都民ファーストの会に所属する東京都議会議員、後藤奈美さん(31)が12月15日、都議会本会議に出席した。第1子である長男を11月4日に出産したばかり。産後1カ月での"復職"だった。
この日の都議会では、本会議を欠席する理由に病気や出産だけでなく「家族の看護や介護」などを加える会議規則改正案が、全会一致で可決された。家族のケアを欠席理由として認めるのは、福岡県議会に続いて全国2例目だ。
熊本市議会で生後7カ月の長男を抱いて本会議に出席しようとした議員の行動が話題になったのは、後藤さんが復帰のタイミングを迷っていたときだったという。
「365日議員であり、365日母でもある。どのようにバランスをとるのか、悩みは尽きません」
閉会を見届けて自宅に戻った後藤さんは、夫と留守番していた長男にミルクを飲ませながら、BuzzFeed Newsの取材に語った。

後藤奈美さん(右)と、長男を抱く夫の中島晃一郎さん。
あれもこれも完璧にはできない
7月2日に投開票された都議選で、小池百合子知事が率いた都民ファーストの会は49議席を獲得して圧勝し、都議会第1党となった。そのときの当選者に、妊娠中の女性が2人いた。
定数1の中央区で当選した西郷歩美さんと、足立区で4万6000票あまりを獲得してトップ当選した後藤さん。いずれも初当選だ。
後藤さんの妊娠がわかったのは、都議選に出馬しようと決めたころのことだった。介護や福祉を仕組みから変えたい、と目指した政治家の夢。両親は体調を心配して出馬に反対したが、何度も土下座をして理解してもらった。
つわりが落ち着くとすぐ、街頭演説に精を出した。5キロを超えるトランスメガホン、木製の看板、のぼり......。重い荷物を抱え、毎朝7時に大通りに立った。
このころ、BuzzFeed Newsの取材にこう話していた。
「妊娠は隠すことではなく、この年代の女性には当たり前に起きること。ただ、スーパーマンのようにあれもこれも完璧にこなすことはできません。周りにSOSを出さないと、できないことばかりなんです」
15分の休憩で横になる
当選して初めての9月議会の期間は、臨月に近かった。午後9時や10時までずっと座っていると、お腹が張って痛くなり、脚がむくんでくる。15分間の休憩中、別室のソファで横になった。会派が、控え室とは別に部屋を用意してくれたのだ。出産後もしも子どもを連れてくる場合、おむつ替えなどができるように、との配慮でもあった。
予定日が迫ると、いよいよ議会に出向くのもつらくなった。委員会でする質問についての都職員との調整は、電話にしてもらった。勉強会はスカイプでつないでもらい、自宅から参加した。
「もともと紙や対面の文化がありましたが、メールや電話でリモートワークができる公務もありました。新しい働き方に柔軟に対応してもらえました」

