ある日とつぜん、愛用のペンが買えなくなったら…
ある愛用品が廃番になると聞いてあわてて買いに走った、という話をたまに聞く。
日々新製品が世に出る以上、うらでひっそりとなくなっていく商品もあるだろう。そしてその商品を日常的に使っている人もまたいるのだ。 とくに文房具というとあたらしい商品から次々出るイメージだ。淘汰で廃番になる商品も多いのではないか。 と思って文具マニアに事情を聞いたところ文具廃番ストーリーが思った以上に熱かったのでぜひお伝えしたい。 今から、ハサミを買い替えたくなって使ってるペンの販売状況が気になりだす魔法をかけます。
1979年東京生まれ、神奈川、埼玉育ち、東京在住。Web制作をしたり小さなバーで主に生ビールを出したりしていたが、流れ流れてニフティ株式会社へ入社。趣味はEDMと先物取引。
前の記事:「古いCMでしか知らながちな店レッドロブスター」 人気記事:「決めようぜ最高のプログラム言語を綱引きで」 > 個人サイト まばたきをする体 Twitter @eatmorecakes 愛用品が廃番になって「人生が超不安」今回お話をうかがったのはデイリーポータルZでも活躍しているライターのきだてたくさん。
ご存知の方も多いと思うが、きだてさんは「色物文具専門サイト イロブン」というちょっとどうかという色物の文具をあつめたサイトを主催している。 とはいえ色物だけではなく文具全般に詳しく著書多数、その道の有識者だ。 実は私が文具の廃番を意識するようになったのがそもそもきだてさんの話を聞いてのことなのだった。
きだてさん、廃番になって困ってるペンありますよね、買い占めたってツイッターで見ました。
はい、これですね。
ゼブラのペンポッドっていうんですが、もうだいぶ前に廃番になりました。 写真下がペンポッド。ちなみにの上のも廃番品である…。
廃番なのによく落としちゃうんだと聞いてどういうことなんだと思って。
そうなんです笑。下が落ちちゃうんですよね。
このペン、キャップのなかにバネでちぢめた状態で入ってるんです。回して開けるんですが、開けるつもりがないときにポケットにひっかかって回っちゃって飛んで落ちちゃう。 ペンを回してキャップに押し込んで収納する。逆回転すると飛び出てしまうのだ
あれっ!? からんからん音がする(ペンの内部がなくなったのでカラカラ音がする)ってて気づいたときにはもうない!っていう。
す、すみません。落ちがちって不便…ですよね。それでも愛用するのってよほど書き心地がいいんですか?
ボールペンを持ち歩くのにこれが一番コンパクトに持ち歩けるんですよ。
ぼくは手帳を使わないので手帳にペンを刺さないんです。でもちょっと何か書くことって多いでしょう。携帯のストラップにつけるのが一番便利なんです。 ストラップにつけるペンとしてはこれが一番優秀で。もっと小さいのはあるんですけど、ちょっと書きにくくて。 手にもってかけるぎりぎりの長さで、しかもこれのリフィルは4Cっていう一般的な規格のリフィルが入るのも良いんです。
おおなるほど、中の芯が変えやすいんですね。
これ下がなくなるってことは上のキャップの部分はたくさん持ってるってことですか。
そうそう!で、下の部分がちゃんとあるのはもうあと10本切っちゃったのかな…。
在庫状況の写真も見せてもらった。これで最後…!
不安ですか、やっぱり。
超不安ですよ!
残り10本で人生フィニッシュしなくちゃいけないんだ。
もうなくなったらどうしていいかわからないですよ…。
小さいペンってこれ以外にもたくさん売ってますよね?
でもそれは小さすぎて中芯が独自規だったりするんですよ。これなんかだと、ペンの部分を落としてなくさなければインクが切れても使い続けられるんです。なくさない限りは。
廃番になったってきいたとき結構リアルに膝がかくかくってなりました。
あ、リアルに体がこの形になったんですね → orz
人生をあゆむなか、どうしていいかわからなくなって膝から力が抜けるなんてそうあることじゃない。常用のペンが廃番になるというのはそういうことなのだ。
しかもそれがもう一種類ある。 廃番の困惑をなめていてすみませんでした
これ、アメリカのシャーピー ミニっていってストラップにつけられる油性マーカーですね。これもぼくが使ってるオレンジ色が廃番になったんです。
黒と赤は定番で残ってるんですが…。 こちらもあるだけ買ったそう
なんでオレンジ色が必需なんですか?
