間違いだらけのドイツ再エネ政策批判
9月24日のドイツ連邦議会総選挙を間近にひかえて、おとなりフランスでもドイツの政策に関心が高まっています。とくにフランスと対照的なドイツのエネルギー政策は関心の的。ふつうのフランス人が抱いているソボクなギモンに、ドイツ事情に詳しいフランス人ジャーナリストが答えています。日本でもよくあるギモンなので、以下紹介しましょう(要約)。
エネルギーシフトはドイツの産業計画そのもの
Q: 今年5〜6月に行われたフランスの選挙では、環境とかエネルギー、気候変動はほとんど争点にならなかったけど、ドイツではどうなの?
A: ドイツの方が中心的な争点になっているけど、テーマによってバラつきがあるね。エネルギーシフトと温暖化ガス削減は、もちろんそれぞれ立場は異なるけど、どの党も政策綱領で大きな比重を置いている。エネルギーシフトは、まさに21世紀ドイツの産業政策そのものだからね。
それに引き換え、生物多様性の危機はほとんど取り上げられていない。アンゲラ・メルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU-CSU)の綱領なんて、この問題についてはメチャメチャだからね。
Q: ライン川のこちら側[フランス]では、ドイツのエネルギーシフト政策について「ドイツの脱原発は石炭火力やフランスの原発を増やすだけだ」とか、「再生可能エネルギーはバカ高いから、ドイツの家計が圧迫される」とか、いろいろ批判がされていますよね。こういう批判は当たってる?
1次エネルギーに占める再生可能エネルギーの比率(% 緑:フランス 赤:ドイツ 茶:EU28カ国平均)
A: 全部ハズレてる。福島原発事故のあともドイツの石炭火力は増えるどころか、減ってるんだよ。2011年以降、原発が9基閉鎖され、電力の純輸出量(総輸出量から総輸入量を引いた量)も3倍に増えたのに、石炭火力は0.5%減っている。「石炭火力が増える」というのは、フランスの原子力村がばら撒いているデマです。
「ドイツが再エネにシフトできるのはフランスの原発のおかげ」というのもウソ。ドイツには従来型発電所(火力+大規模水力)が100GW(1億kW)近くあるほか、再エネも97GW(9700万kW)ある。他方、国内電力需要は80GW(8000万kW)を超えたためしがないから、余裕で満たせる。むしろ、厳冬期にフランスの電気暖房がフル稼働できるのはドイツの石炭火力のおかげなんだよ。フランスはドイツからの電力純輸入国なんだ。
電力に占める再生可能エネルギーの比率(% 緑:フランス 赤:ドイツ 茶:EU28カ国平均)
あと、再エネが「バカ高い」というも間違い。たとえば、家計に占める電気料金の割合は1990年の2%から2016年の2.3%に増えただけ。風力や太陽光の発電単価もどんどん下がっていて、このあいだの再エネ支援助成金の落札単価[ドイツでは再エネ支援策に入札制度が導入されている]は風力が€0.0571/kWh(7.41円/kWh)、太陽光が€0.0566/kWh(7.35円/kWh)だった。これは、現行の安全基準を満たす新設原発の発電単価の半分だ。結果、再エネ支援賦課金が今後増えることはほとんどなく、2022年以降は支援期間が終了する再エネ施設が順次出てくるから、賦課金は減っていくことになる。
Q: ドイツは2020年以降の温暖化ガス排出削減目標を達成できるの?
A: いまのところはムリ。ここ3年間はほとんど減っていない。2016年末段階で1990年比-28%まで減らしたけど、あと3年で-40%まで減らすには総選挙後に見込まれているよりも多くの石炭火力を閉鎖しなければならない(CO2を減らすには石炭火力をなくすのがいちばん手っ取り早い)。技術的には可能だし、ドイツの発電容量は過剰なんだけど、政治的に難しいんだね。閉鎖する石炭火力の地元のためにしっかりした雇用対策が必要になるから。
政府の具体的な対策は2018年半ばまで待つ必要がある。電力だけでなく、自動車の対策も必要。運輸部門の排出量は1990年からまったく減っていないからね。でも、長期的にはドイツの電気・熱・移動用エネルギーを100%再エネでまかなえることは、多くの専門家が示している。
出典: Vincent Boulanger, ENTRETIEN «La transition énergétique est LE projet industriel pour l’Allemagne», 01/09/2017, ALTERNATIVES ECONOMIQUES, N°371