石井氏の事務所は、民泊代行会社を利用するホストや賃貸管理会社を対象に、「清掃はきちんとなされていたか」「対応は丁寧だったか」「質問には素早く対応したか」などを聞き取りするアンケート調査を実施した。
その結果、「オール1」(評価は1~5までの5段階評価で、1がもっとも低い)だった代行会社が、全体の25%を占めたのだ。
「とんでも代行会社」の実例にも事欠かない。
「神奈川の物件なのに、宮城県で募集されていた」「トイレットペーパーなどの消耗品を不当に請求された」「ゲストが水道を出しっぱなしにしていたと主張され、法外な水道代の請求がきた」といった声もあった。
中には「宿泊日数を少なく報告して、売上をごまかしている」とか「入金がなく、問い合わせをしたら電話がつながらなかった」といった極めて悪意な事例も存在した。
唖然とさせられる部屋を平気で貸す副業ホスト。プレミアをつけて民泊物件を売りとばすブローカー。そして悪徳代行会社……。民泊という新しいビジネスの「ダークサイド」は、恐ろしく暗く、深い。
2016年の8月5日から21日間に渡り開催されたリオオリンピック期間中、リオ市内では6万6000室の部屋が民泊として貸し出されたと聞く。賃料収入の総計は、25億円にのぼったというから、観戦と現地での暮らし、双方を楽しみたい人々の新しい旅の形として市民権を得たのだろう。
しかし残念ながら日本国内では、まともな民泊もある一方で、素人から玄人まで、あらゆる怪しげな人々の「新しい儲け口」になってしまった側面があるのではないか。
当初こそ民泊は、日本国内のホテル不足と、国内800万戸以上に広がる空き家を同時に解決できる「救世主」のようなビジネスモデルだと言われた。それが一転、2018年6月に施行される住宅宿泊事業法(民泊新法)で国は厳しい規制を実施する予定だ。さらに、自治体レベルでの独自条例も課される見込みとなっている。
例を挙げると、「住居専用地域での月曜正午から金曜正午まで営業を認めない」(新宿区、中野区、杉並区)、「実質土日のみ可能」(世田谷区)、「住居専用地域では1〜2月の60日間に限定」(京都市)、「営業可能な区域と期間を指定して制限」(長野県)といった案が検討されているといい、当初の期待からは考えられない「嫌われっぷり」となっている。
悪質な違法民泊だけでなく、民泊全体を危険視したかのような行政の施策には、民泊ビジネスにたずさわる人々から反論の声も上がりはじめている。
民泊ベンチャーである株式会社SHIの高橋延明取締役は、「民泊が叩かれるのは新しいビジネスだからです」と断言する。
「ホストがゲストを襲うなどというのは論外ですが、許可を得たホテルでもいろんな事故・事件はあります。ホストとゲストの関係は逆ですが、芸能人の宿泊客がホテルスタッフを部屋に呼び出し襲ったという事件も記憶に新しいでしょう。
そもそも、寝泊まりする場所を提供するというビジネスには、高い倫理観が求められます。それは民泊でもホテルでも同じであり、民泊だから叩くというのはおかしい」
同社は創業2年目ながら、福岡で2016年12月1日に始まった旅館業法施行条例改正後の許可申請第一号を取得し、その後も物件数を増やして、現在合法的に12棟の宿泊施設を運営している。1泊2500円前後の部屋はフル稼働で、いつもアジアからの若い旅行者たちで賑わっている。
観光庁のホームページには、「観光は、我が国の力強い経済を取り戻すための極めて重要な成長分野です」とある。観光を日本の経済政策の柱の一つとすることが明確に位置付けられ、2007年には「観光立国推進基本法」も施行された。
日本が観光立国としての地位を獲得していく上で、経済的な理由からこれまで日本に来られなかった層を受け入れていくためにも、「宿泊先の多様化」は欠かせない課題だ。1泊5000円前後で泊まれる民泊は、観光立国・日本を下支えする重要は宿泊施設となるはずだ。
6000万人ともいわれる旅行者を受け入れていくためにも、いま官民が共通の課題として取り組んでいくべきなのは、手のひらを返したような規制強化で過剰に業界を締め付けるよりも、横行する悪質業者や怪しげな違法民泊を適切にターゲティングした対策を練ることで、地域住民にも嫌悪されず、むしろ活性化させる新産業として民泊市場を正常化することなのではないだろうか。