>  > 坂井竜二と白戸佑輔が考える鈴木このみの“魅力”

鈴木このみ『LIFE of DASH』

鈴木このみの“歌の強さ”をどう活かす? 作詞家・坂井竜二&作曲家・白戸佑輔が語り合う

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 シンガーの鈴木このみが、初のベストアルバム『LIFE of DASH』を12月20日にリリースする。

 同作には、アーティスト活動6年の間にリリースした全アニメタイアップ曲に加え、先だって行われた『3rd Live Tour 2017 ~lead~』でも新曲として披露された、本人による初作詞・作曲である「夢へ繋ぐ今」を収録。彼女のこの5年間の成長の軌跡が収められた、まるでドキュメンタリーのような内容となっている。

 リアルサウンドでは今回、鈴木の楽曲を数多く担当し、新曲「夢へ繋ぐ今」にも深く関わっている作詞家の坂井竜二と、作曲家の白戸佑輔による対談が実現。鈴木このみの超絶な歌唱力をどう活かしながら、楽曲を制作しているのか。アーティストとしての彼女のポテンシャルを、どうやって引き出してきたのか。それぞれの立場から大いに語ってもらった。(黒田隆憲)

「(作詞について)あとは心の中を整理して、どう方向付けてあげるか」(坂井)

ーーまずは、今回のベストアルバム『LIFE of DASH』に収録されているお二人の曲についてお聞かせください。

白戸:僕が作曲した曲は、「DAYS of DASH」(TVアニメ『さくら荘のペットな彼女』前期エンディングテーマ)、「夢の続き」(TVアニメ『さくら荘のペットな彼女』後期オープニングテーマ)、それから 「Love is MY RAIL」(TVアニメ『アンジュ・ヴィエルジュ』オープニングテーマ)の3曲が収録されています。 「Love is MY RAIL」は、「DAYS of DASH」の現代版というか、「DAYS of DASH」から数年経った世界観というテーマで書かせてもらったんですが、ものすごく悩みましたね。

 それこそ「DAYS of DASHっぽくなったり、あるいはむちゃくちゃ暗い曲になったり、結構行ったり来たりしたのでだいぶ待たせてしまいました(笑)。最終的に、疾走感のある曲という部分は「DAYS of DASH」を引き継ぎつつ、サビのメロディを考えていきました。同じ言葉を繰り返すのか、バーっと言葉を連ねていって、最後の一言に言いたいことを込めるのか。最終的には後者にしようと思って、キーを合わせて作った感じです。

白戸佑輔

坂井:僕は「銀閃の風」(TVアニメ『魔弾の王と戦姫』オープニングテーマ) と「Absolute Soul」(TVアニメ『アブソリュート・デュオ』オープニングテーマ)の歌詞を担当しました。まずは原作を読んで、キーワード的なものは拾いつつ、そこにこのみちゃんのパーソナリティも散りばめています。というのも、完全にアニメに寄せてしまっては、意味がない気がしてしまって。

坂井竜二

ーー白戸さんは、作曲する時にアニメの世界観をどのくらい考慮に入れます?

白戸:僕はあえてあまり観ないようにしていますね。例えば、ホラーっぽいジャンルの作品に、ホラーっぽい曲を合わせてもつまらないじゃないですか。元気な青春アニメに元気な曲をつけるのも、そのまま過ぎるというか。ただでさえ言葉(歌詞)の情報量があるので、あえて寄らないように心がけています。

ーーアニソンではなく、鈴木さん本人の楽曲を書く際に気をつけていることは?

坂井:実は、竹山さん(KADOKAWAで鈴木このみの制作に携わる竹山沙織氏)のアイデアが大きいです。「鈴木このみ」というシンガーを、この先どう展開していくかのヒントを彼女からもらって。それを僕が歌詞という形で具現化していくというか。

白戸:竹山さんの存在は、「鈴木このみプロジェクト」の中でかなり大きい。功績者ですよ。彼女の話も聞いた方がいいかもしれない。

ーー是非。そういった方向性は、このみさんと竹山さんでまずは話し合ってから決めていくのですか?

竹山:そうですね。そこから「彼女は今こんなことを考えているから、この曲ではこういう風景が見えるようなものにしたい」というのをリクエストして。

白戸:それがめちゃくちゃ分かりやすいんですよ。

竹山:タイアップのある曲は、アーティストのパーソナリティは5割、アニメの世界観が5割という割合で作っているとして、そのカップリング曲は完全に自分のための曲、つまり「鈴木このみ10割」で作るんですね。となると、その10割のパーソナリティが濃いものでないと、楽曲そのものが薄まってしまいますよね。今、鈴木このみが何を一番言いたくて、何に葛藤していて、どんな答えを欲しがっているのか、そういう「課題」のようなものを、彼女との話し合いの中で引き出して、それを楽曲に込めていくんです。そうやって作った曲を、ライブなどで歌いながら自分のものにしていくうちに、「課題」を克服して次のステップへ行けたらいいなと思っているんですよね。