都議選告示前の5月、妊娠5カ月のころの後藤さん。
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夫は週3日勤務に
夫の中島晃一郎さん(29)は後藤さんの当選後、式典や会合に妻の代理として出席することもあった。妻の秘書であり会社員という二足のわらじを履いていた。
育児休業を取ることも考えたが、「長いスパンで夫婦共同で子育てしていきたい」と転職を決意。クラウドソーシング会社「ランサーズ」に創設された「タレント社員制度」で、週3日勤務の正社員として採用された。
後藤さんは夫のサポートを受けながら公務を続け、出産3日前までリモートで会議に参加した。
「出産前の心配は主に体調のことでした。出産後は......思い通りにいかないことばかりだな、と感じています」
慣例はあるがルールがない
体の回復が少しでも早くなれば、と無痛分娩を選んだが、翌日は歩くこともままならず、「思っていたより体はボロボロになりました」。
長男を抱っこしながら資料を読もうとしても、文字が頭に入ってこない。おむつ替え中に電話がかかってくる。重要な話を始めると長男が泣く。
「産後にホルモンバランスが崩れたからなのでしょうが、頭がついていかないのは自分がおかしいのかも、と悩みました。会派には配慮してもらっているものの、ルールがないので両立のやり方がわからなくて」
特に悩んだのは"復職"の時期だ。議員には、産前産後休業や育児休業の制度は適用されない。「出産」で議会を欠席することは認められているが、いつからいつまで、というルールはない。
「産後休業と同じ産後56日までを目安に休むのが慣例のようで、それだと私は12月議会は『出産』で欠席になります。でも、ルールがないのに、ルールを作る側の人間が休んでいていいのだろうか、と疑問に感じました」
「議員も母親もどちらもないがしろにはできないし、どちらも優先したい。いまの自分にできる最大限のことが、12月議会に出席することだと思ったんです」
長時間になりそうな日は、夫に息子を連れてきてもらい、控え室の別室で待機してもらって休憩時間に授乳することも考えた。幸い、配慮によって開会日の1日と委員会採決の12日、閉会日の15日のみ、短時間の出席で済むことになった。
後藤さんは、議会に"復職"できたのは会派の理解や夫の全面的なサポートによるところが大きいと感謝している。その半面、サポート体制に恵まれなければ議員活動と子育てを両立できないようだと、女性や若手の議員は増えないだろうと危惧している。誰もが1カ月で復職できるように、と思っているわけでもない。
「子育てと議員活動を両立しやすくするには制度改革と意識改革の両方が必要で、そのために当事者として活動したり発信したりしていきたいです」
午後1時の開会を午前10時に

都民ファーストの会の子育て中の議員らで開いた、議会のあり方の検討会議
当選後、子育て中の議員らで勉強会を開き、議会改革などを話し合ってきた。
今回の、家族の看護や介護での欠席を認める会議規則改正案の提案につながったが、課題は他にも挙がった。
例えば、都議会の本会議は午後1時に開会する。それだと保育園の迎えに間に合わないことが多いから、前倒して午前10時の開会にできないか。傍聴人のための託児サービスの空きがあるときには、議員も使えるようにできないか。それらを実現するのに具体的に支障があるかどうかを検証していくのだ。
後藤さんがいくつかの本会議に出席せずに済んだのは、採決でなければ「自宅にいてネット中継で見て内容を理解すればいい」との判断になったからだ。議場に座っていることだけが議員の仕事とは限らない。そこには配慮だけでなく、合理的な仕事のやり方や生産性向上の観点もある。
夜間休日議会も
長野県喬木村議会は12月から「夜間休日議会」を導入した。常任委員会を平日の午後7時から午後9時とし、土曜日である12月16日に一般質問をしている。
議員のなり手が不足し、高齢の男性に偏りがちなため、若い世代が仕事と議員活動を両立できるようにする試みだ。地域の実情に応じた議会改革を進めなければ、議会は形骸化し、有権者の声を代弁できなくなるという危機感は強い。
民間企業は、従業員に給料を支払い、福利厚生を提供している。人件費をかけたぶん最大限のパフォーマンスを発揮してもらわなければコストを回収できないため、より能力を発揮しやすい環境を整える。
議員はどうだろう。議員に支払われている決して安くない報酬は、私たちの税金だ。選挙で「採用」し、固定された報酬は払うが、活躍しようがしまいが自己責任でね、というのでは、管理監督者がいないのと同じだ。
議員が活躍しやすい環境を整えて相当の働きを要求するのと、「税金泥棒」と一蹴して期待しないのと、どちらが成果につながるだろうか。
後藤さんは長男を保育園に預けるため、目下「保活」をしている。夫は週3日勤務、自身も就労状況を証明しづらく、認可保育園は「絶望的」。入園はポイントによって厳正に選考され、議員の口利きどころか議員が優遇されるような時代ではない。
「保育園に預けるプロセスも、子どもにかかりきりになることも、すべて"普通"のこととして経験しています。それをどういう形で届け、変えていくのかが議員の仕事。模索する意味があると思っています」
BuzzFeed Newsはこれに関連し、〈子連れ議会は「パフォーマンス」ならばいい。30年前の論争は今に生きているのか〉という記事も配信しています。
一部表現を修正しました。
過労死、長時間労働、ハラスメント、仕事と生活の両立や男女格差……。
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