生肉・生レバーは厳禁! E型肝炎ウイルスから身を守る

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2016090225

ジビエ料理がじわじわと人気を集める中、生食を口にしてE型肝炎を発症する人が増えているそうです。

飲食店が牛のレバ刺しや豚の生肉を提供することは禁止されていますが、それでも生食を口にする機会は求めれば得られる現状があり、ジビエ肉のブームもあって、E型肝炎ウイルスに感染する可能性は日常に潜んでいると言えます。

どうすればE型肝炎ウイルス感染を防ぐことができるのか? 動物ウイルス感染症などを研究する前田健 山口大学共同獣医学部教授にE型肝炎ウイルスに関する最新報告をまとめていただきました。主に狩猟者や獣肉の取扱者に向けた内容となりますが、生食に関する理解を深める一助となるものなので、一般の方もぜひご覧いただければと思います。

 

※本稿は『けもの道 2017年秋号』掲載の前田健 山口大学 共同獣医学部 教授による寄稿文を転載したものです。

はじめに

2003年に兵庫県でシカ肉を食べた4名がE型肝炎を発症し、シカ肉から検出されたウイルスと、患者から検出されたウイルスが一致したことから、シカ肉が原因であると証明された。これにより当時はシカが注目されることになったが、調査が進むにつれて、E型肝炎の主な原因は豚やイノシシであることが判明して来た。

これまでの野生動物肉から由来する食品媒介感染症の原因の多くは細菌や寄生虫であったため、「凍らせれば大丈夫」「薄く切れば大丈夫」という考えがあったのは事実であるが、その考えは間違いである。E型肝炎ウイルスは非常に強いウイルスのため、凍らせてもウイルスが不活化することはない。ただし、不必要に恐れることはない。

E型肝炎ウイルス感染を防ぐためには、肉にしっかり火を通すことである。そして狩猟者はもう一点注意していただきたい。それは、解体の際の手袋の着用である。

以下、本稿ではE型肝炎に関する詳細を紹介する。

1. E型肝炎とは

E型肝炎は、A型肝炎(海産物などから感染:流行性肝炎)やB型肝炎(性行為や血液によって感染:血清肝炎)などしか知られていなかった時代は、「非A非Bウイルス性肝炎」と呼ばれていた。その後、C型肝炎、D型肝炎と相次ぎ、さらにE型肝炎の発見となった。

1999年には急性ウイルス性肝炎の一部として指定され、当時、E型肝炎は上下水道のインフラが整っていない国々で大規模な流行を起こしており、飲み水などを介した感染および開発途上国での感染として理解されていた。

世界保健機関(WHO)の報告では、世界中で2,000万人が感染し、330万人が急性E型炎を発症、56,600人がE型肝炎に関連して死亡している。その多くが開発途上国で発生している。

2. E型肝炎は食品を介して感染

2003年以前、E型肝炎は食肉を介して感染するという理解はされていなかった。国内でも発生はあったが、多くが海外で感染したと理解されていた。しかし冒頭のとおり、2003年に兵庫県で4名のE型肝炎患者が発生し、患者が食べたシカ肉から患者と同じウイルスが検出されたことから、E型肝炎は食品媒介性感染症として認識され、国内では感染症法の4類感染症として指定された。

図1では国内での患者報告数を示しているが、急激に患者報告数が増加している。この急激な増加は、牛レバー、豚肉、豚レバーの生食が禁止されたため、イノシシ肉やイノシシのレバーの生食をする人が増えたため、とも言われている。

3. E型肝炎の感染源

E型肝炎の国内感染例の主な原因は、豚肉、次いでイノシシ肉、シカ肉である。豚肉は原因が判明したものの約半数、イノシシ肉は約4分の1、シカ肉は7分の1となっている(図2)。

E型肝炎の感染源の特定が難しい理由は、潜伏期間が約6週間であることが大きい。すなわち、E型肝炎ウイルスに汚染した食品を食べてから、症状が出るまで6週間かかるのである。6週間前の食品を特定するのは極めて困難である。

3. E型肝炎の感染事例

E型肝炎の原因となる食品の特定は難しいが、原因が特定された感染事例を表1にあげた。

国内各地で発生があり、イノシシ、シカ、豚の肉あるいはレバーの喫食が原因となっている。集団発生であったため、原因食品が分かりやすかったのだろう。山口県の患者から検出された遺伝子は、我々の調査地のイノシシから検出されたウイルスと酷似していた。

5. E型肝炎ウイルスの感染環

日本国内でのE型肝炎の感染環は2種類である(図3)。

自然界ではイノシシの間で、養豚場では豚の間で維持されている。おそらく、糞便中に排出されたウイルスが経口的に他の動物に広がっていくと考えられ、感染したイノシシ肉や豚肉を非加熱あるいは不十分な加熱の状態で喫食することによりヒトが感染する。

