身体図式の脳内表現
これまで何度か身体図式と身体イメージについて取り上げてきました.
身体図式は,主に体性感覚によって把握された身体であり,それが視覚や言語など他のモダリティと統合されたものが身体イメージであるというのが最近の一般的な見解のようです.
そして入力と出力の関係から言うと,
入力されたものが触覚などの体性感覚であれ,それを出力するときに言語や視覚で表現するときには,implicitからexplicitへの変換が起こるため,出力されたものは身体イメージということになります.
では身体図式を表現するもの(方法)は,いったい何でしょうか?
これは体性感覚によって把握されたものを,体性感覚で表現するということになるので,それは“運動”ということになります.
つまり,body image for perception, body schema for action です.
(これについてはインプットベースからアウトプットベースの分類として以前の記事でCardinaliの研究とともに紹介しています)
では,身体図式の脳内表現はどうでしょうか?
今回は,身体図式の脳内表現をとらえた研究について,紹介したいと思います.
Pellijeff et al. (2006) Parietal updating of limb posture: An event-related fMRI study. Neuropsychologia.
Parkinson et al. (2010) Parietal cortex coding of limb posture: In search of the body-schema. Neuropsychologia.
どちらも視覚を遮断した状態で,左右どちらかの手で自分の身体にリーチ(ポインティング)する際に,はじめの手のスタート位置が数試行ごとにランダムに変化するが目標が一定の場合と,
スタート位置が一定で,目標の場所が数試行ごとにランダムに変わる場合が設定されています.
Pellijeff et al.(2006)では,目標やスタート位置がランダムに変わった直後の1試行目とその後の繰り返しの2試行の際の脳活動を比較しています.
つまり,(新奇の姿勢)からリーチする時と(繰り返しの姿勢)からリーチする時の脳活動の差をみたわけです.
(新奇の姿勢)の場合には手のスタート位置が非意識的に把握されていると考えられ,(繰り返しの姿勢)の場合にはすでに記憶された(イメージに基づいた)スタート位置を利用していると考えられます.
その差分をみるということは,言い換えると身体図式の脳領域をみていると言い換えられるというわけです.
その結果,両側の上頭頂小葉(SPL)のみに脳活動の差が認められました.
(ちなみに[繰り返しー新奇]では脳活動の差はありませんでした)
この領域は, Connolly, Andersen and Goodale (2003)によって最近ヒトで特定された頭頂葉のリーチ領域とほぼ一致したものでした.
このSPLは,身体の姿勢の複合的な表象を生み出すために体性感覚野からの入力を統合し,現在の身体の姿勢状態をアップデートし維持する役割があると考えられます.
これまでサルで示されてきた自己身体への接触をコードするニューロンとも一致する知見です.
体性感覚的に手の位置をコードするニューロン活動を示唆するものであり,身体図式を表す脳活動であることが示唆され,個人的に非常に興味深いと感じました.
« 物を掴んで口に持っていく動作の発達 | トップページ | 自閉症ハイリスク乳児の物体探索行動 »
「文献紹介」カテゴリの記事
- 脳性麻痺児の脳病変とコミュニケーション能力の関係(2017.10.29)
- 痙性両麻痺CP児の実行機能障害(2017.09.22)
- 子どもが学習する環境(2017.05.04)
- 乳児の探索運動中の他の四肢の無関係な動き : Overflow movement(2017.01.06)
- 乳児の能動的なリーチング経験が顔への選好を増加させる?(2016.10.27)
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/574877/61638107
この記事へのトラックバック一覧です: 身体図式の脳内表現:
コメント