広島高裁の野々上友之裁判長は12月13日、原子力発電所を持つ全国の電力会社を震え上がらせる決定を下した。
四国電力の伊方原発の運転再開を差し止めるとした仮処分で、130km離れた阿蘇カルデラが全国で1万年に1回程度とされる「VEI(火山爆発指数)7級」の「破局的噴火」を起こす可能性を指摘、原発立地として不適当なだけでなく、十分な噴火対策を講じていないことは国の原子力規制委員会の審査上の不備だと断じたのだ。
そのうえで、そんな審査をパスしても四国電力が同原発の安全性を証明したことにはならないとして、下級審の判断を覆した。
決定は衝撃をもって受け止められた。同原発の恒久的な処分が争われている下級審(広島地裁)での係争の行方や、全国の裁判所の原発訴訟に大きな影響を与えかねないとみられるためで、福島第一原発事故後バラバラになっていた電力業界が一転、水面下で団結を模索し始めたようだ。
筆者の取材にも「全社を挙げて、四国電力を支援していく」(有力電力会社)と明かすところがあった。
だが、筆者が重視したいのは、12月20日に退官を控えていた、この道36年の大ベテラン判事が、誰もが見落としていた原子力規制委員会のルールの盲点を突きながら、肝心の運転差し止め期間を「平成30年9月30日まで」とあえて9ヵ月あまりの短期間に限定した点だ。
筆者には、その点にこそ、恒常的な原発の運転停止がもたらす電力会社経営や日本経済への重い負担を十分に承知しつつ、選挙のたびに脱原発とのニュアンスの公約を掲げながら一向に抜本的な脱原発へのロードマップを構築せず、なし崩しの原発存続状態の安倍政権に猛省を促そうという硬骨の法律家の信念が込められている気がしてならない。
広島高裁の決定文は実に400ページを超す力作だ。
争点を、(1)司法審査の在り方、(2)新規制基準の合理性に関する総論、(3)新規制基準の合理性に関する各論、(4)保全の必要性、(5)担保金の額――の5分野とし、このうち③の新規制基準の合理性に関する各論を、(ア)基準地震動策定の合理性、(イ)耐震設計における重要度分類の合理性、(ウ)使用済燃料ピット等に係る安全性、(エ)地すべりと液状化現象による危険性、(オ)制御棒挿入に係る危険性、(カ)基準津波策定の合理性、(キ)火山事象の影響による危険性、(ク)シビアアクシデント対策の合理性、(ケ)テロ対策の合理性――の9項目に整理。
そして、この5分野9項目のうち、たった1項目を除いて、伊方原発の運転を差し止める仮処分の根拠になるものはないと断定した。それが、火山の影響だ。
現在の火山学の知見では、阿蘇カルデラの火山活動の可能性が十分小さいと言えず、噴火規模の推定もできないことから、約9万年前に起きた過去最大の噴火VEI7を想定して、伊方原発の立地の適切性を評価せざるを得ない、と決定は指摘。
四国電力が行った地質調査や火砕流シミュレーションから、火砕流が原発の敷地に到達する可能性が小さいと言えないので、原発の立地として伊方原発は不適切だと断じたのだ。
加えて、下級審が、そのような規模の噴火が原発の運用期間中に発生する可能性が示されない限り、安全確保策を示さなくても問題ないと差し止め請求を棄却したのは誤りで、司法がそのような限定的な解釈をすることは許されないとも述べている。
さらに、立地が可能とされた場合、検証することになっている噴火の影響評価でVEI7より1ランク低いVEI6の最小噴火を想定しても、四国電力が想定した大分県の九重山(伊方原発から約108km)の約5万年前の噴火(九重第一軽石)ではなく、阿蘇カルデラ(同約130km)の噴火を検証すると、マグマなどの噴出量は四国電力の想定のほぼ2倍になるので、伊方原発が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断は不合理だとも決めつけている。