坂井:ね、すごく愛情があるんです(笑)。それはアイデアシートにも溢れていて。

竹山:ありがとうございます(笑)。そういう(「課題」を込める)作業って、鈴木本人をよく知っている人じゃないとできないので、かなりパーソナルに踏み込んだ曲が欲しい時には、どうしてもお二人に頼むことが多いんですよね。

ーー今作に収録された新曲「夢へ繋ぐ今」はまさに、彼女のパーソナリティが込められた曲ですよね。彼女が作詞作曲を手がけ、坂井さんが作詞のサポート、白戸さんがアレンジを担当されているわけですが、実際にはどのように作っていったのでしょうか。

坂井:まだこの曲のプロジェクトがスタートする前、確か何かのライブの打ち上げだったと思うんですけど、「どうして自分で歌詞を書かないの?」って突いてみたことがあるんですよ。このみちゃんはもう二十歳を超えて、東京へ出て来て一人暮らしをしていて。「そろそろ自分の言いたいこととか、あるでしょう?」って。その時は、「言いたいことがない」なんて言ってましたね。今となっては、「言いたいことしかない」っていう状態になっていますが(笑)。

ーー一度書き始めたら、堰を切ったように言いたいことが出てきたんでしょうね。実際にどんなアドバイスをしたのですか?

坂井:まずは、「はたから見て間違っていようが、下手クソだろうが、あるいはちょっと背伸びしていてもいいから、本気で思ったことを書いてよ」と言いました。自分もそうだったんですけど、最初に書いた歌詞よりも、少しできるようになった歌詞の方が、スキルがついて良くなるのは当たり前じゃないですか。楽曲にも同じことが言えますよね。ただし、その時にしか胸を張って言えないことって、絶対あると思うんです。

ーーそこから、どうやって彼女自身の言葉を引き出しているんですか?

坂井:例えば、彼女が出してきた歌詞の内容について、俺自身が「それは違うな」と思っても、絶対にジャッジはしない。善し悪しを判断するのではなくて、「これはどういう意味なの?」と質問するんです。「ここは、どんな景色で、この人はどんな気持ちなの?」って。そうやって聞いていくと、そこで彼女もさらに深く考えて、答えを導き出していく。

ーー自分自身と向き合わせているわけですよね。己を知るというか。

坂井:昨日もこのみちゃんの作詞を手伝っていたんですけど、歌詞の中に登場人物が2人いて。「この(片方の)人はどんな仕事をしてるの?」と尋ねると、「会社員」って。「どんなカバンを持ってる?」「メッセンジャーバッグ」みたいな感じで、具体化していくうちにどんどんストーリーも展開していって。「この2人は今、どこにいるの?」「同じ東京」、「会えるの?」「会えるけど、会わない」、「それはどうして?」「うーん……なんでだろう」って。どんどん自分から物語の中に深く入っていったので、「あ、これはいい感じだな」と思った。

白戸:いわゆる「連想ゲーム」ってやつだね、面白いなあ。

坂井:こういうことを繰り返していけば、自分と向き合う訓練になるし、自分のことも深く分かっていくと思うんです。そうすると、もっともっと大きい歌手になると思いますね。「歌はもう練習しなくていいから、こういうことをもっとやりなよ?」って言っちゃった。

(一同笑)

坂井:だって、歌はもう充分上手いんだしさ。「そんなことより旅とか行ってきたら?」って(話)。それはさておき、今まで彼女は、僕を含めいろんな作詞家の言葉を歌ってきたわけで、その吸収力は相当なものだと思うんです。そすると、歌詞も書こうと思えば書けちゃうんです。あとは心の中を整理して、どう方向付けてあげるかだけ。まだまだいけると思いますよ。でも、作詞まで上手くなって俺の仕事がなくなっちゃうのもなあ(笑)。

ーー白戸さんは、このみさんが考えたメロディを基に、どうアレンジを施していったのですか?

白戸:最初はこのみんと、事務所の社長と俺でまず打ち合わせをして、曲の最後はまだ続くような感じにするとか、そういうポイントごとの抽象的なイメージだけをもらって膨らませていきました。ただ、僕が手がけるのであれば、今までやってきた雰囲気はちゃんと出したいなと思いましたね、さっきも言った「疾走感」みたいなものは。あとは、要望のあった「キラキラ感」をどこまで出して、でもあまり過剰になり過ぎず……というバランスは考えましたね。

ーーキラキラ感というのは、例えばどのように出しているのですか?

白戸:バンドが普通に演奏している後ろで、ストリングスがスタッカートでハネている感じを演出すると、かなりキラキラ感が出ますね。それでも足りない場合は、シンセでキラキラ系の音を入れていくとか。単にキラキラした「音色」だけだとつまらないんですよ。そこにリズムのひと工夫があるとかなり違う。

      

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