もともとぼくがやっていたイロブンというサイトのテーマカラーがオレンジ色でよく使うんですよ。
でもこれはキャップだいぶかたいですし落ちることはなさそうですよね?
落ちることはないんですけど、これ油性ペンでインクが中綿式なんです。
インクが切れたら終わりなんですよ…。 そのペンを使わせてもらって感嘆の声をそのまま書いた
なんというか、わざわざ呼び出して話を聞いて申し訳ないという思いでいっぱいになってしまった。
ひとことでいうと「不憫」なのである。 廃番で困るということをちょっとなめていた。きだてさんは本当に困っているのだ。 愛用品の廃番を知ったら初動がだいじお困りの話をあれこれ聞くのも気が引けるが、とはいえ興味深い世界だ。
愛用の文房具が廃番になるというのはどうやって知るんだろう。 新商品の発売はいつもはなやかだが、その裏でひっそりなくなっていくのが廃番品だろう
廃番になるってどうやって情報が入ってくるんですか?
気づいた人が教えてくれたり、あとは追加で買おうとしたら「販売終了」ってなってて、わっ!っていうパターンですね。
気づいたらすぐにネットまわってあるだけ買います。気づくのが遅いともう全部なくなっちゃうんですよね。気づいた瞬間が大事です。
そういえば廃番になるって聞いて買い集めるって、化粧品もそうですね…!
化粧品はたまにドラッグストア「これ廃番になるのでもうこれを逃したら買えません」ってポップがついてるのを見ることがあります。
あおるんですね! 文具ではそういうこれ廃番になるから買うなら今!っていうのは見たことないです。
静かに姿を消していくんですね…。
じゃあアンテナはりめぐらせてないとやばいんですね。 なんとなく不安になって自分が使っている化粧品の販売状況を調べてしまった(大丈夫でした)
なくなった時に買おうとしても遅いんですよ。
廃番になるって聞いて膝から力がぬけたときも5分くらいで立ち直ってもう店めぐりですよ。 取り扱ってる店も少ないから大きい文房具屋さんまわって、あとはわりとホームセンターに残ってたりしましたね。
きだてさんはコレクターでもあるじゃないですか。やっぱり使う分とコレクション分も分けて持っておきたい…ですよね。
のこり2本になったらもう使わないかな…。
ハサミは市場が温まりすぎて廃番が増えているさらにこれもいま大変なのだというハサミを見せてくれた。そもそもハサミはいま市場が熱いらしい。
シリコンのゴムが柄で2重になっている
持ち手に入れた手が痛くなりにくいんです。すごく便利なんですけど、でも2重になっているシリコンの部分が柔らかいからちぎれやすいみたいなんですよね。
それで次のモデルが「エアロフィットサクサ」から「サクサ」になったんです。2重ハンドルがなくなってシンプルなハンドルにかわっちゃって。 まだ一応エアロフィットサクサのほうも店頭では見かけるんですけど、もう在庫がなくなり次第消えていく予定だとコクヨに確認しました。
電話して?
電話して。
電話するんだ!
電話しますよ!
エアロフィットサクサは手が全然痛くならなかったんですごく使い良かったんですよ。刃もよく切れる刃で。ガチに使い込んでいたんですけど…。 はさみはいつも雑に使って刃がわるくなったら買い替えるんです。これで3本目だったんです…。
えっ? ハサミをリピートするんですか。
しますよ!
ところで、コクヨはハサミの型番が「ハサ」!かわいい!(それどころではない)
わたしハサミを積極的に買い替えたこと今までの人生であるかな…。
こだわりないのであるのを使っちゃうんですよね…。
えっ…!? ちゃんと買いなさいよ!笑!!
たくさんあるんならいいですけど、おんなじのを使い続けるのは良くないですよ。 ガムテのべたべたが刃についたり切れ味どんどん落ちますから。 刃物ですから切れないものは危ないんですよ。無理に力入れすぎたりすると。ハサミはかえたほうがいいですよ!買おう!