感染した人の多くは無症状のまま終わるが、一部は約6週間経った後に発熱、倦怠感、食欲不振、黄疸、腹痛などの症状を呈する。致死率は1%前後であるが、妊婦では20%の高い致死率が報告されている。

6. イノシシの感染状況

我々は、日本全国のイノシシのE型肝炎ウイルス感染状況の調査を実施している。その結果、イノシシの約6頭に1頭はE型肝炎ウイルスに感染した経歴を持っていることがわかった(表2)。

一方、シカは826頭中1頭しか陽性がいなかった。このことからも、自然界ではイノシシがE型肝炎ウイルスを保有・維持していることが証明される。

表3では地域別の陽性率を示している。山口県の下関市では449頭中127頭(28.7%)が陽性であった。多くの県でE型肝炎ウイルスに感染したイノシシが存在していることが分かる。地域によっては50%以上が陽性となっている。すなわち、ほとんどの県でE型肝炎ウイルスが存在しているのである。

イノシシの体重別にE型肝炎に対する抗体の保有率を比較した結果、30㎏以下のイノシシは抗体陽性率が10%前後であるのに対して、31㎏以上のイノシシは40%前後となっている(図4)。これは、30㎏前後の子イノシシがE型肝炎ウイルスに感染していることを意味している。

 

7. 50頭に1頭のイノシシがウイルスを保有している!

表4はイノシシの血液中にいるウイルスを検出した結果である。

852頭調べた結果、18頭が陽性であった。これはおよそ50頭に1頭の割合でイノシシがウイルスを保有していることになる。また、血液中にウイルスがいることは、全身にウイルスが分布していることを意味する。すなわち、肉にもウイルスが分布している証明となる。

さらに、血液中のウイルスが検出されたイノシシの個体情報を見てみると、30㎏以下のイノシシがほとんどであった(表5の青色)。これは、30㎏以下のイノシシは特に危険であることを意味している。

8. イノシシより豚の方が危険

イノシシが危険であると述べて来たが、豚の方が危険であることを付け加えたい。国内の豚のE型肝炎ウイルス検出率と抗体保有率を調べた報告がある。

 

図5のように4ヶ月齢以上の豚はおよそ90%が抗体を保有しており、3ヶ月齢と4ヶ月齡の子豚の10%以上が、現在、E型肝炎に感染していることになる。このことは、国内の豚のほとんどが、子豚の頃にE型肝炎ウイルスに感染していることを意味している。

出荷される豚は、6ヶ月齡前後で出荷されているので、E型肝炎ウイルスは既に体内から消えているので安全であるという理屈であるが、市販の豚肉からもE型肝炎ウイルスは検出されている。

私はイノシシ肉より豚肉の方がより危険性が高いと考えている。当然、豚肉、豚レバーの生食は禁止されている。

9.狩猟者の感染リスクは高い?

表6に養豚従事者と対象者のE型肝炎に対する抗体保有率を比較した報告を示した。

陽性率で比べると、台湾およびアメリカでは養豚従事者が対象者に比べて3~4倍、E型肝炎ウイルスに感染していたことが証明された。これは養豚従事者がE型肝炎に感染しやすいこと、すなわち、食べること以外にも感染経路が存在していることの証明になる。我々は狩猟者もE型肝炎ウイルスに感染しているかを調査した(表7)。

28.3%のイノシシが抗体を保有している地域の狩猟者のE型肝炎ウイルスに対する抗体の保有率を調べた結果、3人に1人がE型肝炎に感染したことがあることが判明した。高齢者の一般日本人の抗体保有率が10人に1人という報告があり、狩猟者は一般の人よりもE型肝炎ウイルスに感染していることになる。

狩猟者が、イノシシ肉を食べる機会が多くて感染しているのか、イノシシの解体の際に感染しているのかは分からない。しかし、ヨーロッパでは解体の際に手袋をすることによってE型肝炎ウイルスの感染リスクが減少するという報告がある。イノシシの取り扱いの際は手袋の着用が感染の防止に重要である。

10. まとめ

イノシシはE型肝炎ウイルスに感染している。シカもその確率は低いながらも感染している可能性がある。E型肝炎ウイルスの感染を防ぐための注意点は次の2点である。

  • 野生獣肉の生食は絶対しない!
  • 野生獣の解体の際は手袋着用!

狩猟者本人のみならず、家族・知り合いを守るために、心がけよう。

【謝辞】イノシシ・シカのサンプルを提供していただいた狩猟者の皆様、採血に協力していただいた狩猟者の皆様に深謝します。本内容の一部は、厚生労働省の科学研究費によって実施されました。

▼転載元『けもの道 2017年秋号』はこちら

 

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