して、回答者がそれぞれの情報を信頼しているかどうかの結果である。全体では、81%の人がブランドサイト/アプリの情報を信頼していた。60%のYouTubeや55%のソーシャルメディアよりも、ブランドメディアを信用している。ここで非常に興味深かったのは、デジタルネイティブが多いミレニアル世代の人たちが83%もブランドサイト/アプリの情報を信頼し、81%のX世代や75%のブーマ世代よりもブランドを志向していたことだ。
(ソース:DCN)
図4 どのソースの情報を信頼しているか
図5では、ブランドサイト/アプリとソーシャルメディア・プラットフォームのどちらに多くのフェイクニュースが存在するかを問うた結果である。全体の回答者の82%がソーシャルメディアに、52%がブランドブランドサイト/アプリに多くのフェイクニュースが存在すると答えている。ここでも目立つのは、ソーシャルメディアにフェイクニュースが多く存在すると答えた割合は、ミレニアル世代が84%と一番高く、77%のX世代や79%のブーマ世代を凌いでいた。ネットのメディア特性を、若い世代のほうが理解しているということか。
(ソース:DCN)
図5 ブランドサイト/アプリとソーシャルメディア・プラットフォームのどちらが、フェイクニュースが多く存在しているか?
このように、ミレニアル世代の若い人たちのほうが、中高年世代よりもフェイクニュースに敏感で、ブランドメディアに信頼性の高い情報を期待しているのかもしれない。若者がフェイクニュースに振り回されていると批判されがちであるが、高齢層のほうが振り回されているのかもしれない。もちろんブランドサイトだから信用できるわけではない。米国には品質の高いブランドのニュースサイトも多いが、一方で信頼できないブランドのニュースサイトも少なくない。ブランドサイトの良否を判断するメディアリテラシーが要求される。
◇参考
・Democrats' Confidence in Mass Media Rises Sharply From 2016(Gallup News)
・DCN’s new research: Trust as a Proxy for Brand Value (DCN)
・Brand affinity still strong in the age of tech(Axios)
・Facebook Engagement for Brands and Publishers Falls 20% In 2017(Buzzsumo)
・Bias, Bullshit and Lies Audience Perspectives on Low Trust in the Media(Reuters Institute,Univ of Oxford)
・Analysis: Conservative media traffic slump(Axios)
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posted by 田中善一郎 at 16:50
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