わ、わかりました…。というか、そもそもハサミってそんな種類あってリニューアルしてって世界なんですね…。
もう進化しきって何も起こってないと思ってました…。 業界の革命児、フィットカットカーブ
それまで日本人ってハサミ買い替えない民族だったんですよ。
日本がというか世界的にも多分だいたい同じかもしれないんですが…。 だいたい定番でアレックスってブランドの事務用ハサミというのがあって多分古賀さんも使ったことあるんじゃないかな。これ。見たことはあると思う。 見たことあるある!
これが1973年に出て、そこからもう40年ちかく日本のザ・はさみだったんですよ。どの家庭にも1本あるような。
いいハサミなんですよ。なかなか切れ味も落ちないし。それでみんなこれを使い続けちゃっていたんですけれども。 でもフィットカットカーブが人気になったおかげでみんなここからフィットカットカーブに買い替えて、あ、ハサミって買い替えればちゃんと切れるんだって気づきが広まったんですよ。 で、それ以降メーカーがどんどんハサミの新製品を投入するようになって。
すごい、ハサミ業界が急にあったまってきたんだ。
そうなんです、2012年以降熱い業界なんですよ。
ハサミなんて進化終了だと思ってましたよ。
そんなにみんな切りたかったのか。
なんでしょうねえ、これだけ新製品が出ると買い換えなくちゃ!っていう雰囲気にはなりますよね。
文房具屋さんでもちょい端っこのほうで目にはつかないんですが、実は意外と熱いんです。
なるほど、そうなると市場に商品がどっと増えて、その結果廃番になる商品も増えて。
そうですね、市場が盛り上がってきたからこその淘汰みたいなことが起き始めてますね。古いバージョンはどんどん廃番になる。
じゃあボールペンとかは、市場が常に盛り上がり続けているからもう延々と淘汰が繰り返されてる感じなんですかね。
ボールペンはハサミより使う人、パイが大きいんで。レアなものも数は出るからマイナーでも生き残りやすくはありますね。
ハサミはパイ少なそうだなー!
みんな買い替えはじめてますよ!古賀さんも買い替えましょうよ!
愛用のペンが売っていないんです! という相談ハサミがまさか2010年代になって熱いことになっているとは知らなかった。
さて、ペンはハサミよりもパイが多い分マイナーなものも生き続けやすいという話だったが、しかし意外にふと廃番になることもあるそうだ。
この前知り合いから久しぶりに連絡があって。
彼が7年間愛用しているボールペンがネットで急に買えなくなったけどどうしたことかというんです。 きだてさんのように有識者ともなるとこういった相談が来るのか
普通のよくあるボールペンなんですけどね、ちょっと調べたら廃番になってたんです。ぺんてるのハイブリッドテクニカというやつ。
この返信のあとには最大級に「えーっ!」という感じのスタンプが返されていた
廃番みたいだけどまだここで買えるからって売っているところを紹介して。彼もありったけ買ったみたいです。
初動が早かったため間に合った
7年も共に歩んで、これからも人生一緒にやっていこうなっていうボールペンなんですね。
つらい選択ですよ。
新製品使ったほうが幸せになれるのは分かってるんですけどね、でも手がもうおぼえちゃってるから。仕方ないっちゃ仕方ない。 もう廃番だから新製品に変えなよ、こんないいペンが出てるよって紹介する立場なんですけど、自分も廃番のペン愛用してますからね…。
でもこういういかにも普通のボールペンが急に廃番になったりするのか…。
ボールペンっていま業界そもそもどんな感じなんですか。トップ銘柄ってどれくらいあるんですか。 こちらは編集部橋田さんの3色タイプのフリクションボール3。見回すと確かにそこらに転がっている
フリクションって禁止されたりもしてるのに!(摩擦で消せるボールペンなので、証書類には使えない)
ベトナムは確かフリクション輸入禁止じゃなかったかな。公文書偽造のサギみたいなことがおきて。
それでも1億本以上売れてるのか…。
ボールペンって死ぬほど種類があるなと思っていたが2ブランドが圧倒してるとは
「新製品を使った方が幸せになれる」実感のこもった名言が出てしまった。圧倒的な2銘柄という存在感もありだまらされる。
あの人と一緒になったほうが幸せになれることは分かっている、でもどうしても昔の恋人が忘れられないの。恋も文具も同じである。 と、世の中つらいことばかりよね…と記事が終わりそうになったが廃番が回避される美しいストーリーというのもあるらしい。 次ページ、伝説が語られます。
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