タニタの谷田千里社長 体重計や体組成計などの測定器具を製造・販売する、はかりメーカーから健康にまつわる総合事業を手がけるようになったタニタ。累計で500万部を超えるヒットとなったレシピ本からタニタ食堂が生まれ、今では企業・自治体向けに「健康プログラム」も提供する。次々と新しいビジネスを生み出してきた谷田千里社長に、どのように人材を育成しているかを聞いた。
■失敗を通じて成長
――タニタ食堂もタニタ健康プログラムも、社長の強いリーダーシップで生まれたビジネスのようですが、かなりトップダウン型なのですか。
「もともとは、これで行くぞと自分で方向性を決めてガンガン引っ張っていくタイプでした。ところが08年に社長に就任してから2年目に肺炎でダウン。医者からは『こんな肺炎球菌にやられるなんて、よほど体力が衰えてますね』と言われました」
「1週間入院して、熱にうなされながら『いままでのハイペースで行くと死ぬんだな』というのが身に染みて、そこから徐々に人に任せるようになりました。12年と14年に子どもを授かり、なんでも自分でコントロールできるわけじゃないんだ、ということを実感したのも大きかったです」
「基本的に、失敗するのがわかっていても、経営的によほどのダメージがない限り、やらせようと考えています。やはり人間は失敗からしか学べないことも多いし、失敗を通じて成長しなければ、次につながらないですから」
■ラクする方法を考えよう
――谷田社長は「一粒で2度、3度おいしい」が人生訓でありビジネスの発想もそこからと話していましたが、社員にも同じことを言っているのですか。
「要するに私は怠け者で、ラクしたいというのが根底にあるんですよ。どうせやるんだったら、一粒で2、3度おいしいほうがラクでしょと。基本的に怠け者の方がよく働くんじゃないかというのが私の持論です」
「例えば、注文書を見て入力→センターに発注→在庫を確認→発送の手配という流れの仕事があったとすると、ラクしたいと思えば、どこかプログラムを書いて自動化できるところはないか、ボタン一つ、ポチッとすれば終わる方法はないか、とか必死に考えるでしょう。結局、怠け者ほどいろいろ頭を使うんです」
「社員には『生産性を上げろ』というより、『ラクする方法を考えようよ』と言ったほうがやる気も出ます」
谷田氏は「怠け者は、ラクしたいから必死に考える」と話す 「とりあえず失敗しようが何かやらせてみる。たとえ、表面的にはなんとかうまくいったとしても、やってみる過程で何かしら『嫌だな』と思うことって必ずあるんです。それを見逃さないことですね。私が気付けば、そこを徹底的に突っつく。すると芋づる式に問題が『見える化』されてくるので、それを一つひとつ解決していく。その流れを繰り返す中で、ふとした瞬間に新しいアイデアが浮かんできたりします」
「私の役割としては、社内を回って『去年と同じやり方してるんじゃないの?』と問いかけをしたり、ちょっとでも『あれ?』と思うことがあれば、なんでそんなことになっているのか芋掘りをしたりしてみる。その後の修正は現場に任せて、時々フォローアップするという感じですね」
■チャレンジする姿勢、見せて巻き込む
――新しいビジネス展開を考えられる人材を育てるため、特に意識していることはありますか。
「チャレンジする姿勢を自分自身が見せて、あなたたちもできるよね、というのを繰り返すしかないと思っています。タニタ食堂にしても、メーカーなのに飲食業という全く畑違いのところに出ていくなんてやめたほうがいいと最初は社内で大反対されましたが、そこにあえてチャレンジしたわけです」
「自分が社長室にどっかり座って、『何か新しいことやれ』と指示するだけじゃダメで、自ら動いてやってみせる。さらにやる気のある若手を、例えば秘書だとか自分に近いポジションに据えて、どんどん巻き込んでいくようにしています」
「タニタの行動指針の最初にある言葉は『人生万事因己』(じんせいばんじおのれがもと)です。他責の心を捨て、自ら進んで状況を改善し、周囲に影響を与えていきましょうと。部下ができないのを『あいつはダメだ』と批判してないで、自分自身の指導方法を見直そうよというのは、常日ごろから言っています」
■ポケモンGO好きが高じて新ビジネスに?
――社長は遊び心があり、特にポケモンGOにはまっているとか。ゆるさで有名なタニタの公式ツイッターでも「社長がファイヤー(ポケモンGOの有名キャラクター)をゲットするために人を集めろと申しております」というつぶやきが話題になったりしていましたが。
タニタ食堂のレシピを検索できるアプリもある 「確かに楽しくやってます。人から見ると、社長は遊んでるように見えるでしょうが、実はこれが営業につながることもあります。まあ私が抜け目ないのかもしれないですけど(笑)」
「(ポケモンGOを開発した)ナイアンテックの日本支社長にもあいさつに行きましたし、いま、ポケモン社の社長にも会わせてもらいたいとお願いしてまして、うまくいけばトップ同士で会えて、新しいビジネスが生まれるかもしれません」
「例えば弊社は企業や自治体向けに『タニタ健康プログラム』というサービスを提供しています。お客様の日々の活動量を計測したデータや、血圧計や体組成計のデータを集めて『見える化』し、食習慣や運動習慣を見直すようアドバイスするものです」
「その中で、毎日の歩数やモチベーションアップにつながるイベントを開催したりもしているんですが、そこでポケモンGOを活用する方法もあるんじゃないかと」
「何しろポケモンGOの人を歩かせる効果は絶大ですからね。トップ同士の会談で、データ連携ができないかとか、そういう話に発展するチャンスを虎視眈々(たんたん)と狙っているわけです。遊びながら仕事につながれば、こんなに楽しいことはないと思いませんか」
「だから社員にもどんどん遊べと言っています。今はやっと会社全体として少し余裕も出てきている状況なので、参考品を買ったりもできますし。やはり自由な発想が生まれるためには、遊びの精神を取り入れて楽しく仕事ができること、そして意見をどんどん言える雰囲気が大事だと思います」
谷田千里
1972年大阪府生まれ。調理師専門学校卒業後、佐賀大学理工学部に進学。船井総合研究所を経て、2001年タニタ入社。05年タニタアメリカ取締役、08年より社長
(石臥薫子)
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